☆第十二話 育郎の指☆


 小道の突き当りには、こぢんまりとしたロッジ風の木造建築物が建っていた。

「別荘みたいな建物だね」

「ホントですね~、可愛い~♪ あ、何かイベント やってるみたいですよ~♪」

 入口の脇には、木製な手造りの立て看板に「折り紙教室」と書かれている。

 小道の後ろにいて育郎たちのムンクモノマネで号泣した子供が、母親と一緒に来たかった場所らしい。

 育郎たちが道を譲ったら、母親は会釈をくれながら、子供は母の向こう側へ隠れながら、イベント施設へと入って行った。

「参加無料…街のイベントみたいだね…」

 美術館へ来たお客さんもどうぞ。

 という感じもする。

「オジサン、折り紙 折ってみましょ~♪」

 青年は、少女に掌を取られて、ロッジ風な施設へと上がった。

「あ、いらっしゃっ–ぅうっ!」

 小柄な美少女を笑顔で出迎えた男子高校生が。背後から現れた筋肉巨漢に、思わずたじろぐ。

「ぇえっとぉ…お、折り紙…で、ですか…?」

 たぶん、ちょっとした校則違反やズル休みくらいの覚えが、普通にあるのだろう。

 制服にエプロン姿のボランティア少年は、閻魔様のお使いがやって来たと思ったらしく、何日も練習をした歓迎の挨拶を、噛んでしまっていた。

 少年の緊張に気づいたボランティア仲間の学生たちも、強面筋肉巨漢の入室に、戦慄を覚えている様子。

「は~い♪ 私たちも~、折り紙 教えて貰えますか~?」

 小柄な美少女の明るい挨拶で、少年たちの緊張も、ゆっくりだけど解けてゆく。

「ぁあ…はい…。こちらへ、どうぞ…」

 最初に対応をした少年が、いまだ怯えながらも、案内をしてくれる。

 とにかく鬼は、天使のような眩しい少女が使役をしているようなので、傍若無人な振る舞いはしないだろう。

 と、安心をした少年たちだ。

 育郎が椅子を引いて亜栖羽がお尻を降ろすと。育郎も隣の椅子へと腰かける。

「えへへ~♪ ありがとうございま~す♪」

 嬉しそうな亜栖羽がこの上なく愛おしい育郎の強面が、また蕩けた。

「そ、それではぁの…折り鶴を、折ってみましょうか…」

「はい」

「は~い♪」

 大きな鬼の掌には小さいけれど、小柄な少女の掌には丁度良いサイズの折り紙。

 亜栖羽は赤色で、育郎は緑色を選択していた。

「折り方は、こちらを参考にしてください。解らない事があれば。僕たちが お教えしますので」

 目の前には、少年たちが折ったらしい見本の折り鶴と、手順が書かれたペーパー。

 ボランティア・スタッフである少年は、傍らに立ってスタンバイ。

「は~い♪ それじゃ~オジサン、どっちが綺麗に折れるか、競争ですよ~♪」

「うん…っ!」

 育郎が気合の入った蕩け顔を晒している理由は、亜栖羽が「勝負ですよ~♪」とかではなく、「競争ですよ~♪」と、ちょっと意味が違う事を言ったからでもある。

「ええっと~…まずは、半分に折って~…」

「ふむ…また違う角度で、半分に折って…」

 育郎的には、プラモデルで培った指先の技術があるので。

(凄っっっごく綺麗な折り鶴を折って、亜栖羽ちゃんに喜んで貰うんだっ!)

 とか、自信満々で意気込んでいたら。

「あ、あれ…? なんだか、折りづらい…あわわっ、大きく折り過ぎた…っ!」

 最初の半分折りに比べ、行程が進めば進むほど、細かい折り目になるほど、折った形が歪になってゆく。

「出来ました~♪」

 亜栖羽が折った折り鶴は、どの折り目も左右対称で綺麗に折られていて、見本と見紛うばかりな美しいシルエットを魅せている。

「で、出来ました…」

 育郎の折り鶴は、端を見るほど折り目がズレていて、完成形となると、まるで罠に嵌って暴れて放置されたような、凄惨なシルエットであった。

 指の太さが、折り紙には合わなかったのだろう。

 亜栖羽が、育郎の折り鶴を優しく手に取った。


                    ~第十二話 終わり~

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