第14話

 朝ご飯。


 父上は先に食べたとのことで、私一人で食べた。そして、私自身にとっても、その方がありがたかった。


 父上の優しい気づかいであろう。


 その後、しばらく経ってから、私は父上の書斎に呼ばれた。初めてであった。


 棚には、写本なのかな? ずい分古びた本が、数冊、横向きに置いてあった。1冊は、父上の机の上の書見台にのっており、まさに開かれておった。


 そういえば、不思議なことが一つ。私にはエリザベトの記憶が無いけれど、この世界の言葉が理解でき、文字が読めるのだ。


 乙女ゲームの死海文書? はたまたグノーシス? 普段なら、ワクワクして、それが何の本なのか尋ねたりするのだろうが、それをする気力もなかったし、また雰囲気でもなかった。


 何の件で呼ばれたかは、想像がついた。確かに食事をしながらする話でないとは、私も想う。父上にとっては、娘のエリザベトが犯されかけたのである。


 まさにいかめしき顔の父上がそこにおった。デレデレ顔しか見たことのない私は、少し驚く。


 ただ父上いわく、

 王太子の親友たちをお二人が全員殺したこと及び、それに至る事件の経緯。それについては、既にフリードリヒ――チイねえのことね――から聞いておるとのこと。


 そして繰り返し問われたのは、


『王太子はこの件に絡んでおらぬのか?』


 ということであった。


(どういうこと?)


 チイねえから聞いておるはずなのに、なぜ、私に確認するのだろうか?


 私はその場で答えなかった。というより、答えが出せなかった。それで「少し休ませて」とのみ答えた。

 

 もちろん、これは本心でもあった。何せあんなことがあった後、半日ほどしか経っていない。


 父上はすぐに私を解放してくれた。




 私は自室に戻った。


 転移してしばらく経ってから、私は寝室の隣の部屋――召し使いさんが毎朝髪をとかしてくれる部屋――を昼の自室として使用し始めた。それまでは、ここは召し使いさんの部屋だと思い込んでおったのだ。


 召し使いさんは、私の髪をとかし終えると、一端どこかに行ってしまう。掃除や何やかやで、その後も出たり入ったりするとはいえ、おらぬことが多かった。


 それでアレッと想い、気付くを得たのだった。召し使いさんには、尋ねずじまいだった。だってそんなことしたら、それこそ記憶喪失。さすがに自分の部屋を忘れた振りはできないのだ。


 その勘違いは、アホウな私らしいといえば、それまでだけど、理由がない訳ではなかった。単純にこちらの部屋はゲームに出て来なかったのである。もちろん、ラブレターは探してみたけど、やはり見つからなかった。


 ただ、今日は――朝ご飯を食べた後と同様――再びベッドの上に寝転がる。もちろん、ゴロゴロなんかはしない。


(どういうこと?)


 正直分からなかった。何か、私が見逃しておることがあるに違いなかった。


 あのチイねえに

 ――今回のことから、武術の達人であるは明らか。更に事前の準備のなされようから見て、かしこそう。おまけに美少年・・・・・・んっ。まあ、それは置いておいて

 ――事件について報告漏れがあるとは想えなかった。


 あるいは、あったとして、父上が問えば済む話である。私に何度も聞くくらいである。そしてチイねえがウソの報告をするとも想えなかった。


 今回の事件にて、父上からの依頼ごとを完全に成し遂げた。二心ふたごころを疑う理由はない。


 あの場で、チイねえも、『これが王太子の依頼によるもの』との発言を聞いたはず。娘の護衛を託すほど信頼するチイねえ。


 そのチイねえから報告を受けているにもかかわらず、私に何を確認する必要があるのだろうか?


 ゴロゴロしてみる。そうすると、何か考えつくかなと想ったのである。


 心中にずるは全くの無。


 ついに悟りを開いた?と想ったら、そこは彼岸ならぬ乙女ゲームの世界・・・・・・なんて。


 うーん。面白くないぞ。私。 

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