☆第二十九話 球技祭へ向けて☆


「映画キュリプラ~♪ 面白かったです~♪」

「そうだね♪ いつも通り、内容が深かったよねぇ」

 映画を観終わった二人は、近場にある和風喫茶「おだんご屋」で、映画談義に華を咲かせていた。

「今回の映画は、与野党対決だけじゃなくて『食事とは命を戴く事』がテーマで、異世界の酪農家と、食肉の為に飼育されている生物、そして食べられる側の生物がほぼ人間タイプで、主人公たちと意思の疎通も出来る相手…だったね」

 生き物の肉を食べるというかなり現実的なテーマだし、これが女児向けに制作されているとか、食育に対するスタッフの強い意気込みがこれでもかと感じられる映画だった。

「絶対総裁選とかもでしたけど~、仲良くなった牛人(うしじん)の女の子が、目の前で交配させられて乳牛人になっちゃったり、牛人の幼馴染みの男の子が××されちゃうシーンとか、泣いちゃいました~☆」

「そうだね…」

 映画だからか、表現がテレビよりも遠慮なしだった気もする。

「でも、生きるという事は食べるという事だし…。少しエグいとは思ったけど、やっぱりそれだけ深いんだな…とも思ったよ」

 それは育郎的に、正直な感想だ。

「そうですよね~♪」

 亜栖羽も、可愛いだけの映画ではないと理解をする青年に、また信頼を深めたり。

「あ、それで~、なんですけど~♪」

 亜栖羽は、何か良いアイディアがある、という明るい笑顔だ。

「オジサン、ドローンとかって、飛ばせますか~?」

「ドローン? いや、免許を持っていないから…今は無理だね」

「そうなんですか~☆ っていうか、ドローンって~、飛ばすのに免許がいるんですか~。知りませんでした~☆」

 残念そうなガッカリフェイスも可愛い。

 とか、申し訳ありませんでしたと心の中で謝罪をしつつ、ついニタニタと見惚れてしまう。

「亜栖羽ちゃん、ドローンに興味あるの?」

 今はまだ秘密だけど、秋の行楽へ向けて、せめてホビー用のドローンの免許だけは取りたいなあと、密かに考えている育郎だ。

「いいえ~。私、あんまり器用じゃないですから~、ドローンとか、きっとぶつけたり墜落させちゃったりして、壊しちゃいます~☆」

 そんな場面を想像してか、キュっと強く目を閉じて身震いをする亜栖羽。

 シャッターチャンス!

 と、少女の全てを愛おしく感じる青年の、しかしチャンスを生かすワケにもゆかず泣くしかない状況に、心の中で涙する。

「あれ、それなら ドローンはどうして…あ」

 ハっと気づいて。

「もしかして、球技祭に関係があるの…?」

「え~っ! どうしてわかっちゃったんですか~? オジサンすご~いっ♡」

「いやぁ…でへへ…♡」

 褒められて、またデレデレする強面筋肉。

「イシンデンシンですよね~♡ オジサンと私~、同じこと考えてる~♪」

 亜栖羽がウットリしている。

「亜栖羽ちゃんの学校って、女子高だからね。だから 常識的に考えれば、球技祭の見学に行けるのって、生徒とか関係者の家族だけだろうなって思って」

「う~、そうなんですよ~☆」

 悔しそうに眼を閉じる表情は、先ほどの失敗場面を想像する愛顔とはまた違い、そしてやっぱり可愛い。

「それと、ドローンって撮影するのに、自治体とか色々な許可がいるんだって。まあ普通に考えれば、家族でもない大人の男が、女子高の球技祭を壁越しで空撮したいとか申請しても…不審者扱いされて、当然だからねぇ…」

 自分で言って落ち込んだり。

「う~ん…あ、オジサン! こ~んな望遠鏡、どうですか~?」

 と名案な笑顔をキラキラさせながら、猫の前脚にした両腕を、肩幅よりも少し開く感じで、頭上へ伸ばす。

「…? ああ」

 亜栖羽のジェスチャーに、すぐ正解が解った育郎。

「アレだよね…? 戦争映画とかで出て来る、上に伸びる双眼鏡」

「はい~♪ 流石オジサンです~♪」

 青年が正解をして嬉しい笑顔も眩しい少女は、友だちのプラモ女子が作ったミリタリープラモから、その知識を得ていた。

「持ってないけれど…でもあれは目立つだろうし、道行く途中でお巡りさんに見つかったら、質問されて没収されると思うよ…」

「そうですか~☆」

 とりあえず学校に関しては、育郎の外見上の問題ではなく、単純に家族意外は観覧禁止なのであった。


                    ~第二十九話 終わり~

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