第5話
その父上の協力の件だけど。
私は、今、この時もまさにそうなのだけど、父上とは、毎日、三度三度食事を共にしておった。何せ、おいしいもの大好き、ワイン大好きの私である。
それに実際の中身の私は、若い娘などではなく、40のおばさん。父上と大して変わらない。生理的嫌悪のままに忌み嫌う特権を、もはや私の精神は持ち合わせてはおらなかった。
ただ、そのおかげで、父上との関係は良好との一言につきた。
それでも百名もの部隊を動かすには、やはり理由が必要なのだろう。
「なにゆえだ?」
そう問われた。その答えを用意していなかった私は、心中にあった言葉をそのまま口に出してしまった。
「エリザベトのみさおを守るためです」
それを聞いた途端、父上の顔が赤黒くなった。
「ただ無論、私の取り越し苦労とは想いますが」
そう取りつくろうが、後の祭りであった。父上は、近衛隊より精鋭を千名選び、しかもそれを自ら率いると言い出す始末である。
(いやいや、戦争をするんじゃないんだから。相手は多分数人。百名だって本当は多過ぎる。私がビビりだから、多めにお願いしているのに)
更には食事テーブルの周りをうろうろしだす。まさに今からその千名を率いて出陣してもおかしくないほどに、気色ばんでおった。 どうにも父上がいきり立ち過ぎ、何かをしでかすのではと想えて仕方なく、それはそれで断罪エンドにつながりかねない。
先手必勝とは言うけれど、まずは相手の出方を見極めなければ。それは小さくは王太子であり、大きくはこのゲームの世界そのものなのだけど。
私だって知ってる。
孫子曰く『敵を知り己を知れば、百戦あやうからず』と。(注1)
まあ、本当は、それしか知らないんだけど。
でも、どう? 私は孫子様に
いかん。いかん。また調子に乗っていたら、『ベッドゴロゴロ』や『である連呼』の二の舞である。
ところで、父上はあくまで自らが率いると主張する。この私――実際はエリザベトだけど――に対するデレデレ振りを想うと、不安この上ない。娘を大事に想う気持ちは良く分かるが、冷静さを失い、早まってもらっては、困るのだ。
そこで試しに父上に、孫子の言葉を言ってみた。
すると父上は驚きの表情を見せ、こちらの言葉にようやく耳を傾けた。そしてついには、自らは出しゃばらぬと約束してくれた。
ああ。もちろん、父上がそんな言い方をした訳ではないよ。父上は「我は出るのを控えよう」とか何とか、そんな物言いだった。
ただ千名の精鋭近衛兵の方は譲る気は無いようであり、加えて次の如くに提案してきた。
(注1 正しくは『彼を知り己を知れば、』である。ここでは、主人公はうろ覚えしておったのである。ついでにいえば、作者もこのように、うろ覚えしており、これしか知らない。風林火山は知っているけど、まあ、あれはもうほとんど信玄のものでしょう)
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