第2話 今日も私は(後編)
(前回までのお話)
三城加奈は31歳のOL。
彼女の唯一の楽しみには「家に帰ってお気に入りのゲームをする事」
加奈はいつものように、部屋に戻って最近ハマっているゲーム
『フローラル公国の黒薔薇』を立ち上げた所、
ゲームの登場人物であり悪役令嬢のルイーズが目の前に現れた。
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「あ~、そうね。アナタは十回殺されているもんね」
私は繰り返したゲームのエンディングを思い出していた。
そしていつの間にか、目の前のゲームキャラと普通に話している事に違和感を感じていない自分に気が付いた。
「十回? そんなもんじゃないわ。わたくしはもう三十三回も同じ世界を繰り返しては殺されているのよ!」
「三十三回?」
私は思わず聞き返す。
だって私が見たエンディングは間違いなく十回だ。
と言う事はまだ私の知らないエンディングが二十三回あるのだろう。
その全てがどうやら彼女にとってはバッドエンドらしい。
「そうよ。ギロチンや絞首刑、銃殺なんてまだマシな方。火炙りに始まって、地下牢に閉じ込められたまま餓死させられたり、十頭もの闘犬に食い殺されたり、ノコギリで少しずつ首を切られたり、生き埋めにされたり、サメのいる海に放り込まれたり……」
うわぁ、それってもはや乙女ゲームの域を越えて、R18指定のスプラッタ・ゲームなのでは?
呆気に取られる私を前に、彼女は両手で顔を覆ってさめざめと泣き始めた。
「わたくしは確かに我儘で自分勝手だった。でもだからと言って三十三回も死刑になるほどの罪ってある? しかもどの刑も残酷で苦痛と恐怖が長引いた上で殺されるの。それなのに私の死はこれからも続いていくのよ!」
彼女の言い分は私にも理解できる。
そもそも学生時代に同級生をイジメたからと言って、死刑だの国外追放だのになるって行き過ぎだとは思うのだ。
それが許されるなら私だって、私をイジメた相手を、バットで滅多打ちにしてやりたいよ。
もっともゲームの世界だから、それを気にはしていなかったが。
「それは大変ね。でも私はあなたを応援しているわ。頑張って」
とりあえずそう口にした時だ。
ルイーズはパッと顔を上げた。
「ありがとう。アナタならわたくしの気持ちを解ってくれると思っていたわ。だからこうして呼びかけてみたの」
「……呼びかけた、って?」
「そう。アナタにお願いがあるの。わたくしとアナタ、一度だけ入れ替わって貰えないかしら?」
「入れ替わる? 私が、ルイーズと?」
思わず彼女の言葉を繰り返す。
ってコレ、私がゲームの世界に入るってことだよね。
「そんなこと、出来るの?」
マンガやラノベならよく『異世界ゲームの中に転生する』ってあるけど。
「ええ、いまアナタがココで了承してくれれば」
「でもそうしたら、今度は私がアナタの世界で殺され続けなくちゃならない訳よね?」
頭の片隅では「こんな馬鹿な話が現実にあるんだろうか?」と思いつつも、私はルイーズと真剣に話していた。
彼女が少し難しい顔をする。
「入れ替わるのは一回だけなんだけど……そうね、その一回は殺される可能性が高いわね」
「なんで一回だけなの? それって私を騙そうとしていない?」
「そんな事じゃないわ。私は前回の死の直前、とある偉大な魔法使いに次元転移魔法を掛けて貰ったのよ。だけどこの効果はライフ一回分しか有効じゃないの。だから今アナタが入れ替わってくれても、次の時間線で死んでしまえば、わたくしとアナタは元に戻るわ」
「う~ん」
私は迷っていた。
そりゃゲーム世界に入れると言うなら、一回くらいは行ってみたい。
だけどその一回は死ぬんじゃなぁ。
「悪いけど、やっぱり止めとくわ。私、死にたくないし」
それを聞いてルイーズは慌てた。
「そんなこと言わないで! わたくしを助けられる可能性があるのは、アナタだけなの!」
「どういうこと?」
「これもその魔法使いの予言なんだけど『転移した相手がわたくしの問題を解決してくれるかもしれない』って!」
予言ねぇ、これまた胡散臭い代物を。
「わたくしもずっと疑問に感じているの。わたくしがシャーロットに対する態度をどう変えても、何故か必ず結果は『ワタクシが彼女をイジメた』という事になってしまうのよ!」
「それはあなたが前回のプレイ、いや前世の記憶を無くしているだけじゃない?」
だが彼女は首を左右にした。
「ううん、前回の反省を踏まえてシャーロットに接し方を変えても、結局はわたくしは彼女に害を与えてしまうのよ。しかもそれを必ず誰かが見ていて!」
そうなんだ。もっともルイーズ、あなたの態度でゲームのシナリオが変わる訳じゃないけどね。
「だから加奈。アナタにその辺りの謎も探って欲しいのよ。そして私が殺される事のない平穏な世界を見つけて欲しいの」
つまり私がゲーム世界に入って『ルイーズのハッピーエンド』を見つけろって事ね。
考えてみると、それも面白そうだ。
「う~~ん」
私の迷いを悟ったのだろう。
ルイーズはここぞとばかりに押し込んできた。
「もし今回ワタクシと入れ替わってくれれば、その報酬としてアナタに金銭的利益をもたらすわ」
「金銭的利益? なにをくれるの?」
「直接対価を支払う事はできないけど、わたくしの持つ金運を分け与える事が出来る」
「それは有難いわね」
「それだけじゃない。ワタクシがアナタの世界に居る間に、アナタの問題を解決してあげるわ!」
「私の問題?」
「そう、加奈は職場で仲間たちに存在を軽んじられているんでしょ。わたくしがそれを解消してあげる。そういう問題を解決するのは得意よ。わたくしはアナタの力になれるわ!」
確かに! この悪役令嬢ルイーズ様のキャラなら、職場のカーストなんて一変させてくれるかもしれない。
バカバカしい話だけど、これが夢ならそれに乗ってみるのも一興だろう。
「わかった。一回だけだって言うし、あなたと入れ替わってあげるわ」
ついに私はそう口にした。
ルイーズは文字通り飛び上がって喜んだ。身体全体を包む光も強く発光する。
「ありがとう! 加奈ならそう言ってくれると思っていたわ!」
「それで、入れ替わるってどうすればいいの?」
「私と手を合わせてくれればいいわ。そうして私が呪文を唱える間、手を離さないでくれれば」
「オッケー。他に注意する事ってない?」
「アナタ自身の行動だけじゃなく、仲間の女子たちの言動にも気を付けて。結局は全てルイーズのせいにされるから」
「気を付けるわ」
「それとわたくしと話をしたくなったら、深夜〇時に鏡に向かって呼びかけて。一日一回、五分だけ話す事ができるわ」
「わかった」
「それじゃあ契約成立ね。両手を出して、わたくしの手のひらと合わせて」
私は両手のひらを突き出すと、ルイーズは自分の手を合わせた。
「コネクタ ドス マンドス ディフェレンテス エ インテルカンビア メンテス イ カエラポス エンテレシ。エステ コントラト デュラ ハスタ クエ ウノ デ エロス ムエレ」
(異なる二つの世界を結び、互いの心と身体を入れ替えよ。この契約はどちらかの命が尽きるまで続く)
ルイーズがそう唱えた直後。
私は自分の身体から重力が消えるのを感じた。
そのまま私も彼女と同じような光輝く身体となって、彼女と入れ替わるように重ね合わさる。
そうして……私の意識は消えて行った。
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この続きは、明日の朝8時過ぎに投稿予定です。
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