第27話(回想シーン)
実は出発に先立ち、『どれにするか』から始まって、ドレスのことは何から何まで、ゴリねえの世話になった。何せ、私が隣国に赴くのは極秘中の極秘。これがもしオーゼンシュタインにバレでもしたら、大変。ゆえに当事者のみ――父上と私、それに同行するお二人しか知らない。
それもあって、父上のお墨付きの下、ドレスのことがゴリねえに託されたのだった。
「あれは女だから」
前にも聞いた言葉である。正直、父上は、その理由でこのお二人に色色面倒事を押しつけているのでは、という気がしないでもない。
それはさておき、そこはゴリねえ――見た目は大柄な男そのものである。
その出発前のドレス選びの時のこと。
「色については、公爵家の旗が赤と黄色、赤だと血を連想させるし、お嬢様が発情していると誤解されても、困りもの。」
とゴリねえ
(うーん。確かに私は
私の心中に気付かぬままに、
「黄色、少し薄い方が落ち着いて見えるかしら?」
と、ゴリねえは独り言をつぶやきつつ――まるで自分のを選ぶようにしばし真剣に悩んで、薄い黄色のドレスを選んだ。そして私の考えを聞かれた。
「それでいいと想う」
発情して見えるなら、赤は絶対イヤとの心中の本音は口にしなかった。
(籠絡って、どうするんだろう?)
正直、この時あらためて、そんなことも想ったりした。もちろん父上にもお二人にも、そんなことは言えないし、教えを請う訳にも行かない。何から何まで、とにかくエリザベトの美貌頼りだった。
試着してみましょうということになった。私は服を脱ぎ、下着姿となって、胸を手で隠そうとした。それも、できるだけ自然に。そうすると、ゴリねえは私の羞恥心も知らぬげで、
「あら。お嬢様。お胸が大きくなったんじゃあ、ありません?」
私は想わず腕を外して、胸を見てみる。
「私、太ったのかなあ? 自分では良く分からないのだけど」
(いや、正直いえば、食べてばっかりだったから、分からないことはないのだ。それどころか、普段、着ているものは、度々、召し使いさんにつくろい直してもらっておったから、恐らくそうであろうと試着する前から想っておったのだが)
もともと、エリザベトはやせておりながら、お胸もしっかりあった。といって、男子が好きな巨乳ではなく、女子憧れのほどよいお胸という奴である。すべてはプレイヤーである女子の嫉妬をあおるためである。
それがどうも見ただけで分かるほどに、大きくなったらしい。恐るべき私の食欲。女子の理想のエリザベトとから、男子の大好きなむちむちエリザベトへ。
(これもすべて皇子を籠絡するため。
すべてはそのためと)
誰に聞かれた訳でもないのに、心中で秘かにそうつぶやく。
そうでないのは私自身が良く知るが。
もし、誰であれが、なぜ太ったのか、などとそんな
幸いにして、ゴリねえはそこを深掘りすることはなかった。
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