第11話

 あくまでエリザベトの恋心を気遣う父上であった。娘の望みは王太子の願いに応えること、と想い込んでのことであろう。


 私は止めた。それには明確な理由があり、それを父上に伝えた。


「その反証を得て、こちらが提出したならば、まさに、逆に敵国とつながりある証拠、皇子との密通の証拠とされる恐れがあります」と。


「なぜ、敵国が、我が国の王太子の婚約者を助けるのだ。密通するゆえにこそ、それを手に入れられたに違いないと主張されてしまえば、私たちは非常に厳しい立場に立たされてしまいます」と。


(ゆえにこそ、これは王太子側による罠に違いありません)

との心中の想いまでは言わなかったが。


 父上はその提案を引っ込めてくださった。




 私が転移したエリザベトは王太子に恋しておった。今、なお、そうなのかは知りようがない。あんなことの後である。百年の恋も冷めるどころではない。それは絶対無いとは想う。


 ただ、私にはエリザベトの記憶は無く、私とエリザベトの心は1つに合わさっていない。私はあくまで百花ももかであり、エリザベトではなかった。


 ゆえに私がまったく王太子を信じておらぬこと。というより、敵と認識しておること。それを、私の口から、つまり父上にとってのエリザベトの口から明言するのは控えておった。


 問い返されたら、どうしようと想ったのだ。改めて私の口からエリザベトの恋心を語ることについては、私の中に戸惑いがあったし、気恥ずかしさもあった。その際、私はエリザベトを装って、自らの恋心を語る必要があったので。


 何より、あえてそれを言わずとも十分やれるとの想いがあった。そして私が色色と進言したりする中で、娘の心変わりに父上が自ら気付き、納得してくれたなら、その方が望ましいとも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る