☆第十三話 つがい☆


 亜栖羽の折った美しい折り鶴と、育郎が折ったブサイクな折り鶴。

 二つが並ぶと、飛んでいる鶴と暴走しすぎたダチョウのようにも見えたり。

「うぅ…」

 太い指とはいえ、プラモデル制作や塗装には、それなりの自信があった育郎だけど、指先で紙を折るという作業には、あまり関係が無さそうだ。

「あの…なんか、ヘンな怪鳥が出来ちゃって…ごめんなさい…」

 と頭を垂れる青年に、少女は心から楽しそうな返答をする。

「オジサンっ、この折り鶴~、私が頂いて良いですか~?」

「えっ?」

 綺麗に折れた鶴ならともかく、こんな左右非対称ですらある悲劇の鶴を、亜栖羽は欲しいと思ったのだろうか。

「あ、亜栖羽ちゃん、その…僕を慰めてくれているなら…」

 気を使わなくても大丈夫だよ。

 と言おうとして。

「いいえ~♪ 私、この折り鶴~、すっごくオジサンっぽい折り鶴で~、何だか可愛く想えるんです~♡」

「そ、そう…?」

 亜栖羽の輝く笑顔を見るに、特に育郎を気遣って無理に笑顔という様子は、塵ほどにも感じられない。

「本当に、いいの…?」

「はい~♪」

 亜栖羽は、掌の上の折り鶴たちを眺めて、楽しそうである。

「そ、それじゃあ…どうぞ」

「は~い♪ 頂きま~す♡」

なんであれ、亜栖羽が喜んでくれるなら、それで良い。

「うん…えへへ…」

 それだけで、落ち込んでいた育郎の心が、とても軽くなった。

 折り紙教室から出てくると、国道へ続くまでの短い散歩道があり、左右は、膝までの高さな草で囲まれている。

「あ、オジサン、ネコですよ~♪」

「本当だ」

 左の草から、二匹の猫が姿を見せた。

 一匹は身体の大きな三色の雄猫で、面立ちしなかなか端正である。

 もう一匹は白い雌猫で、平均的な大きさで、顔もなかなかの美形であった。

 どちらも、亜栖羽を見ても驚かず、育郎を見てニャっと警戒をするものの、逃げ出す様子はない。

「あまり、人間を怖がってない感じだね」

「そうですよね~♪ 目の前をノンビリ 横切ろうとしまてしたし~♪」

 この辺りの地域で暮らし、地域の人たちみんなに可愛がられている、いわゆる地域猫のようだ。

 雌猫が座って身体を舐めたら、雄も近くに座って、顔を洗う。

「可愛いですよね~♪ 写真~、撮りますね~♪」

 猫にだけでなく、育郎にも告げていると、解る。

「それじゃあ、僕も…」

 少女が屈んで猫たちの写真を撮る姿を、青年は斜め後ろから、ネコもフレームに入れて撮影。

 亜栖羽が三枚ほどの写真を撮る間、育郎は三十枚ほどの写真を連射したり。

 二匹が仲良く身を寄せている姿を見ていると、なんだかホッコリしてしまう。

「あの二匹~、カップル猫でしょうか~♪」

「そんな感じだよね。仲良いし、身体 くっつけてるし」

 小鳥なら、つがいと呼べるだろう。

「ネ~コネコネコ~♪」

 亜栖羽が掌を仰向けにして、指先をツンツンと揺らす。

(ふふ…呼び方、なんだか懐かしい感じだな…♪)

 育郎の頭を過ったのは、田舎のお婆ちゃんが、近所の野良猫を呼ぶときにも、こういう掛け声だったなぁという、子供の頃の思い出だ。

 もしかしたら、亜栖羽のお婆ちゃんも、同じような呼び方をしているのかもしれない。

「じゃあ 僕も…ネ~コネコネコ~♪ う…っ!」

 巨体を屈めて、頭を撫でようと掌を出したら、雄猫がフーっと威嚇をしてきた。

「オジサン、それじゃあ来ないですよ~♪ 指先をネコの視線よりも低くして~、掌を上向きにして~、ネコの自由にニオイを嗅がせてあげるんですよ~♪」

「そ、そうなんだ…ネ、ネコネコネコ~♪」

 まさしく、さっきよりも、の猫なで声で、強面まで緊張で強張らせる筋肉の巨漢。

 はたして。


                    ~第十三話 終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る