第2話 チョコソース、宙を舞う。
大学院の1年生。
私は今、就活の渦の中をぐるぐるとかき回されてなんとか溺れず生きている。
大学では、博士に進むか、就活に進むかの話で毎日盛り上がってる。
「君は、どうするの??」
時々、私が話す出番がくる。
「まあぼちぼちですねえ、ひとまず就活してますよ!」
そんなふうに返す。
この一言の間に、頭の中には数えきれない言葉が行き交っている。
自分の将来、私にはそんな簡単に決められなくていまだに悩んでますよ
そもそも私、就活どこじゃないですよ
心と言葉が一致しない今日この頃、社交辞令ってこんな感じなのかな?なんて思いながらいい感じに答えるのが得意になってきてしまって、大人なんだか子供なんだか。
昨日なんかはさ、今晩エントリーシートを書き終えようと考えながら、夜ご飯を食べていたんだけども。
家族で仲良く普通に、夜ご飯食べてたんだけども。
デザートでも食べようと、冷蔵庫に向かったら、突然妹が泣き叫び始めたのよ。
最近はよくあること。
気を使って声をかける親の一言は、余計に妹の怒りの炎に油を注いでしまうから、
私はひとまず、全員静かにー!と声を掛ける。
話し合い始めたら、炎上して何がすっ飛んで何が割れるかわからない。
結局、その日は、ウェットティッシュと、チョコソースだけが宙を舞うのですんだ。
幸いにも、チョコソースは蓋が開かずに飛んでいったので、掃除の手間もなかった。(私はこの前、お風呂の中で残りわずかなリンスを遠心力で出そうとしたら、壁と天井全面にビチャっとやってしまった。)
うん、なかなかに不器用な家族たちである。
良くも悪くも、本当に不器用すぎる!
しばらく様子を見て、場が落ち着き、それぞれが何事もなかったように日常に戻ったとろで、
私は、静かに部屋に戻り、パソコンを開いた。
何かがおかしい。
パソコンに置いた手が、動かない。
何も、頭に浮かばない。
ただ、頭の中が真っ白で、涙が溢れ始める。
なんの涙なのかなんて、わからない。
何も考えられないのに止まらない涙は、原因がわからないから本当に止めようがなくなる。困った涙だ。
自分が大丈夫だと思っていても、人の絶望の声を、泣き叫ぶのを聞いて、物がすごいスピードで部屋を飛び交うのを見るのには、それなりに心に衝撃が残るらしい。
これまでも、こんなことが何度もあって、そんな時は、仕方ないから、ネトフリを開いて、お気に入りの作品とか気になった作品を流すことにする。
私がもっと強ければ。
エントリーシートなんて普通に書けるんだろうなー。
もっと上手く場を収められたのかなー。
そんなことを考えながら、でも私には無理なんだよなあーと、画面の中を見つめる。
自分がすぐに周りの影響を受けてしまうこと
それでも、時間を着々と過ぎていき、みんな就活したり未来に進んでいくこと
いろんなことに対して、どうにもならない気持ちで正直焦る
ひたすら画面の中を見つめる。
混沌とした頭の中に物語が流れ込み、少しずつ、いつもの感情が戻ってくる。
とても、気持ちが落ち着いてくる。
ちなみに昨日は、ジョゼと虎と魚たちを見た。
本当に辛い時、自分が鳥籠の中にいるみたいに、息苦しい時、
そんな時に、寄り添ってくれる人がいること。
声をあげないでも、助けに来てくれる人がいること。
主人公たちが、いろんな逆境の中でも支え合い夢を追いかける物語。
最後は、物語への思いで涙が溢れ、気持ちは、物語に染められた。
もう12時を過ぎている。
心の感情は戻ってきても、頭は真っ白のまま動かない。
仕方ないからお風呂に入って寝よう。
明日、頭が動いたら書こう。
そうして、次の日、朝起きて、やっぱり原因不明の涙が溢れていた。
とりあえず、カフェに向かう。
エントリーシートはやっぱり書けない。
この現象に、名前はあるんだろうか。
ひとまず、昨日の映画の主題歌を聴きながら、こうしてせめてできることをと言葉を綴る。
いつか、今が思い出になったとき、
「この過去が今の私を形作ってます」
みたいな、かっこいいこと言ってやる!と、意気込みながら。
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