☆第三十四話 運動系アトラクション☆


 楽しい昼食が終わって、育郎はある意味で今日の目的でもあったアトラクションへ、亜栖羽を誘う。

「スポーツ関係の方、行ってみようか」

「は~い♪」

 空になったとはいえ大きなバスケットは育郎が持って、二人は遊園地の東側に広く展開されている、スポーツ系のブースへとやって来た。

「バスケがあるよ。他にも、色々と遊べるみたいだね」

「本当ですね~♪」

 施設全体では、バスケやスカッシュやボルダリング、アーチェリーや水着着用のサーフィンなど、少人数で楽しめるスポーツが沢山あった。

 少女は、青年が誘った意図を、ちゃんと理解している。

「それじゃ~オジサンっ! バスケのコーチ、お願いしますっ!」

 と、綺麗な挨拶で頭を下げた。

「あ、いや…本格的にとなると、僕は素人だから…。ただ、バスケを楽しむ、くらいの感覚で、一緒に身体を動かそうかって…」

 亜栖羽の本気に、申し訳なく想いながらも。

(僕が…亜栖羽ちゃんに格好悪い姿を見せたくなくて、よく知らないバスケのコーチとかしてしまったら…球技祭で、亜栖羽ちゃんがケガとか…っ!)

 そう考えると、胸が締め付けられる。

 それよりも、格好悪い事実を正直に知らせたほうが、ずっと良い。

 と、巨漢の筋肉が萎縮をしていた。

「そうなんですか~。オジサン、スポーツ万能な感じに見えましたから~、バスケもちょちょいのちょい~! とか思ってました~♪」

 少女は楽しそうな笑顔だ。

「す、すみません…」

 スポーツ万能と、現実とは違っていても高く評価されている事が嬉しいと同時に、期待に応えられない自分が不甲斐ないし、少女に申し訳ないと、ますますシュンとする青年である。

「えへへ~♪ オジサン、バスケ、楽しみましょ~♪」

「う、うん…」

 掌を取る亜栖羽は、なんだかとても嬉しそうで、その意味は育郎には、まだよく解らない。

(こんな格好悪い僕だけど…亜栖羽ちゃんは、呆れたりしないでいてくれる…)

 今日の遊園地で、体格ゆえに乗れないアトラクションがあったり、スポーツを何でもこなせる訳ではない育郎が、亜栖羽には愛しく感じられていた。

 野外のバスケコートが二面ほど空いていて、二人は係員さんからボールを受け取ると、コートへ入場。

「じゃ~オジサンっ。私がシュートを狙いますから~、オジサンは妨害をしてください~♪」

「わ、わかったよ…っ!」

 亜栖羽を妨害するとか、育郎の人生では絶対に該当しないワードだけど、今はバスケを楽しむ時だ。

 ボールを持った少女が、反対側のゴールネットから巨漢青年へと、指さす。

「オジサンっ、オジサンの後ろにシュートっ、しちゃいますよっ♪」

「じゃっ、じゃあ僕はっ、亜栖羽ちゃんからボールを奪ってっ、逆にシュートを狙うよ…っ!」

 言ってて泣きそうだ。

「それじゃ~、行きますっ!」

 少女がボールをバウンドさせながら、走って来る。

 太陽の光をキラキラと纏わせるスポーツ少女の姿は、悪鬼を成敗しに来た天使の如くに眩しい。

(亜栖羽ちゃん…なんて、綺麗で凛々しい…♡)

 素早い駆け足で、育郎の背後で隠れるゴールネットを狙う亜栖羽を、巨体の育郎は殆ど動かず、両腕を拡げる。

「ど、どっちにしようかな…っ?」

 左右どちらも幅を取られ、少女は前へ進めない。

(あっ、亜栖羽ちゃんが困ってる…っ!)

 そう理解をした瞬間、育郎の身体が勝手に動いてしまった。

「あ、亜栖羽ちゃんごめんなさいっ、チャンスですっ!」

「えっ、きゃんっ!」

 おことわりをしながら、青年つい左右の腕を少女へと伸ばし、一瞬だけ躊躇った後、細いお腹を左右から優しくホールド。

 そのまま高く掲げでゴールネットへ向かせると、亜栖羽がゴールし易い高さに位置する。

「えっ? あれっ? はぇっ?」

 高く運ばれたままの亜栖羽は、お腹へ触れられた恥ずかしさで戸惑いながら、愛らしい「?」顔だ。

「亜栖羽ちゃんっ、シュートですっ!」

「は、はいっ!」

 という感じで、少女が素直にゴールポストを揺らすと、優しく下ろして、青年は心から嬉しい笑顔。

「やったよ亜栖羽ちゃんっ! ショートを決めたよっ!」

「いぇ~い♪ ってオジサン~☆ こ、これじゃあさすがに、練習とかにならないですよ~☆」

 と、触れ合いが恥ずかしそうに、亜栖羽が上気のプン顔。

「…あっ!」

 今さらのように、亜栖羽のお腹へ触れてしまった事を理解して、心臓が跳ねた育郎だった。


                    ~第三十四話 終わり~

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