☆第二十五話 育郎の午後☆
「さてと…」
カモメ屋さんで昼食を終えて、近所のスーパーで夕食のおかずなどを購入し、マンションへ帰宅した育郎。
キッチンのテーブルへ買い物袋を置くと、豆を挽いて、珈琲を煎れる。
ガーっと破壊音を立てる珈琲ミルからは、香ばしい匂いが漂ってきた。
「んん~…良い香りだなぁ♪」
ペーパーフィルターを仕込んだりして準備を終えると、スイッチオン。
「よし。あ…」
ベランダに干してある洗濯物を取り込む。
この街で泥棒の被害とかは聞かないものの、街の皆で日常的に回覧板などで連絡をして、防犯の意味として生活パターンをなるべく一定にしないなど、気遣っていた。
その一環として、育郎も夜に洗濯を干して、取り込みは翌日の朝だったり午後だったり、ランダムに努めているのだ。
とはいえ、ベランダに干してある巨漢青年のトランクスとかを見れば、どんな泥棒だって身の危険を感じて退散するだろう。
洗濯物を畳んで片付ける頃には、珈琲が出来上がっている。
「ふんふん~♪」
午後は、珈琲を戴きながら、プログラミングの続きだ。
育郎は集中力が高くて持続するタイプなので、仕事を始めると何時間でもモニターへ向かってしまうクセがある。
それで一度、首の右から肩甲骨の上あたりまでをひどく痛めて、病院通いになった経験があった。
もちろん通ったのは、整形外科ではなく形成外科。
かつて亜栖羽とドライブデートをした際にも寄った、プラモ屋さんと、そんな話をした事があって。
「タイマーとか仕込んで、一時間ごとにストレッチとか、どうです?」
とアイディアを貰い、実戦している。
「………」
午前中は、少し長く同じ姿勢でも、お昼ごはんの時に全身を伸ばしたりグネグネさせるので、あまり心配はないけれど、午後は長い。
二時間ほど仕事をしていたら、モニター脇にセットしてあるタイマーが、ピピっと鳴った。
「ああ、もう時間か…」
トイレに行ってから、全身を伸ばしたり捻ったりすると、首から肩から腰から膝から、とにかくアチコチの関節がボキボキと音を立てる。
「んんんっ…ふんっ、ふんっ!」
力を込めて上体を左右へ捻ると、更に腰がボキボキと鳴って、全身が心地良い伸ばされ感覚で包まれた。
固まっていた過剰な筋肉も、柔らかくなってゆくのを感じたり。
「はぁ…よし、身体が軽くなった!」
最後に指をボキボキ鳴らすと、育郎は再び椅子へと腰かけてモニターへ向かい、仕事を再開。
「………」
また二時間の集中に入った。
陽が傾いて、部屋が暗くなっている。
「ん…もう夕方か」
今日までの仕事をセーブして、プログラムはここまで。
「んんん…さて」
全身を伸ばして、空になったコーヒーカップをキッチンへ。
「何を食べようかな…♪」
冷蔵庫の中には、タマゴやウインナーなどの食材の他に、冷凍食品も詰め込まれている。
自分で料理をする事もあるけれど、どちらかというと冷凍のおかずが多い、一人暮らしの青年だ。
「あれ…これ、賞味期限がギリギリだ」
ちくわの磯辺揚げと、マヨネーズを包んだチキンの竜田揚げが、明日まで。
「これにしよう♪」
実は、育郎が最近ハマっている冷凍食品でもあった。
朝に炊いたご飯は塩オニギリにしてあったので、少し味の濃いチキンは、特に相性が良い感じだ。
準備を終えると、夕食タイム。
「戴きます♪」
食べ終わると食器を洗って、お風呂に入り、パジャマ姿でスマフォをチェック。
昼食の帰りに、スーパーの前で赤とんぼを見かけたので、急いで写真に撮って、亜栖羽へメールを送っていたのだ。
「あ、亜栖羽ちゃんからメールが来てる…♡」
湯で蕩けた鬼瓦のような強面で、育郎は少女からのメールを、何度も読み返す。
そして夜遅くまで、今度は洋書SFの翻訳をするのであった。
~第二十五話 終わり~
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