第2話 義弟としての俺
その日は朝から具合が悪かった。
いつも通りの週末。
俺はまた朝から姉ちゃんの部屋にきていた。
仕事もできて、時々手作り弁当持っていく美人でスタイルのいい女性、そう世間から言われている姉ちゃん。
でも実際は……
「姉ちゃんもうこの雑誌いらねえだろ?」
「侑ちゃん、それ今月号よぉ。まだ途中なの〜」
「は?こんなヨレヨレでも読むのか?」
「えへへ。お鍋敷きがわりにしたんだもん。大丈夫、読める読める」
「じゃあ、この洋服は洗濯でいいだろ」
「あ、それね〜、まだ半日しか着てないからそのままでいいの」
「もしかしてソファーに積み上がっているもの全部か?」
「そうそう、さっすが侑ちゃん。わかってるね」
「はい、全部洗濯機行き」
「え〜!何でぇ?」
姉ちゃんに任せているとこんな感じだ。
そう、なぜか料理や家事になると超絶不器用になる姉ちゃん。俺からしたら世間の姉ちゃんの評価なんて偽物の仮面の様だ。
俺はマンションから離れた大学に通っている。大学に入ってから安いアパートで一人暮らししているが、姉ちゃんが心配で週末には必ず帰ってきている。
ダチは結構理解してくれている。というか、俺が姉ちゃんに惚れているのがバレてからというもの、協力的だ。持つべきものは理解者だよな。
で、今日も掃除をしながら洗濯をし、さて料理でもするか、と思ったら目の前がぐらついた。
ガタガタンッ!
「侑ちゃん!?」
やべ…… 椅子に躓いちまった。しかもなんか立てねえ。
「侑ちゃん!どうしたの?大丈夫?立てる?もしかして具合悪い?」
姉ちゃんが覗き込んで心配してくれるが、やべぇ。身体すげえだるい。
「侑ちゃん、ちょっと良い?」
姉ちゃんが白い綺麗な手で俺の額に手を当てる。
…… 姉ちゃんの手冷たくて気持ちいいな。
「侑ちゃん!熱あるよ!駄目じゃないちゃんと言わないと!」
「いや、これ横になれば大丈夫だろ」
「何言ってるの!救急外来に行くよ!」
だるそうに言う俺の言葉に姉ちゃんはテキパキと行動に移る。コロナの事もあるから病院に連絡確認の上、タクシーを呼び、ふらふらする俺を支えながら連れて行ってくれる。
これ仕事モード入ったな。
こうなると姉ちゃんは頼りがいがある。俺は大人しく弟の立場になり下がる。
救急外来に行ってもすぐには診て貰えない。ぐてっとなっていると、姉ちゃんが俺の頭を自分の肩の位置に抱き寄せる。
「少し目を閉じて私に寄りかかると良いよ」
にっこり笑って言う姉ちゃん。具合の悪さもあって俺はそのまま甘えさせて貰った。
姉ちゃん、柔らかいし良い匂いがする……
具合さえ悪くなければめちゃくちゃ嬉しい状況だ。
だけど、弟としてなんだよなぁ。この対応。
モヤモヤしながらもその後診察してもらい、幸いにも?俺は一過性の風邪だったらしい。薬を貰い、姉ちゃんのマンションに戻り、なんとか姉ちゃんのベッドに寝かせて貰ってからは記憶がない。
…… ドオン! ドン!ドン!
うるせえなぁ。何だよこの音……
ドオン!ドン!ドン!パラララ……
そうか、河川敷で花火大会があるって言ってたな。
今日姉ちゃん誘って見に行こうと思ってたっけ。
打ち上がる花火の光が、暗い室内ほのかに照らす。
俺の額には冷たいタオルが置かれている。
姉ちゃんやってくれたのか。
タオルを掴んでゆっくり起き上がると、ベッドサイドに姉ちゃんがうつ伏せになって寝ていた。
なんだよ。ずっとついててくれたのか?
姉ちゃんの隣りには氷が入ったボールが置いてあり、今も氷が溶けてカランという音がしている。
…… 姉ちゃん頑張ってくれたんだな。
花火の光が部屋のあちこちに
やべえ…… めちゃくちゃ嬉しい。
一人ニヤニヤしていると、外では大きな菊の花火が上がる。
「ん…… ?侑ちゃん、起きて大丈夫…… ?」
なんだ起きちまった。もう少し見ていたかったのに。
「姉ちゃん、大分いいよ。ありがとうな」
「本当?良かったぁ!」
ガバッと俺に抱きつく姉ちゃん。嬉しいけどうつるって。
…… ドオン!ドンドン!ドン!ドン!ドン!
窓の外では花火大会も終盤のスターマインが夜空を彩っていた。
「本当は侑ちゃんと一緒に見に行きたかったんだよ。でもこの部屋からも良く見えるからよかったねぇ」
姉ちゃんが花火にも負けない綺麗な笑顔で、俺に語りかける。頷こうとしたら、次に姉ちゃんが言った言葉に俺の動きが止まる。
「なんか営業の長谷部さんって人も花火好きなんだって。花火大会の事聞いてきたから今頃見に行ってるだろうなぁ」
呑気に笑って言う姉ちゃんだが…… それって絶対誘ってるだろうが!
「た〜まや〜」と呑気に花火を見る姉ちゃん。そんな姉ちゃんを横目に、義弟としての立場で一緒に花火を見るのは最後にしようと決意する。
やっぱり時間かけてなんかいられねぇ!
俺が姉ちゃんを落としてやる。
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