第27話「黄金の輝き」
タン!タン!タン!冴はのろのろと動くゴーレムの肩を飛びぬけると、錐揉み回転しながら自由落下した。
「1……」
「紫パイセン!後ろ!」
「くそ……いつの間に!?」
紫の喉元に曲刀を突きつけた冴は……だが彼女にとどめを刺さなかった。
ニヤリと笑った冴は、紫の反撃を跳躍でかわす――その動きをゴーレムが先回りしようとした。しかし、ゴーレム達は振り上げた鉄拳を振り下ろせなかった。
「ま、待って……うちに当たる!」
「ハハハ……3、4」
「どうすんのよ……紫!」
冴は着地と同時に、桃華の喉元に曲刀の刃を当てていた。桃色の絵の具が彼女の首を伝う……
紫は冴の後ろにいるゴーレムに合図を送りながら、瓶のコルクを弾いた。
――
ガーン!ゴーン!……5人の魔法少女はゴーレムをなぎ倒し、突撃していた……先頭を行くのは理沙と美幸だった。
桃色の鉱石の破片で二人の頬から絵の具が垂れた。美幸は自身の放つ真珠色の輝きで――理沙はゴーレムから奪った絵の具でその傷をふさいだ。
「美幸!ちゃんは……覚悟はできたん?」
「……はい!でき、ました!」
「さすがの善人プレイもココまでかぁ~な~んかさびしなぁ~」
「感情で動く目障りな人間が減って嬉しいんじゃ?」
「……言うやん」
ブン!ガン!美幸はゴーレムの一撃を受け止める――ダン!美幸の肩を蹴り、跳躍した理沙は、煮えたぎる戦斧でゴーレムの頭をバターのように溶かし切った。
「なーんか、息ぴったりじゃない?あの2人」
「2人とも欲張りだから……」
「で、でも!大事なとこは全然違います!」
――
ギシ、ギシ……ブン!冴の背後に忍び寄ったゴーレムが腕を振りぬいたが、赤い絵の具が飛び散ることはなかった。
代わりに黒い影が紫に覆いかぶさった。
「終わりだ!紫の!」
「……馬鹿ね!とっておきがあんのよ」
紫の眼前まで迫った冴の足元に、紫の絵の具がまかれていた。それは怪しく光輝くと、紫のツタとなり冴の足に絡みついた――
「読みが甘かったわね!瞬間移動だって――」
(8、9……)
しかし、冴は次の瞬間、銀の粒子となって解けていった……
「嘘、捕まえたのに――!」
サラァ……銀の粒子は再び収束する――紫の首には再び、曲刀が突きつけられた。
「な、なんなのよアンタ……!」
「あーし?あーしはアスラだ……」
ガァァン!ゴロゴロ……紫達を囲んでいたゴーレムの輪の、一点が粉砕された。ゴーレムの残骸を踏み抜けてきたのは美幸達だった。
「くそ!合流されたか!理沙達まで!」
「美幸……いいところに来たな。あとの2人を――」
そこまで言うと冴は、美幸の瞳を見つめた。真珠色の瞳には、信念と燃え上がる情熱が宿っていた。すべてを悟った冴は、狂ったような笑みで構えた――冴の表情を見た理沙は、にやにやしながら美幸を見下ろした……
ガン!ガン!次の瞬間、冴の曲刀に真珠色の刀身が食い込んでいた――へたり込んだ桃華の前では、銀の大槍と橙色の戦斧がかち合った……
「ナハハハハ!やっぱりお前はあーしのデーヷァだ!」「デーヷァ!?わかんないけど、私は私のしたいことをする!」
「どういうつもりやねん八重?」「私は私のするべきことをする……」
冴は美幸とのつばぜり合いを諦めると、後方に飛びのいた――八重が瓶のコルクをはじくと、理沙はバックステップで距離をとった。
へたり込んだ紫は美幸を見上げた。
「白井美幸、なんで……」
「このキャンバスが欲望を叶える場なら……私は誰の夢も奪わせない!」
美幸の言葉に紫は少し驚いたが、すぐに諦めたような表情に変わった……
「……もういい、アンタの勝ちよ……」
「まだ勝ってません……緑さんの方へ後退して下さい」
「ゆかりぱい――」
「いいから!桃華……言う通りにしなさい」
紫と桃華は地を這いながら緑の元へ向かった。理沙と冴が一歩動くと、美幸と八重も一歩動いた――緑は銃口をしっかり冴に向けていた。
「緑もそちらか……」
「赤場さんには助けてもらったし、勇気ももらいました。でも、あなたにはついていけない」
「いいだろう……最後に……」
「な、なんです?」
冴は淡々とした表情で緑を見つめると、彼女を指さした。
「お前はシュードラではない……」
緑はシュードラの言葉の意味が分からなかったが、不思議と悪い気はしなかった。それと共に冴と対峙する覚悟が彼女の瞳に宿った。
「く、くそ!」
全員が声の方を向くと、黄華が背を向けて逃走していた……その逃走にいち早く反応したのは理沙だった。
理沙を止めるため八重も動き出した――が、その前に冴が立ちふさがった。緑は照準を理沙に合わせたが、黄華がちらちらと映り、トリガーにかけた指が震えた。
冴が突進する八重を攻撃すると、みぞれの空蝉に曲刀が刺さる――振り向いた冴の視界に八重がいた。
「美香!」
ガン!ドン!冴を出し抜いた八重の前に、1本の撃槍が落ちてくる――遅れて落下してきた美香は、地面をえぐった槍を掴み、遠心力を利用した蹴りを八重に当てた。
「八重ち―の相手はあたしだよ!」
「くそ!」
黄華は逃げ去り、あとを追う理沙を止められるものはいなかった。美幸と八重は舌打ちをしながら、目の前の強敵に身構えた。
「ナハハ、攻守がころころ変わるなぁ、美幸ぃ!」
「そうやって楽しんで!」
美幸と冴、お互いが瓶のコルクをはじいた。深紅と真珠色の絵の具が宙を舞う……次の瞬間、赤い霧が高速で移動し、美幸の体を突き抜けた――霧から抜けた冴は、紫の首に曲刀を滑らせた。
ザシュ!冴が曲刀を振りぬくと、絵の具が舞った……しかし、それは真珠色の絵の具だった。紫と美幸の間には真珠色の光の糸がつながっていた。
美幸は素早く頭から絵の具を浴びると、見る見るうちに首の傷がふさがった。
「そんなに痛みが欲しいか?美幸!!分かるよ!」
「絶対分かってない!!」
美幸はさらに絵の具を剣に塗る――光る刀身を3度振ると、3つの光波がキャンバスを駆け抜けた。
ギィンギィン!冴の曲刀の表面を光波が霞め、刀身が一気に赤熱する……
(しまった……)
しかし、最後の光波は曲刀のしのぎを逃れ、冴の体に命中した。赤い絵の具が飛び散り、美幸には冴の瓶の絵の具が、ぐっと減ったのが見えた。
「まだだぁ!」
盾を構えた美幸は高速で突進し、冴の前まで迫った。しかし、盾が直撃する直前に、冴は銀の粒子になって消え去った。
気配を感じた美幸が振り向くと、そこには悠々と立つ冴の姿があった。ザン、ザン、ザン……冴が片足で軽く飛ぶたび、規則的な音が響いた。
「あれ……?」
美幸は目を疑った。冴の減ったはずの絵の具が、元に戻っていたのだ。
「白井、あいつのはただの瞬間移動じゃない」
「どうやって……」
「さぁて、わかるかな?」
ゴン!!美香が槍の柄を打ち込むと、それを防げなかった八重の体が揺らいだ。
「よそ見してるからだよ!」
「緑さん!何か見てないか!?」
「待ってください!美幸さん!盾を構えて!」
「邪魔するな緑!」
緑は閃光榴弾を冴の元に投げる……バン!爆音とともに、緑は自分の記憶をさかのぼった。
「……た、確かさっきも、攻撃を受けたはずなのに気づいたら元の位置に戻ってました!傷もなくて……」
(ということは時間をさかのぼっているのか……?でも緑さんはそれを覚えて――)
「だからぁ!よそ見したらダメだってばぁ!」
ギィィィィン!ザザァー……美香の撃槍をまともに喰らった八重は、極彩色の砂を引きずりながら転がった。受け身を取った彼女は叫んだ。
「美幸さん……!おそらく冴は時間をさかのぼってる。でも私達の時間には干渉できない!」
「そんなの……どうやって」
予測できない敵の動きに、美幸の脳は彼女に、敗北の二文字をちらつかせ始めた。ギィン!考えている間にも冴の攻撃は紫達を撃ち、痛みの代行者となった美幸に痛みをもたらした……
「もう――!白井!リンク――切れ!」
「なん――うちらに――こまで……」
紫達の声も美幸にはこもって届いていた。5感は鈍り、意識は朦朧とし、痛みすら薄れていった……
《美幸、紫達を庇うのをやめたらもっと戦いやすいよ?》
(よく見れば、必ず勝機はあるはず!)
《まだ耐える気かい?絵の具だって無限じゃないよ?》
(ただ耐えて、機会を待つ……)
《負けたら――》
(それは今じゃない……)
美幸の生存本能は、勇気を最大に引き出した。あらゆる脳の神経回路が未来の恐怖を掲示したが、美幸はさらに新しい答えを、自分の本能に求めた……その先に美幸は、金の輝きを掴み取った――
《ブレイブペイント――》
キャンバスの宣誓と共に美幸の体が、太陽のような勇ましい金の絵の具に包まれた。真珠色の鎧に金の絵の具が滑り込み、優美な金細工へと変化した。
その勇ましさに、その場に居た魔法少女達は息をのんだ。ただ一人、冴だけが歓喜の表情で美幸を見つめていた。
「すごい……体に活力が満ちてくる」
「美幸、やっぱりお前はあーしのデーヷァだ!!」
冴が不自然なステップを加えながら美幸に迫る――
美幸の本能は新しい手段をすでに心得ていた。
美幸は瓶のコルクを素早く弾く……中から漏れた真珠色の絵の具は、勇壮な金が溶けていた……
「すぅーはぁ―……」
美幸の鼻から肺まで空気が浸透するのが彼女にはわかった。呼吸をすると美幸視界は鮮明になった。
仕込みを終えた冴は2本の赤い多腕を召喚し、一気に間合いを詰める……
「受け止めてみろ!アスラに至ったあーしを!」
「……!」
END――
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