第33話「極彩色の決戦」

33話

「勝っても魔法少女の願いは叶わないってか?ただの茶番だったか」


 夕暮れの中、冴は理沙の家に招かれていた。豪華な家具と大きなテレビが冴の目に留まったが、すぐに冷静な表情になった。

 冴と理沙はソファにふんぞり返る。二人の前にはチャイティーが置かれていた。


「で、要件なんやけど、美幸ちゃん達がキャンバスを――」

「破壊してでも、願いを戻そうってか?」

「さすが、察しがいいやん」


 理沙の軽々しいお世辞にも、あまりいら立ちをみせなかった。それどころかそれを楽しんでいるようだった。


「うちらさ……キャンバスでの戦いを楽しんでない?」

「だな……」


 冴はテーブルに置いてあったペンを持つと、くるくると回し始めた。それを見た理沙は微笑んだ。


「うちもさ、このキャンバスでの戦いをかなり楽しんでるんよ」


 理沙はカップに入ったチャイをスプーンでかき回すと、微笑んだ。冴はそれに対して、少し微笑むと、チャイの入ったカップに口をつけた。

 

「美香には内緒でこのキャンバスを守って――」

「リタイヤしようってこと?」


 チャリーン……冴と理沙はカップを合わせると微笑んだ。


――


 美幸は緑の入院している病院の廊下を歩くと、彼女の居る病室に入った。緑は相変らず折り紙を折っていた。丁寧な動作は美幸にとって、落ち着くものだった。


「大丈夫?緑さん?」

「うん、少し落ち着いてきたみたい……」

「良かった……」


 顔色の良くなった緑を見た美幸は少し微笑む。美幸は折り紙で折られた鶴を掴むと、眺めた。

 鶴を置くと美幸はノートを取り出し、大樹にバッテンをした。

 

「――ということでキャンバスの大樹を切り倒すことになったの」

「そんなことで願いが戻ってくのかな?」

「でもどうせ願いを叶えてくれないならって」


 美幸の覚悟のある表情を見た緑は、安心したように微笑んだ……


――


 閑散とした河川敷から見える空は晴れ渡っていた。そこに居る4人の魔法少女を祝福しているかのように、彼女達を照らしていた。少女達は輝く瓶を構え――


「「「「変身!」」」」

 

 少女達の宣誓は誰もいない河川敷に響いた。極彩色の空間があたりを包み、彼女達は魔法少女としての衣装を身にまとった。極彩色の空間に美幸達が包まれる最中、カンナはその様子を空の瓶を握りしめながら見ていた。 


「あれが極彩色の大樹……」

「でかすぎでしょ……」


 極彩色の大樹には黄色と緑に輝く、球体が燦燦と輝いていた。それを美幸は憎々し気に見つめた。

 他の魔法少女達もその偽りの輝きに目を細めていた時だった――バシャーン、美幸達の足元を橙色の絵の具が、湯気を上げながら散らばった。

 美幸達が振り向くと、理沙、美香が立っていた。


「はぁん、あんたらチームでも組んでんの?」

「あの大樹は夢を吸い取るものなんです、だから――」

「切ろうっての?」


 ガン!美香は二振りの撃槍を地面に叩きつけると、ものすごい表情で美幸達を見た。


「そんなことさせない!理沙ち―に勝ってもらわないといけないから!」

「そうやってよ?」

「というか冴ちゃんは?」

「さぁ、どこやろな?」



 しかし、理沙のしたり顔を見た美幸は、理沙のキャンバスに対する考えを見抜いた。理沙は戦斧で極彩色の砂を掬い上げると、ニヤリと笑った。美香はその表情に怪訝な様子で見たが、

すぐに美幸達の方へ、武器を向けた。


「あたし達が食い止めるから先に行って」

「ありがとうございます!」


 紫は桃華と共に理沙達の前に立つと武器を構えた。紫の弓の弦は引き絞られ、桃華の周りにはゴーレム達が生成された。美幸達はキャンバスの森林を潜り抜けて、大樹へと向かった。

 理沙は美香に合図を送る――理沙は藍色の絵の具の大きな波で飛び上がり、大樹へと向かう美幸達に迫った――

 残った紫と桃華は、一人で立ちふさがった美香を見つめた。


「碧海よ……満ちよ!」 「紫紺よ……染めよ!」


 碧色の絵の具と紫色の絵の具はせめぎあったが、すぐに碧色の絵の具が打ち勝った。


「1人で相手するなんて、なめられたものね」

「逆に2人で止められると思ってるの」

「聞きづてならないっすね……」


 桃華は鞭を地面に叩きつけるとゴーレム達をけしかけた。紫もそれに追い打ちをかけるように、美香に矢を放った。

 しかし、矢は美香の撃槍で弾かれ、一体のゴーレムは腕を砕かれた。 


「同時攻撃とは前より仲良くなったわけ?」

「そう見えるなら心外っすね」


 美香は少し眉間にしわを寄せたが、すぐに撃槍をかまえ、絵の具の波で宙に飛び上がった。 

 

――END

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