☆第三十一話 育郎には不可能な事☆


「オジサ~ン、早く~♪」

 バスから降りると、入園口は目の前だ。

 家族連れに続いて、二人は最後に降車をして、亜栖羽は遊園地が楽しみで仕方がないように走っていた。

「あはは、いま行くよ」

 亜栖羽がチケットを購入しようとしたので、育郎が纏めて購入をする。

「ありがとうございます~♪ でも、出して貰って、良いんですか~?」

「うん。僕も、亜栖羽ちゃんのサンドイッチが楽しみだし」

「えへへ~♪」

 輝くような照れ笑いから察するに、今日のサンドイッチは自信があるのだろう。

 入場をすると「ニシアフリカトカゲモドキ」をモチーフとした遊園地のキャラクター「アフリカモドキくん」が、出迎えてくれた。

「あ~っ、アフリカモドキくんですよ~♪」

「うん…」

(モドキくん…)

 微妙な名前のモドキくんから園内パンフレットを受け取りながら、少女はモチーフ生物の特徴でもある太い尻尾を、楽しそうにナデナデしている。

「亜栖羽ちゃん、写真 撮ろうか」

「はいっ、お願いしま~す♪」

 亜栖羽のスマフォを受け取る際に、青年を見上げたモドキくんがビクっとなって、同時に中から『うおっ!』という、聞こえてはならない若者の声が聴こえたり。

「はい、撮りま~す」

「わっは~♪」

 少女とアフリカモドキくんのツーショット。

 亜栖羽のスマフォで一枚と、育郎のカメラで二十枚以上の撮影をして、二人は本格的な園内散策を開始した。

「亜栖羽ちゃん、どれか乗りたい物、ある?」

「う~ん、どれがいいかな~♪ あ、立ち乗りのジェットコースターとか、乗ってみませんか~?」

「いいね。行ってみよう」

 遊園地は幼稚園の頃、まだ田舎に住んでいた当時、両親や友達家族と一緒に来て以来の育郎だ。

「今の遊園地って、すごく進化してるんだってね。楽しみだよ♪」

「あはは、もしオジサンが絶叫とかしたら~、係の人たちがビックリしちゃいそうですね~♪」

 などとオシャベリを楽しみながら、立ち乗りコースターへ到着をすると。

「もつ、ももっ、申し訳っ、ございませんです…っ!」

 係の人が、素立ち姿勢でも仁王立ちを思わせる巨漢青年へ、いきなり謝罪をしてきた。

 指し示された看板を見ると、安全対策の基準に従って、育郎の身長では完全にサイズオーバーで、コースターには乗れないという。

「そ、そうですか…」

「それじゃ~、次、行きましょ~♪」

 シュンとする青年を、明るく連れる少女。

 その姿は、鬼を懲らしめた天使のようにも映っていた。

 次に向かったフライング・シップも、その次に向かった高く旋回をする飛行機も、更にバンジージャンプもメリーゴーラウンドも。

「「「「まっ、まっ、誠に申し訳っ–ゴクりっ–ごごごございませんですっ!」」」」

 と、断られ続けてしまった。

 筋肉で盛り上がる肩をガックリと落として、育郎は項垂れてしまう。

 園内のベンチには、落ち込む青年と、園内パンフレットを見る健康美少女。

「亜栖羽ちゃん、ごめんなさい…僕のせいで、なんのアトラクションも、楽しめなくて…」

「しかたないですよ~♪ それより、見てください~♪ オジサンと一緒に楽しめそうなアトラクション、見つけましたよ~♪」

 なんて優しい美少女天使なんだ。

 と、青年は涙が溢れそうになる。

 パンフレットを見ると、身長や体重にほぼ制限のないスポーツ関係やお化け屋敷など、確かに楽しめそうなアトラクションは、まだあった。

「これ~、よくアメリカの青春映画とかで、見るやつですよね~♪」

 高い柱の根本を叩いて重石を打ち上げて、柱の上端の鐘を鳴らすハンマーのゲームである。

「たしかにこれなら、僕でも出来るね」

「それじゃ~、れっつごーです~♪」

「うん♪」

 ハンマーゲームは、亜栖羽にはハンマーが重くて上手く叩けず、育郎は頂点の鐘を変形させてしまうのではという程のパワーで、鳴らした。

「なにか引換券を貰ったから、帰りに交換しようね」


                    ~第三十話 終わり~

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