第34話「烈日と碧海の覚醒」


 美幸と八重は、追いついてきた理沙に武器を構えた。それぞれの武器の刀身はそれぞれの色に輝いていた。

 理沙は八重に目を向けるとその怪しげな瞳に、苦々し気に応えた。一方美幸は、嫌悪感を露わにした。

 

「理沙さん一人で勝てるんですか?」

「うちは2人ががりでも勝てるけど?」

「傲慢ですね……」


 理沙は一気に美幸に間合いを詰め、回転薙ぎを打ち込んだ。美幸の左肩は大きく揺れたが、その守りが崩れることはなかった。

 振りぬいた理沙の隙を見計らって、八重は槍による突きを見舞った。

 しかし、その一撃は理沙の戦斧にからめとられた――そのまま八重は、振り回されて吹き飛ばされた。

 

「なぁ!!」

「やっぱり八重は軽すぎるわ!ちゃんと食べてんの?」

「こっちを見ていろ!」


《ブレイブペイント――》


キャンバスの宣誓と共に美幸は黄金の絵の具に包まれた。盾は溶けて、剣と絡みあい、大剣となった――



「それが見たかったんよ!」

「じゃあ、食らってみろ!」


 美幸は大剣を振り上げた――


――

 

 桃華のゴーレムの攻撃は、美香には当たらなかった。美香はゴーレムの頭に乗ると、別のゴーレムの頭に飛び乗った。

 美香がさらにゴーレムの頭に飛び乗ろうとしたとき、紫紺の矢が美香の体に命中した……

 


「しまった!」

「甘く思うなよ!」


 美香は着地すると、矢を腹から引き抜いた――碧の絵の具がしたたる。紫に染みた腹は碧の絵の具の波を受けると回復した。

 

「ちゃんとバリア張っとくべきだったわね?」

「意外とやるじゃん……」



 美香はコルクをはじくと、碧の絵の具のバリアに包まれた。その様子を見た桃華はゴーレムに攻撃を命じる。同時に紫も弓の弦を弾き絞る。


「もう手詰まりなんじゃないっすか?」 

「あたしはさ……負けられないわけ!」


《ブレイブペイント――》

 美香の生存本能は、勇気を最大に引き出した。あらゆる脳の神経回路が未来の恐怖を掲示したが、美香はさらに新しい答えを、自分の本能に求めた……その先に美香は、金の輝きを掴み取った――

 


 キャンバスの宣誓と共に黄金の絵の具が美香を包み込んだ、それは黄金に輝き、勇壮な姿を彼女に与えた。彼女のバリアはより艶やかなものになった。

 二振りの撃槍は、わずかに碧色と黄金のオーラを纏った。

 その姿に紫達は驚愕したが……同時に関心もしていた。

 

「やっぱり……美香ってすごい」

「そうっすよね……あたしらとは違う」

「諦めるわけ?」

「いや、これでフェアになったって感じっす」


 桃華のしたり顔に、美香は口角を上げた。紫は桃華の落ち着き具合を見て微笑んだ。

 美香は波で空中に飛びあがると、手の平に収束された水球を桃華に向かって打ち込んだ――途端にゴーレム達は桃華を庇った。


「あたしの一撃……受けられるか!」

「当然っすよ!」


 バシャーン!ゴーレムの腕は崩れ去ったが、桃華には傷一つなかった。


「こっちだって今までのとは違うんすよ!」


 桃色の絵の具は地面に撒かれ、ゴーレム達は強化された。ゴーレム達は一斉に美香に向かったが、美香の起こした波にゴーレム達は、動けなくなった。

 美香はすぐさま飛び上がると、またゴーレムの頭を次々に踏み台にして、今度は紫に迫ったが紫は不敵に笑う――キュルキュル紫の手前に出現した、ツタは美香の足に絡みついた。

 美香の周囲が影で覆われる。


「やるじゃん!でもね!」


 美香は左手に持っていた撃槍で、ツタを切り裂くと、もう片方の手にある撃槍でゴーレムの攻撃を止めた。紫はその間に矢を撃ったが、バリアがそれを遮った。


「器用っすね」

「こちとら、鍛えてるんで!」

――


「そろそろやな……」

「「――!」」


 理沙が戦斧を地面に突きたてたのを見た美幸は武器を地面に突きたてた――

 

「烈日よ――」「真珠よ――」

「「満ちよ――」」


 うねるマグマと黄金を纏った真珠色の波は激しくぶつかりあい――今までにないほど競り合った。


(やっぱり理沙さんの力は強い……)


 美幸の肩にはいっそう力が入り、剣はさらに地面に食い込む。すると、真珠色の波がマグマを押し返した。


「なんでや?うちが負ける?」


 理沙は驚愕した様子で、狼狽した。美幸さえも驚愕したが、すぐに真剣なまなざしになり三つの黄金の光波を飛ばした。八重も連携して突きを繰り出す。

 

(やばいけどうちなら――!)


《ブレイブペイント――》


 理沙の生存本能は、勇気を最大に引き出した。あらゆる脳の神経回路が未来の恐怖を掲示したが、理沙はさらに新しい答えを、自分の本能に求めた……その先に、金の輝きを掴み取った――

 美幸達は吹き飛ばされて、大きく退いた。


「嘘……理沙さんまで……」

「――!」


 八重は目を見開き動揺したが、美幸はあまり驚かなかった。

 理沙は自分の体を見渡すと、ニヤリと笑った。紺のファーと彼女の橙色の防具は、まるで夕暮れを思わせるようだった。彼女の体に活力が満ちる――


「はぁん、うちにもこれができるんやな~」

「望むところです!」 

「……」


 理沙は夕陽のような色の弓を取り出すと、三本の矢を引き絞り、空高く舞い上がった。矢の先には夕陽のような色の炎が灯っていた。


「まずい!」

「隠れて八重さん」


 美幸は大剣を素早く盾に変え、八重の前に立つと、降り注ぐ隕石のような矢を受け止めた。盾は振動したが、爆発した矢は一切盾を溶かさなくなった。


「やっぱ守りは鉄壁やな?」

「守る力を侮るな!」


 美幸の勇壮なまなざしを見た八重は、わずかに微笑んだ。理沙はそれでも表情を崩さず、瓶のコルクを弾いて突進した。彼女の体は炎そのものとなる。

 光波を撃とうとした美幸は寸ででそれを止めた。

 灼熱の突進は美幸を焼きながら突き抜けた――突き抜けた先には、八重がいた。

 八重はみぞれの分身でタックルをいなしその熱を冷ませた。しかし、その熱気は八重の体まで届いた。


「かき氷でも作ってんの?」

「熱いのは苦手なので……」


 美幸はその隙をついて剣を理沙に振るったが、理沙が絵の具を体に撒くと――剣は彼女の体に傷をつけたが、その体幹を崩すことはできなかった。

 理沙は美幸の頭を掴むとそのまま彼女を引きずった。


「がぁぁぁあ!」

 

 美幸の悲鳴がキャンバスに響いた。理沙は彼女を吹き飛ばすと、八重に目を向けた――その瞬間、理沙の足は凍り付いた。さらに八重は急接近する。

  

「来ると思ったわ」


 八重による理沙の腹を狙った攻撃は見事命中し、彼女の体は揺らめいた――しかし、理沙は足元に絵の具を撒くと、氷はみるみるうちに解けていった。

 美幸と八重が追撃をかける前に、理沙は飛び上がり弓を弾き絞る。



――END

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