☆第十五話 季節をちょっと先取り☆


 育郎と亜栖羽が相性ピッタリな所以の一つに「食べ物の趣味がほとんど一緒」という点がある。

 食べる事は呼吸と同じく、産まれた時から一生ものであるから、好みが合うだけでリラックスできる相手となりえるのだ。

「季節の和菓子店なんだろうね。寄ってみようか」

「は~い♪」

 お菓子の好みが和菓子という点でも、二人はすぐに意気投合が出来る。

 横断歩道を渡って、お店の前へ。

 お店の正面には和風の屋根が目立ち、如何にも和菓子店だと、一目でわかる。

「オジサン、お店の中で 食べられるみたいですよ~♪」

「本当だ。席もまだ、空いているみたいだね」

 美術鑑賞や折り鶴を折ったりと、知性の面で楽しんだので、ちょっと休憩してゆく二人。

 お店の中も和風の内装で、木の柱や漆喰の壁が、落ち着いた色合いだ。

 ショーウィンドウには、三色団子やドラ焼きや各種の羊羹といった定番から、夏ミカンのぜりぃやイチゴの最中など、ちょっと変わった和菓子までが、陳列されている。

 どの商品も半数ほど売れていて、人気のお店だと伺えた。

「面白い和菓子があるね」

「ですね~♪ 眺めているだけで、楽しいです~♪」

「いらっしゃいま–ま、ませ…っ!」

 小柄な美少女が和菓子好きらしいのは、お店の若旦那にも嬉しい事実らしく、笑顔で出迎えたら背後の鬼に驚かされたり。

 育郎たちがお菓子を眺めていたら、次のお客さんが後ろに着いた。

「あ、早く注文しないとだね」

「は~い♪ すみませ~ん♪」

「は、はい…っ!」

 注文をくれた少女の愛らしさと比して、背後の警備鬼が迫力満点。

 ウッカリ失態でもしたら、まさしく和菓子の如く、頭から食べられてしまいそうで、若旦那は息を飲んで接客をした。

 二人は店内の右側、歩道に面した窓際席へと、案内をされる。

「季節の和菓子って~『柿ぜり~』って、言ってましたね~♪」

「うん。まだ夏が終わったばかりだけど、柿は秋の果物だもんね。二人で 季節を先取りだよ」

「ですね~♪ 柿ぜり~って~、どんな感じなんですかね~♪」

 果物が入ったゼリーという商品は、コンビニなどでも普通に売られている。

 しかしその果物が柿というのは珍しいし、季節の和菓子として販売しているくらいなのだから、自信の一品なのだろう。

「お待たせいたしました」

 若旦那の奥様が、給仕さんを務めているっぽい。

 育郎と亜栖羽は共に、柿ぜり~と冷たい緑茶をセットで注文していた。

「これが、柿ぜり~か…」

「当たり前ですけれど~、コンビニとかで売っているゼリーとかとは、全く違いますね~♪」

 小さなお盆に乗せられた、ガラス容器の緑茶と、お皿の上の柿ぜり~。

 明色系の緑色なお皿は重い感じがなく、半透明で朱色のぜり~を、清潔に、そして爽やかに飾っていた。

「素敵です~♪」

 店内撮影がOKだと張り紙で確認をしていたので、亜栖羽は写真に収めて楽しみ、そんな少女を育郎も写真に収める。

「じゃ、戴こうか」

「は~い♪」

「「戴きます」~♪」

 まずは冷たい緑茶で、口中をサッパリさせる。

 ぜり~は、小さな匙ですくって戴く。

「あ~ん…んむ…」

「んむんむ…んふ~♪」

 口の中へ入れた瞬間に、柿の香りが鼻腔にまでフワっと広がり、柿の蕩けた果汁が舌に溢れる感じ。

 柿特有の甘さと酸味だけど、酸味は隠し味的な味わいで、柔らかくてプルプルな食感も涼し気だ。

「ぜり~に柿の歯応えや食感があって、食べてても柿~って 感じだね」

「はい~♪ 美味しいですね~♪」

 ぜり~の中には一口大の柿も入っていて、ぜり~のトゥルトゥル食感と柿のタクタクな歯応えで、食べていても心地が良い。

「んん~…よく冷えているし、味わいも確かに 秋だよねぇ…♪」

「はい~♪ 食欲の秋~、先取りですね~♪」

 更に冷たい緑茶を戴くと、ホロ苦さと緑の香りで、口の中がスッキリとリセットされる感じ。

 美味しそうに柿ぜり~を戴く少女を、青年はまた何枚も写真に収めた。


                    ~第十五話 終わり~

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