第6話 歓迎会と言う名のランク付け(前編)

(ここまでのお話)

普通のOL・三城加奈は乙女ゲームの悪役令嬢ルイーズとなってゲーム世界に転生した。

彼女の目的は『ルイーズの破滅エンドを回避させる』こと。

ゲームのストーリーを知る加奈は、破滅エンドの原因となる正ヒロイン・シャーロットととのトラブルを回避しようとする。

だが学園にやって来たと同時に、シャーロットとトラブルを起こし、破滅フラグを立ててしまう。

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「はぁ~」


ここはレイトン・ケンフォード学園の女子寮。

そこで私は与えられた個室に着くなり、その豪華な天蓋付きベッドに身を投げ出した。


ちなみに個室とは言っても、リビング、メイン・ベッドルーム、サブ・ベッドルーム、簡易バスルーム、トイレ、メイド室、簡易キッチンと、一通りは揃っている豪華な部屋だ。現世なら一流ホテルのスイート・ルームくらいはあるだろう。


「お嬢様、夕食の歓迎会のドレスはどれにいたしましょうか?」


アンヌマリーが私の機嫌を伺いながら、そう尋ねる。


「悪いけどそれ、もうちょっと後にしてくれる? まだ歓迎会まで時間はあるでしょ。今はそんな気分じゃないの」


「……失礼しました」


彼女は少々恐縮した感じで、そのままベッドルームを出て行こうとした。

そんなアンヌマリーを私は呼び止める。


「ねぇ、アンヌ。さっきの馬車での一件、あなたはどう思う?」


アンヌマリーは「えっ」と言うような顔で振り向いた。


「さぁ、私には上流貴族のしきたりやお考えは解りませんので……」


私はウンザリしながら上半身を起こした。

やっぱりルイーズは、アンヌマリーにも心を開かれていない。


「そんなタテマエはいいわ。あなたが感じたままを聞かせて欲しいの」


彼女はしばらくモジモジしていたが、やがて小さめの声で話し始めた。


「恐れながら……シャーロット・エバンス・テイラー様は小さいとは言え、リッヒル王家のご血筋。確かに現在のリッヒル王家には民も領地もごく僅かでしょうが……その方が大国の公爵家とは言え、御者に怒鳴りつけられたり、頭を下げている所に泥を被せるのはあんまりかと……」


「アンヌ……」


私が一声、そう言っただけで、アンヌマリーは慌てて頭を深く下げた。


「も、申し訳ございません! お嬢様! わたしごときが差し出がましい事を……どうぞお許しください!」


そのままにしておいたら、彼女は土下座するんじゃないかと思うほど、必死に頭を下げ始めた。


「ううん、怒っている訳じゃないの。ただ……そう、あなたにもそう見えたんだ。私がシャーロットに泥を引っかけたように……」


アンヌマリーが私の顔色を伺うように、少しだけ顔を上げる。


「あの……私もお嬢様が泥をかけた瞬間を見た訳ではなく……ただあの場の状況からそう判断したとしか……」


私はまたもや小さくタメ息をつく。


「もういいわ、アンヌ。歓迎会までの時間、少し休ませて頂戴」


私がそう言うと、彼女は再び深く頭を下げて、ベッドルームを出て行った。

仰向けにベッドに横たわる。そして豪華な装飾が施された天井を見つめた。


(最悪だ。さっそく『ルイーズ破滅エンドのメインシナリオ』に足を踏み入れてしまった……)


そう、このスタート時の第一イベントは『フローラル公国の黒薔薇』の第一幕と言ってもいい。

ヒロインのシャーロットは遠路を一般市民の乗り合い馬車によってレイトン学園までやって来る。

だが学校の正門を入った所で、ルイーズの馬車に轢かれそうになる。

馬車を急停車させられた事で怒ったルイーズは、多くの学生がいる面前でシャーロットを罵り侮辱する。

そこをルイーズの許嫁でもあるエールランドの公爵家の長男・アーチー・クラーク・ハートマンが現れて彼女を庇う。

シャーロットの境遇にアーチーは同情し、二人の間に恋心が芽生えるのだ。


その結果、大陸全土を革命の嵐が吹き荒れた後、その旗印となったシャーロットと最大の支援者アーチーは、ルイーズをギロチン台に送るという結末を迎えるのだ。


(ゲームではこのイベントは学園の敷地に入ってから起きるはずだったしな。完全に油断していた。そもそもゲームではルイーズが学園に来る前なんてシーンはない訳だし……)


知らぬ内に右手で目を覆っていた。


(しかもシャーロットに泥をひっ被せるなんて、ゲームよりタチが悪いじゃない)


だがそこで一つの事に思い当たった。

そう、この展開はゲームと似ているが微妙に違う。

つまり何から何までゲームと一緒と言う訳ではないのかもしれない。


(とすると、ルイーズが破滅エンドから逃れる方法も、あるかもしれないわけね)


少しだけ気が楽になった私は、手足を大の字の伸ばして今後の作戦を考える。

方針としては二つだ。


一つ目はシャーロットとの関係改善。

仲良くなれば、革命が起こっても彼女から死刑や追放を宣告される事はない。


(だけどこの策は、第一歩から躓いたんだよね)


二つ目の方法は、シャーロットおよび彼女と結び付く予定のイケメン男子たちには関わらない事だ。


『フローラル公国の黒薔薇』は乙女ゲーなので、当然ヒロインのシャーロットを取り巻くイケメン王子様が複数存在する。

代表的なのは五人だ。


第一のヒーローは既に登場しちゃってくれた、アーチー・クラーク・ハートマン。

エールランドの公爵家の長男。王位継承権も第七位ながら持っている。

実際会ってみるとヨダレが出そうな美少年だったが、今はそんな事を考えている場合ではない。


第二のヒーローは、ガブリエル・マルセル・バロア。

彼は聖ロックヒル正教の大司教の息子だ。バロア家は代々大司教を排出している名門中の名門。そして聖ロックヒル正教は世界各国に信者がいて、フローラル公国にもエールランドにも負けない富と権力を持っている。


第三のヒーローは、ハリー・レット・マグナー。

海運王の息子。彼の家は商人ながら爵位を持っていて、全ての国に独自のコネと情報網を持ち、国に捕らわれない財力と権力がある。さらには独自の海軍さえ持っていると言うから驚きだ。


第四のヒーローは、ジョシュア・ゼル・ウィンチェスター。

フローラル公国やエールランドとは、海を挟んだ北方三連合国の公爵家の御曹司だ。彼の父親は国王の従兄弟である。


第五のヒーローは、エドワード・ロックウェル。

大陸の南部を領土とするドレンスランドの公爵家の息子だ。そしてルイーズとは母方の従姉妹にあたる。

ゲームでも「エドワード攻略ルート」が最も難易度が高かった。


(そうなると、とりあえずエドワードだけは味方にできそうね)


だがそれ以前のヒーローズには、どう対処すべきか解らない。

そもそも肝心のシャーロットに対しては、どのように接していくべきか。


(だけどまだ今日で一日目だ。結論を出すには早いかもしれない。もう少し様子を見よう)


私はとりあえず、考える事を放棄した。



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この続きは、明日の朝8時過ぎに投稿予定です。

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