第29話
そして現在。マガツ国の首都にある洋館の2階の一室。
ゴリねえは、私のドレスへの着替えの手伝いを終えると、遠慮会釈なくおっしゃった。
「あら。ここに来るまでに少しおやせになるかと想ったけど、そんなことないみたいね」
(ふっ。ようやく知るを得たようだな。
私の胃袋と食欲は負け知らず。
どんなことにも、くじけないのよ)
その残念な宣告を吹き飛ばさんとして、心中でそうのたまう私。
部屋の外に出てみると、チイねえが待っておった。妙にニヤニヤしておった。そして、他の者に聞かれまいとしてであろう、私のかたわらに来て耳打ちする。
「エリザベト様。その姿を見せられて拒む者はおりますまい。我らの策は最早成ったも同然と存じます」
このお二人は共にあちらの
ああ! あの時がなつかしい。
そしてチイねえは、最後にやはりニタリとして締めくくる。私は先刻承知とばかりに、やはりニタリと返す。
でも心の中は違う。
(そんなニヤニヤして、この状況を楽しんではいけないのだ。少しは当事者の私の身にもなれ。
どうやら、そのニヤツキは私の勝利を確信することから来るようだが。確かにエリザベトは絶世の美女。加えて私のおかげでムチムチ。
これにあらがいえる男子はおるまい。頭では私も分かる。しかし、これを
それにそなたが、どんな尻を好きなのかまで知っているのだからな。私はお二人の更なる秘密をこの旅で知るを得たのだ。お二人は恋人なのである。
無論、お二人は私に勘づかれぬよう努めておったが、四六時中一緒におっては、隠し通すは無理というもの。
私を甘く見てはいけないのである!)
何、考えてんだ。私。
そう、私は既にこの先待ち受けておることから来るプレッシャーに押しつぶされそうになっておったのである。それから逃れたくてしょうがなくなっておったのである。
チイねえの言う『策』。
そう、皇子の籠絡のことである。
それを言い出したのはまさに私。
私は、洋館の外に待たせておった皇子の従者のところに行くと、皇子の下への案内を請うた。
従者は
目に入る景色。
なじみのものは何一つ無かった。
いや、青空と雲、それに差し込む陽光は同じ。
いつもなら、紫外線は女の大敵よと大騒ぎしているところだけど――この時だけは、私は日を浴びながら、外の景色を眺めるのを望んだのだった。
そんな気分だった。
そう、なんてところに来てしまったんだろう。
そして、私は何をしようとしているんだろう。
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