第39話

 お義母様かあさま。私の第一印象は、眼光するどき方、というものだった。そのかぶる帽子が鳥の羽で飾られていることも手伝ってか、まるで猛禽――鷹や鷲の類――に睨まれている如くであった。


 そして、私は私で、その前のウサギやネズミよろしく震え上がっておった。ただ、お義母様かあさまには、私をその羽で一打ちする気や、ましてや、その爪にて引き裂く気はないようであった。


 実際、ふさわしき奥様言葉を使わなければと想うものの――そんなもの使ったこともなければ、付け焼き刃で何とかなるはずもなく――それさえも、かばってくれておるのか、率直な話しぶりが気に入ったとおっしゃってくださったが。


 更には、昔のことを憶えているかと聞かれたりはしたが、私にできることはといえば、いつものあれ、

(忘れた振り。忘れた振り。エリザベトは忘れっぽいのだ)

であった。

 嫁なのに――いや、嫁としてまだ認められてさえおらぬのに――情けないこと、この上ないのだが、ただ、こればかりはどうしようも無かった。


 その情けない嫁を拒まなかった理由。それがどこまでアンドラーシュの言う通りなのかは、疑問に想わぬでもなかった。アンドラーシュの言葉は、私を安心させるためのものかもしれない。もちろん、事実無根ということは無いとも想うが。少なからず、国の利をおもんばかってのお義母様かあさまの受け入れであろうと想われた。


 とはいえ、どんな理由であれ、私が拒まれぬなら、私の作戦が受け入れられるならば、それより他に望むものは無かった。


 何にしろ、乙女ゲームに、そしてその下僕の王太子に勝つには、マガツ国の協力――しかもその最たるものである全面的な軍事協力が必要であったのだから。

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