第7話 グロ注意:お二人、大立ち回り編2
チイねえはニタリと笑みを浮かべると、跳んだ。
その身にまとうは、身軽さを失わぬために、革よろいに兜をかぶるのみ。
ただ既に返り血で赤く血濡れておった。
狙うは一番右端におる敵。
跳んだといっても、空中ではない。地から足を離しては、以降、態勢を変えられぬ。ゆえにそんなことはしない。
そもそも小さいチイねえが、更に姿勢を低くして突っ込む。人間の視覚は、それほど正確ではない。相手には地を這う如くに見える。無論、チイねえはそれを知って仕掛ける。
相手は、この瞬間、1つの選択を迫られる。
己も姿勢を低くして、迎え撃つか?
ただ、人間というのは、姿勢を低くして、なお満足に動くには、十分な筋力とそれ以上に鍛錬を必要とする。そして己より身長の低い者が、更に身をかがめて来る場合、技量・体力が互角なら、不利となってしまう。
ならば、いっそのこと、上段より振り下ろす。多くの者がそう選択する。
かてて加えて、尋常なき速さで相手が突っ込んで来るのである。身をかがめて迎え撃つというのは、実質2段階のアクションとなる。下手をすれば、相手の
しかもチイねえが持つ武器は、いずれも短い。右に刃渡り40cmほどの
いずれも片刃であり、脇差しの方はわずかな反り、懐剣の方は大きく湾曲しておる。通常なら、つぶしたはずの間合いでも、これなら存分に振るえた。
ゆえにやはり上段からの攻撃。
チイねえは、かすかにほくそ笑む。
無論、それを狙ったゆえである。
チイねえは背が小さい。
ゆえにそもそもにして敵の上段からの攻撃には慣れておる。
対して、あえて背の小さい者を相手に武芸を磨く者などいない。少なくとも、そこに多大な時間をかける者などいない。
特に武芸の才に秀でた者ほど、多く自らより年長の者と共に鍛錬を積むことになる。ゆえに、おのずと自らより背丈の高いものと相対する機会が増える。間違いなく相手は慣れておらぬ。
しかも、その武器は槍。互いの獲物の長さには極端に差があった。ゆえに、間合いは大きく異なり、それを制した者が自ずと勝つことになる。
槍が突き下ろされる。
チイねえは半歩横に跳んで、体側にそらし、更に、その槍の柄を脇差しで上から激しく叩いた。
槍の穂先は、激しく地面を打つ。
相手は手がしびれたのか、顔をしかめた。
その間に、チイねえは敵の足下に入り、そのまま懐剣を横なぎにする。
反転して、双剣を構えた時には、おあつらえ向きに敵が倒れて、足を抱えて絶叫しておった。
その喉を懐剣でかき斬る。血しぶきが吹き上がり、チイねえの体を朱に染める。
ところで、ゴリねえはといえば。こちらは、鉄のよろい兜という完全武装である。ただよろいは札織りであり、できるだけ動きをさまたげぬよう配慮されておった。やはり、既に返り血にて朱の装束となっておる。
こちらは計算無し。まさに力任せに、左端の者に対して、大段平を横なぎする。
それは両刃の幅広の剣で、刀身は長さ80cmほどであり、特段に長大ということはない。狭所での戦闘にも対応できるようにとの考えゆえであった。
相手も武術の達人。相応には速い。
ゴリねえも決して遅い訳ではない。ただチイねえの如く、明らかに相手を上回るほどの際だった速さはない。ただパワーは桁違いである。
ゆえに次の如くとなった。
相手は剣にてそれを防ぐを得るも、吹っ飛ばされた。すっころんで、その際、頭でも打ったのか、そのまま動かない。無論、打撃は剣で防いでおるのだから、死んだ訳ではない。
「私のよ。取っちゃダメ」
チイねえの足が止まる。ついでとばかりに、その者の首もかき斬らんとしておったのだ。
「もう、油断も隙もないんだから」
と言い様、先に吹っ飛ばした男の隣におった者――最初の4人の並びでいえば、左から2番目におった者にも、やはり横様に大段平をくらわす。
ただ相手は受け、なお、その場に留まる。
「あれ? まあ、そんなに簡単に行っちゃあ、面白くないわ」
よく見れば、というか、そうせずとも、分かっておった。己に負けぬ巨漢であることは。そしてやはり巨体に劣らずの大きな野太刀を構える。とても腰に差しておさまる長さではなかった。
他方、チイねえの新たな相手も、日本刀の如くの片刃で細身の剣を構える。
槍ほどには容易に間合いをつぶせぬと想ってか、あるいは相手の技量を感じてか、チイねえは今回は簡単には突っ込まぬ。
どうも、残ったのは、先の相手に比べ、腕が一段、下手すると2段は上の者たちと――2人とも、そう見取ったようであった。
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