　そしていよいよその当日。護衛に立つに先立ち、お二人がアイサツに来た。これから起こるかもしれぬ事柄のことを考えると、二人ともずい分とほがらかな顔であった。まるで旧友に会う如くの。

　先日、小屋を見せてもらった時には、そんな表情はしていなかった。あの時は父上もいたので、遠慮したのだろうか？

　少し話をして、チイねえが聞いてきた。

「もしかして、エリザベト様は憶（おぼ）えていらっしゃらないのですか？」

　私は困った。そしてついつい口走る。

「ゴメン。ゴメン。私って忘れっぽいの」

　二人はずい分と不審な表情を浮かべて、互いの顔を見交わすと、そのまま押し黙った。その後、外に出て、相談しておった。今夕に備えて、細部を詰めておるのだろう。

　まったく頼りになるお二人。

　それに引き替え、私ったら、まったくポンコツ。

　何か、まずいこと、言っちゃった？　バレたかな？　お二人はエリザベトと仲が良かったのかしら？

　そういえば、父上も言っていた。これが初めてではないと。バレないように気をつけないと。

　でも、バレたら、何か問題あるのかしら？　うーん。言ってみる？　

　なんてね。信じてもらえる訳ない。ここが乙女ゲームの世界で、私がエリザベトに転移して来たなんて。

　でも、エリザベト。あなたはどこに行ったの？　

　どうして私にあなたの記憶がないの？

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい