うちの姉ちゃんシリーズ 

風と空

第1話 うちの姉ちゃん  大事なのは?

 男なら誰でも振り返る女性っているよな。

 好みもあるだろうけどさ。


 どんな時も笑顔の女性

 魅惑的な体型

 近くに来ると良い匂いがする

 いつも弁当作ってくれそう

 優しい心根の良い人


 そんな人実在するか?って思うだろ?

 いるんだよ、そう言われている人がここに。


 「あ〜!もう!何だよこの部屋!」


 俺が一人暮らししてから、久しぶりに訪れたマンション。


 「ゆうちゃん!待ってたのよ〜!」


  叫んだ俺に抱きついてきた女性が俺の姉。


  相模さがみ れい(22) 腕ききのキャリアウーマンだ。その見た目と仕事ぶりから職場からの信頼は厚い。

 しかも理想の女性って言われているらしい。


 が、俺からしたらそんなの偽物の仮面被ってるもんだ。

 実際の姉ちゃんは……


 「あー、また洗濯物山にして!しかも色分けしなかっただろ!せっかくの白シャツに色ついてるぞ!あとゴミはゴミ箱に入れろって言ってるだろ!なんで食器まで床に積み重なってんだよ!」


「侑ちゃん、侑ちゃん。駄目よお。もっと大きな気持ちで見ないと。ホラ、ここに座ると全部座ったままで手が届くのよ。ほらこのシュークリームの袋だって、食べ物置けるじゃない」


 確かに見た目は良いが、家に帰って来るととことん面倒くさがる。弁当だって俺が作ったものをたまに持って会社に行ってるだけだ。


  俺は慣れているからいい。


 が、初めて姉の部屋に訪れる人は皆一様に逃げて行く。

 この見た目だし彼氏はすぐ出来るが、続かない。


 なぜならうちの姉ちゃんは超絶不器用だ。

 料理や家事に関しては全くできない。

 散らかしている自覚が本人にない。

 

 俺、この間かなり綺麗にして行ったんだぞ……

 腐海を見ている様だ。この世の果てだな、ここは。


 来る度に俺の中に絶望感が生まれる。


 「侑ちゃん、せっかくの日曜日よお。しかもお散歩日和!

  ねぇ、どっかに出かけようか?」


 そんな俺に構わず呑気な事をいう姉ちゃん。

 

 本当、得な性格してんだよ。

 なんつーか憎みきれない性格っていうのかな。


 まあ、俺高ニの時両親共事故で他界してから、当時大学一年の姉ちゃん必死になって俺を育ててくれたからなぁ。


 保険金やら貯蓄やらもあったけど、バイトして節約しようとしたりして俺を大学まで入れてくれた。いや、実際家庭の財布の紐は俺が握っていたけど。


 姉ちゃんに任せてみろ。


「侑ちゃん!今日お肉食べよっか。お肉屋さんで特上サーロインステーキ買ってきたんだよ!美味しそうでしょう」


「侑ちゃん!見てみて!お寿司屋さんでおりに詰めてもらったの!たまには上寿司でも良いでしょう?」


「見て〜!でっかいカニ!侑ちゃん食べよ〜!」


 そうこの姉は食べる事が好きだ。

 香水やブランド品や服や靴には余り興味が無いらしい。


 まあ、話はそれた。

 まずはこの世の果てかと思われるこの部屋。

 なんとかしないとな。


「姉ちゃん、俺片付けておくから生ラーメン買ってきてくれよ」


「あるよー、冷蔵庫の中に。丁度二人分無い〜?」


「へえ珍しい」


 姉にしては良い物が入っているらしい。

 

「姉ちゃん飲み物は?」


「そうだねぇ。私いると邪魔だろうし、ちょっとそこのコンビニに行ってこよっか」


「あ、じゃあ俺コーラ」


「はーい。行って来るね〜」


 バタン……


 良し!やるか!

 腕まくりをしてまずは洗濯まわさないとな、と気合いを入れる。


 もう女物の下着だろうが、俺には関係ない。

 小山なっている下着を突っ込み、ブラはネットに入れて洗濯機を回す。


 台所もだけどリビングも仕舞う物、捨てるものと仕分けしてさっさと場所を作る。ソファーの上は脱いだ洋服の山。


 あー、スーツ皺なってるよ。ったく。


 本と雑誌あちこちに散らばっているのを片付けてスペースができた頃に姉ちゃんが帰ってきた。


「ただいま〜。ねぇ侑ちゃん。たまにはお姉ちゃんお昼作ってあげる」


 凄く珍しく姉ちゃんが言って来る。…… 大丈夫か?


「すっごい簡単なの!あ、でも侑ちゃん足りなきゃおにぎりも買ってきたからね」


 会社の人から花の様だと言われる笑顔を見せて、台所へと向かう姉ちゃん。待て!まだそっち片付けてない!



 ふう…… なんとか片付いた。

 ま、まぁ大丈夫だろ。麺、茹でるくらい。


 少しソワソワしながら片付けていると、「侑ちゃん出来たよ〜」と俺を呼ぶ声がする。


 テーブルに行ってみると姉ちゃんが手にしてるのはジッ◯ロック大きめサイズ。


「はーい、これ持って」


 俺にジップ◯ック持たせて、姉ちゃんは茹でた麺だけ中に入れる。後は買って来たチャーシュー、メンマ、茹で卵を入れている。


 「でね。これをかけるの」


 姉ちゃんは小瓶を開けて油みたいなものをかける。

 あ、油そばか!


 「で、混ぜ合わせて〜、はい出来た!」


 箸でわざわざ混ぜて渡してくれたんだが……

 見た目がラーメンから丼を除いた様だった。


 「美味しいんだよ〜。で、食べたらポイッと捨てれるでしょう」


 自慢気にいう姉ちゃんに俺は苦笑する。


 のんびり屋で不器用で面倒臭がりで、それでいてへんなとこで優しい姉ちゃん。


 こんな姉ちゃんに俺は惚れてるんだよなぁ。

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