☆第十六話 夏前から続いていた育郎の努力☆


「あ、そうだ。亜栖羽ちゃんに、カフェで伝えそびれていた事が あったんだ」

 思い出した事を、いつもの感じで伝えたら。

「! な、なんでしょ~…?」

 亜栖羽は緊張の愛顔になった。

 思わぬ表情に、一瞬。

(か、可愛い…ハっ!)

 見惚れてしまってから、少女を驚かせてしまったと、自省をする。

「あ、えっと…読書感想文ではなくて、ですね…」

「あ~、そうなんですか~っ! 私、オジサンがダメ出しとか~、し忘れていたのかと思って~、ドキっとしました~☆」

 緊張から安心した表情となって、少女は冷たい緑茶を一口戴いた。

「ま、紛らわせちゃって ゴメンね…。それで、夏休み前に計画してた、日帰りキャンプなんだれけど」

「っはい~♪」

 童話のダメ出しかと緊張した直後の、楽しみなキャンプの話題で、亜栖羽の笑顔がいつも以上にキラキラと輝いたり。

 育郎はスマフォを見せながら、亜栖羽の予定を尋ねた。

「再来月だけど、第二土曜日 どうかな?」

「はい~♪ 大丈夫です~♪」

 土曜日は学校が休みだから心の余裕があるだろうし、逆に日曜日だと翌日が学校なので心から楽しめないだろう。

 なので育郎は、仕事の合間を縫っては道具の貸し出しもしている近場のキャンプ地を探し、全てのキャンプ場の予約状況をチェックし続け、やっと予約を勝ち取ったのであった。

「オジサンと日帰りキャンプ~♪ すっっごく 楽しみです~♪」

 青年の努力を理解してくれている笑顔だ。

「えへへ…道具も借りられるし、バーベキューも予約できるから、自然の中でいっぱい 食べようね」

「はい~♪ このキャンプ場って~、色々と見どころも多いみたいですね~♪」

 画面に表示されているキャンプ場のページには、オススメポイントが色々とアピールされている。

「湖でボートに乗ったり、山道とかケーブルカーで山頂まで上れたりできるし、川で釣りとかも出来るみたいだね」

「いわゆる川魚~、ですよね~♪」

「うん。亜栖羽ちゃんは、釣りの経験 ある?」

 亜栖羽は少しも考える事なく。

「ないです~☆ ミッキーのお兄さんがアウトドア派ですから、ミッキーも一緒に釣りとかしてるって、言ってましたけど~♪」

「そうなんだ」

 亜栖羽の友達であるミッキー嬢は、スポーツ少女だ。

 夏休みに、亜栖羽とミッキー嬢と桃嬢と育郎の四人で海へ行った時も、育郎に水泳勝負を挑んで来た程、スポーツ大好きであった。

「僕も 釣りは子供の頃に田舎の川で、みんなとしてた…くらいかなぁ…」

 小学生の高学年になったくらいまでな頃の、思い出だ。

「それじゃ~、オジサンから釣りのご指導、して頂けるんですね~♪」

 そういう事も、楽しみなのだろう。

 期待の笑顔がキラキラと眩しい。

「ま、任せておいてよ!」

(今度、釣り堀とかで練習しておこう。念のため…っ!)

 と決心をした育郎である。

「このキャンプ場って~、紅葉狩りも出来るんですね~♪」

「あ、そうだね。タイミングが合えば、山の紅葉も見られるみたいだね」

 亜栖羽と二人で、赤々と燃えるような紅葉のトンネルを、見上げながら歩く。

 紅い紅葉の間から、高くて青い空が見えて、陽光をキラキラと反射させたり。

 そして最も輝いているのは、紅い落ち葉とトンネルに囲まれて、太陽の優しい陽射しを受ける、愛らしい亜栖羽。

(いいなあ…でへへ…♡)

「でへへ…♡」

 妄想が口から出ていた。

「オジサンは 紅葉狩りって、経験ありますか~?」

「ん…僕も初めてだね。キャンプもだけど、亜栖羽ちゃんと一緒に体験できるの、楽しみだよ」

 と内心を話すと。

「紅葉狩りって、どうやるんでしょうね~? やっぱり弓矢とかで、ビシって射抜くんですか~?」

「いや…眺めて愛でたり、綺麗な落ち葉を思い出として拾ったり…そんな感じだよ」

 少女の発想に驚かされながらも「枝の紅葉を一発で射抜いたら、亜栖羽ちゃん、恰好良いって喜んでくれるかな」とか思った育郎であった。


                    ~第十六話 終わり~

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