☆第二十一話 特撮?☆


 いつものデートのように、育郎は亜栖羽を最寄りの駅まで送る。

「それじゃあ♪ ありがとうございました~♪」

 夕暮れの赤い太陽に照らされる少女の笑顔は、上気している頬も照らされて、艶々で眩しい。

「うん、またね」

 本当は、マンションまで送ってあげたいけれど、住民に目撃とかされて亜栖羽の家族に伝えられたりしたら、亜栖羽にいらぬ迷惑をかけてしまうだろう。

 と育郎は考えている。

 自分の外見、主にフェイス周りの事を気にしていないと言えば、ウソになる。

 しかしそれだけでもなく、もしJKの娘と二十九歳の男性が付き合っているなどと知ったら、母親は心配をして父親は激怒するだろう。

 もし自分が亜栖羽の父親だったら、そんな男は呼び出して引き裂いて丸呑みにしてしまう自信がある。

(気持ち的に だけど…)

 なので育郎は、電車の中から亜栖羽をお見送りするしか、出来なかった。

 扉が開いて閉じるまでの数秒間が、一瞬とも数時間とも感じられる。

 電車が発車するまで、少女は笑顔で見つめてくれていた。

 この時間が、幸福でもあり切なくもある。

 別れを惜しんでいると、亜栖羽が少しだけ、近づいてくる。

(あっ、危ないっ!)

 身体が亜栖羽を支えようとひとりでに動いて、しかし少女が足を止めたので、昇降口を挟んで近づいた形。

「オジサン、後でお電話 しますね~♪」

「う、うん!」

 次の瞬間に、扉が閉じた。

 電車が出発をすると、少女は輝く笑顔で、ずっと手を振ってくれている。

(やっぱり…僕が早く、ご両親に認められる男にならないと…っ!)

 反対されているいないどころか、お付き合いをさせて頂いている事すら知らないであろう娘さんのご両親へと気構えて、方向性もよくわからない自分の向上へと、繋がっていた。


 マンションの自室へ帰って、育郎は早速、今日のデートで撮影しまくった亜栖羽の写真を、パソコンの外付けハードディスクへと移動。

「ううむ…どの写真も 天使が映ってるなぁ…♡」

 三桁数も久しい写真の一枚一枚、全ての撮影状況が、育郎の頭で鮮明に蘇る。

 この中から数枚を厳選して、自分のスマフォへと取り込んで、亜栖羽のスマフォへ送るのが、デートの後の、二人の恒例であった。

「この写真もダントツに良いし…ああ、この写真も最高に可愛いなあ…♡」

 などと、蕩けるようなだらしのない笑顔で、亜栖羽の写真を眺めてデレデレ。

 もしモニターに心があったら、蕩ける強面という地獄の形相を向けられ続ける苦行に、自らシャットダウンをしてしまいそうだ。

「………よしっ、これで送ろう…っ!」

 二時間ほどをかけて、三桁の写真の中から厳選に厳選を重ねて選びに選び抜いた十枚ほどを、メールで送る準備が完了。

「じゃ、電話…あ、そうか。亜栖羽ちゃんが、僕に電話をくれるんだっけ!」

 画面をタッチしようとして、思い出した。

 亜栖羽の方から電話をくれると言う事なので、育郎は待った方が良いだろう。

「そうだよね。亜栖羽ちゃんの準備が あるだろうし」

 座布団の上に正位置でスマフォを置いて、正座で待つ。

「うむ。男は黙って待つ」

 とか心構えを黙っていない青年。

「………」

(亜栖羽ちゃん、今どうしてるかな…?)

 とか思った瞬間に、スマフォが鳴った。

「うわっ–ででっ、出ないと…っ! も、もしもし…っ!」

『あ、オジサ~ン♪ 今晩は です~♡』

「今晩は…でへへ♡」

 耳元で聞こえる少女の声が弾んでいて、青年の心も弾む。

『今日は、ありがとうございました~♪ すっっごく、楽しかったです~♪』

「いやぁ、僕の方こそ楽しかったよ♪ あ、写真、送って良い?」

『は~い♪ あ、私からも、送りま~す♪』

 お互いに写真を送り合って、少女から送られた写真は。

「うおぉ…っ!」

 亜栖羽にプレゼントした本形のアクセサリーを、亜栖羽似なプラモデルの少女が眺めている愛らしい姿と、その背後で見守っているらしい、育郎のような筋肉巨体の強面プラモだった。


                    ~第二十一話 終わり~

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