第17話

 そんな時であった。父上に呼ばれた。そして、あの醜聞の件を私に語ったのだった。私がゴリねえから聞いてから、3日は経っておった。それでもなお、父上の手は震え、顔は赤黒くなっておった。


 しかも、父上はゴリねえの如くありのままに語るのではなく、ただ『都でそなたの醜聞が流れておる』としか言わなかったのにである。しかも、やはり娘の恋心への気づかいなのか、王太子の関与を隠しておりながらである。


 私はようやく、何でここのところ父上が食事を一緒に取らなかったのか、その理由を悟ったのだった。私にどう伝えるか3日悩み、しかも3日経ってなおこの怒りであった。


 私は、そんなことは絶対にありえないと知るにもかかわらず、もしその怒りが私に振り向けられたら、と恐れおののいた。

 

 ゆえに、父上が冷静になるのを少し待って。


 いや、待たなかったのだ。私は。この時に私の決意を伝えたのだった。


 これまで、その機会をうかがっておったというのもある。ただそれ以上に、父上は冷静になれば、私の申し出を断るかもしれなかった。


 でも、それは私にとってもそうだし、父上にとってもそう、何より父上の溺愛するエリザベトの死に直結してしまう。


 であるならば、その怒りのために冷静な判断ができないこの時――それを、決して逃すべきではなかった。父上には乙女ゲームの知識がない。といって、父上にここが乙女ゲームの世界だと言って、信じてもらえる保証はない。もし私の転移前の世界で、誰かが同じことを言ったら、私もやはり信じない。


 いかに冷静な判断がなされようと、基本的なところでの情報に誤りがあれば、その判断もまた誤りとならざるを得ない。つまり孫子様のいう『敵を知り』がちゃんとなされないと負けてしまうのである。


 私の告げた計画に父上は強くうなずいてくれた。最早、あまり細かく説明する必要はなかった。


 決め手となったのは、間違いなく王太子側が都で流した醜聞であった。そもそも父上に限らず、娘の父親にとって、これほど嫌で耐えがたいものはあるまい。しかも事実なら仕方ないと納得せざるを得ないところもあろうが、まったくの事実無根である。しかもそれを流したのが娘の婚約者なのである。


 私と同じである。


 父上も堪忍袋の緒を切らしたのだった。


 エリザベトを想うからこその怒り。

 

 気持ちは同じであるな。

 

 親父おやじどの。

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