☆第二十七話 もしもフライング・マッスルなら☆
今日の仕事が終わって、亜栖羽のメールをチェックした育郎は、愕然としていた。
「じゅ…十月に、亜栖羽ちゃんの学校で…球技祭…っ!?」
送られた写真を観るに、亜栖羽たちの学校は体操着がブルマだ。
(亜栖羽ちゃんのっ、ブルマ姿…ハっ!)
特にブルマ好きではないけれど、亜栖羽ならどんな姿でも見たい。
と、意識がデレデレしてしまった自分に気づいて、一喝したり。
「そっ、そういう事じゃなくってっ! 球技祭…亜栖羽ちゃんを応援とか…」
出来れば目の前で、精いっぱいの声援を送りたい。
バスケの試合で、綺麗なジャンプでシュートを決める亜栖羽の輝く笑顔を思い浮かべて、ぜひ称賛して祝いたいと、強面が蕩ける。
「でへへ…ああ、でもっ!」
生徒の家族ではない自分が、学校へ入れて貰えるなど、育郎だって考えてはいない。
「むしろ…見ず知らずの男性が球技祭を見物できてしまえるような学校とか、有り得ないし…仮にそうだったとしたら、亜栖羽ちゃんの身が危険なのでは…っ!」
そう考えると、強面巨漢な育郎が応援に行くのは、絶対に無理だろう。
亜栖羽を困らせないようにと、こんな夜更けに少女へ電話で問うのではなく、学校のHPを閲覧すると。
「………やっぱり。学校行事は基本的に…関係者とその家族意外、立ち入り禁止だ」
亜栖羽の安全は守られているようでホっとしながらも、やはり応援に行けない事が、泣きたいほどに悔しい。
鬼面を涙で濡らしながら、フと思い付いて。
「うぅっ…そうだっ! ここのベランダからっ、見えないかな…っ?」
などと、ネットで地図を見て方角と距離を確かめて、双眼鏡を持ち出して、隣街の隣街の更に隣街へと、目を凝らすものの。
「……見えないか…うぅ…」
よく考えなくても解る事だけど、愛する女性への強い想いは、普段からは考えられないほど、易々と思考を常識から離してしまうものである。
「ああ…僕はなんでっ、もっと亜栖羽ちゃんの近くに住まわなかったんだあぁっ!」
予知能力があるわけでもない青年が、咽び泣いた。
「もし学校の近くのマンションとかだったら、この双眼鏡…いや、市販品最大倍率でカメラ搭載可能な天体望遠鏡でっ、球技祭の亜栖羽ちゃんの全てをっ、写真しまくるのにぃ…っ!」
近隣のマンションから、強面の筋肉巨漢が昼日中に異様な巨大さの天体望遠鏡で、女子高を盗撮している。
どう考えても通報懸案だ。
「…当日、学校前の一般歩道から…壁よりも高くジャンプとかしてっ、少しでも応援出来ないかなっ?」
真剣な顔で真剣に悩む。
こんな馬鹿らしい考えを本気で思考する二十九歳だけど、これも愛ゆえに成せる奇行であった。
念のため、学校のHPで外観を確認したら。
「す、すごい…お嬢様学校な感じ…っ!」
灰明色とレッドブラウンというシックな外観で、立派で上品な学び舎。
正面入り口は階段で警備員さんたちもいて、壁は二階建て以上に高く、周辺地域も二階建て以上の建物は無し。
「……盗撮される危険性はないな…ホ…」
自分のジャンピング・ピーピングも忘れて、学校の防犯体制に安堵する育郎だった。
なので青年はいつの間にか、球技祭の応援よりも、亜栖羽を危険から護る防犯へと、意識が切り替わっていたりする。
「他にも、盗撮の可能性…ハっ! 壁を越えてと言えば、鳥だっ!」
鳥だったら、壁など、物の数にも入らない。
「鳥にカメラを付けたところで…そんなに思い通りの映像が撮れるとは思えないけれど…」
そもそも訓練が必要なうえ、カメラを着けさせられた鳥なんて、近所の人たちにも怪しまれる危険性の方が高いだろう。
「…っドローン…っ!」
ドローンであれば、壁だって難なく越えられるし、鳥に比べてはるかに思い通りの撮影が出来る。
「そうだっ! ドローンでの盗撮とかっ、そんな事件もあったっけっ!」
急いで、ネットで検索をすると。
「……ドローンって、すごく警戒されているんだなぁ…」
大型のドローンは、映像が綺麗だけど免許が必要。
小型のドローンは、ホビーな分だけ映像は操縦する為の最低限。
しかもドローンを飛ばすだけで、自治体などの許可が必要だ。
「つまり、ドローンで盗撮をするような人は、ドローンも自分もが見つかって、通報されるリスクが高いのか…」
ドローンに関しても、学校側は防犯カメラなどで対策を施していた。
「ふむ…凄い学校なんだなぁ…」
と思って、自分もドローンで亜栖羽の大活躍を純粋に応援する事が出来ないと、あらためて分かった。
「うむむ…亜栖羽ちゃんへは、とにかく応援メールを送ろうっ!」
決意をした育郎は、秋の行楽で亜栖羽の映像を撮りたくて、ドローンについて調べ始めた。
~第二十七話 終わり~
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