☆第二十八話 映画ありますか!?☆
『オジサン、今度の土曜日 映画ありますか!?』
というメールに、育郎はちょっとだけ驚いた。
「こ、これは…うむ『土曜日に映画を観に行きたいので、時間がありますか?』というメールだよね、きっと」
と推理をして、返事を書こうとしたら、亜栖羽から通話が来た。
『オジサンっ、ごめんなさ~い! メール、打ち間違えちゃいました~っ!』
「あはは、なんとなく解ったよ」
恥ずかしそうに、慌てて電話をくれた亜栖羽だ。
うん、とても可愛い。
育郎は、かなりデレデレした顔のまま、会話を続ける。
「土曜日に、観たい映画があるの?」
と聞いたら、元気な声が返ってきた。
『はいっ! 新しいブリキュラの映画が、金曜日から始まるんです~♪』
キュリプラは、亜栖羽とデートで屋上の着ぐるみショーを観に行ったりした、亜栖羽のお気に入りアニメである。
日曜日の朝放送の女児向けアニメだけど、可愛い絵柄や華やかなバトルに対して、ストーリーの軸はなかなか本格的な人生訓だったりして、大人の男性にもファンがいる事を納得させるアニメである。
「新しいプリキュラって、この間から始まった『美味しい政党 キュリプラ』だよね」
『はい~♪ オジサンも、ご存じなんですね~♪』
亜栖羽の友達は、ほとんど観ていないらしく、同じ作品の視聴者がいて話せる事も、嬉しいようだ。
「それじゃあ、どこで待ち合わせしようか? 時間も合わせられるよ」
『やった~♪ それじゃ~、土曜日の朝八時に、繁華街駅の忠犬像の前で~♪ で、どうですか~?』
朝一番で観たいようだ。
「うん。あ、それとですね…あ、亜栖羽ちゃんの体操服姿…元気で、か…可愛かったです…♡」
スマフォ越しでもデレデレする育郎だ。
『えへへ~♡ オジサンに褒めて貰っちゃった~♪』
弾む声は、スマフォを通しても可愛い。
それからしばらく、いつものように他愛のない話をする二人だった。
土曜日の朝七時。
育郎は繁華街の駅前、忠犬像の前へと到着をしていた。
「良し、これで遅刻しないで 済みそうだ」
少し秋めいてきた空気は、流石に半袖では肌寒い。
特に朝夕は、二十度をかるく下回る気温となっていた。
青年も、シャツの上にジャケットを羽織っている。
「亜栖羽ちゃん、どんな服装かなぁ…?」
元気な短いパンツ姿も可愛いけれど、長いワンピースも儚げで愛おしい。
「どんな服装でも完璧に似合っているんだから、どんな服装でも最高の亜栖羽ちゃんと会えるんだ…でへへ…♡」
強面も蕩ける筋肉巨漢の隣には、忠犬の像がお座りをしている。
通り過ぎる人たちも、桃太郎のお供だとしても犬が一頭では全く分が悪そうだと、犬の心配をしてしまう。
しまりのない大男が、妄想の中で三十分ほど時を過ごしていると、一万年が経っても聞き間違える事は無いと胸を張って言える、愛らしい声が聞こえた。
「オジサ~ン♪」
「あ、亜栖羽ちゃん!」
振り返ると、元気な短パン+黒系のジャケット+バイ菌っぽい帽子コーデで手を振って駆けて来る少女の周りで、数人の男たちが、青年の方を見て驚愕をしている。
「「「う…っ!」」」
育郎はだいぶ慣れたけれど、亜栖羽をスカウトしたいスカウトマンたちや、亜栖羽をナンパしたい男性たちだ。
最上の宝石少女を見付けて声を掛けようとしたら、お目当ての少女は誰かと待ち合わせをしていて、見たら巨鬼が手を振っていたので、脚も声掛けも止まってしまう。
という流れ。
「オジサン、お早うございます~♪ お待たせしました~♪」
「ううん、僕も いま来たところだから」
いつもの笑顔に、亜栖羽もドキドキしてしまっている。
「それじゃあ、映画っ、れっつご~です~っ!」
「うん、行こう!」
二人の後ろ姿に、スカウトたちは、まだ呆然として見送っていた。
~第二十八話 終わり~
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