☆第三十二話 怪奇! 鬼VSお化け☆
「オジサ~ン♪ あれ、行ってみましょ~♪」
亜栖羽が指を差したのは、いわゆるお化け屋敷。
「お化け屋敷…? 亜栖羽ちゃん、お化け 好きなの?」
少女の新しい面が見れるかと、ワクワクする青年だ。
「えへへ~、実は私~、入ったこと無くて~♪ オジサンと一緒なら~、お化けとかも 怖くないじゃないですか~♪」
と、恥ずかしそうに告げた少女の言葉と笑顔が、青年の魂に突き刺さった。
「!」
(あ、亜栖羽ちゃんがっ…こんなにも僕をっ、信じてくれている…っ!)
愛しい少女から頼られる喜びと誇らしさで、巨漢の筋肉が更に一回りと盛り上がったり。
「わかったよ…。亜栖羽ちゃん、僕の後ろで、安心して廻ろうね…っ!」
「は~い♪」
少女の盾となる決意をした青年が先頭へ立ち、お化け屋敷へと向かう。
件のアトラクションは、親子連れ向けのようで、なのでメインのターゲットは子供のようだ。
壁に描かれたお化けのイラストも、おどろおどろしいけれど楽し気なろくろっ首のアッカンベーなど、分かり易くて記号的である。
各種の看板も、ほぼ平仮名だけで表記されていた。
入口の券売所は、ボロい感じの暖簾で中が隠されていて、ガイコツの掌などが出て来て子供をビックリさせる感じなのだろう。
「ど、どんな感じ、なんですかね~?」
お化け屋敷初体験な少女は、入場前から青年の筋肉腕へと縋り、斜め後ろへ身を隠している。
(…可愛い…♡)
愛情と一緒に、深い庇護欲がムクムクと沸き立つ育郎は、いつも通りに強面がだらしなく蕩けそうだ。
しかも。
(あ、亜栖羽ちゃんの…胸が…っ!)
縋る腕に押し付けられる少女のバストが、柔らかく暖かく、その豊かにして儚げな存在を教えてもいた。
(僕はっ、どんなお化けからもっ、亜栖羽ちゃんを護るんだ…っ!)
家族向けなお化け屋敷に対して、必要以上な騎士道精神で、育郎は強面をグワっと引き締める。
「…すみません、大人二枚…」
券売所でも、思わず低めな声が出る。
ボロい暖簾の中から、白塗りと青い血管と血飛沫のようなメイクを施した女性らしい細い腕が、恐ろし気に作った震え声と共に、ニュっと伸びて来た。
「…はいぃ~…っ!」
入場料を確認する際に、育郎の顔が見えたらしいお化けの腕は、一瞬だけビクっとなって、演出以上に震えながら入場チケットを回収。
「……ど、ど…どぉぞおぉ…」
少女を護る意思で、まるで悪い魂を握り潰すかのようにグワっと拡げられた筋肉鬼の大きな掌へと、細いおばけの掌が、半券を落とした。
「いまの掌~、怖かったですね~☆」
「大丈夫だよ、亜栖羽ちゃん。僕が決して、亜栖羽ちゃんに触らせたりなんて、させないから…っ!」
亜栖羽にとっては立ったまま潜れる入り口を、育郎は屈んで通過。
お化け屋敷の中は、想像していた程に暗くはなく、井戸やお墓などのセットも低く設計されていて、その辺りもファミリー向けなのだろう。
「じゃ、行こうか…っ!」
「は、は~い☆」
育郎が壁となって、亜栖羽が後ろに隠れながら、少し暗い通路を進む。
青年の巨体と逞し過ぎる背面のおかげで、小柄少女の視界はほぼ後方しかない。
周りが見えないお化け屋敷探索が楽しいのかはともかく、二人はそんな体勢で、各ビックリポイントへと向かった。
「…お~ば~け~だ~ぞ–うわぁっ!」
「…ろぅそく いっぽ~ん…にほ~ん…さん–ひいぃっ!」
子供を驚かす為のお化けたちは、驚かしに出たら筋肉の巨鬼が上からジロと睨んでくるので、逆に悲鳴を上げたりする。
育郎としては。
(ふむ…セットが小さいんだなあ…。隠れているお化けの頭が、見えている…)
と、驚く要素が皆無だった。
亜栖羽は。
「ぅうう~っ! オ、オジサンっ、ぉお化け、出ませんよね~☆」
と、青年の背後で目を閉じて、背中にしがみ付いて震えている。
そんな少女にデレる青年の表情は、お化けが美味しそうだと笑う悪鬼にも見えた。
~第三十二話 終わり~
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