☆第十話 芸術論?☆
正面玄関から入館をすると、少し涼しい気温設定だ。
「それじゃあ、鑑賞しようか」
「は~い♪」
受付けでチケットを差し出すと、女性の美術館員さんよりも、警備のお兄さんの方が緊張の面持ちである。
「ああ、パンフレットもあるんですね。一部、下さい」
「は、はい…っ!」
鬼が絵画のパンフレットを欲する様を初めて見た女性館員さんは、隣で微笑む小柄な美少女に、芸術的な価値を強く見出そうとしていたり。
「この展示は、若手の現代芸術家の人たちを応援する目的も あるんだって」
趣旨のページを、亜栖羽にも見せる。
「なるほど~。つまり若い芸術家さんたちの作品を展示して、たくさんの人たちに見て貰って~、芸術活動を応援する展示 でもあるんですね~♪」
「そうだね。芸大とか出た人たちなのかな」
正面ロビーから、通路に従って鑑賞をしてゆく。
静かな館内は老人たちだけでなく、若い人たちも意外と多くて、親子連れも数組だけど鑑賞している。
極薄いあずき色の壁には、額縁に収められた絵画が、適度な間隔を開けて展示をされていた。
「ここは…風景画のコーナーかな…」
野山や草原だけでなく、大きな樹木や青い空と雲、雪景色や夜の森などが、写実的に描かれている。
「わぁ~…綺麗な森ですね~♪」
静かな声で、素直な感想を呟く少女。
「そうだよね…特にこの、雪に埋もれた農地とか、どれくらいの時間 雪の中で描き続けていたんだろうね…」
「そうですよね~…」
創作風景を思い描くと、絵画へ挑む作者の情熱も感じられて、いつまでも鑑賞していられる気分になる。
「こっちは、崖の上から夏の海を見下ろしてますね~♪ オジサンと海に行った日の暑さとか、思い出しちゃいます~♪」
「そ、そうだね…でへへ」
写実的な鬼の自画像が湯で溶かされるように、だらしのない顔の青年だ。
亜栖羽の友達も含めて海へ行った思い出だけど、亜栖羽のビキニトップが行方不明になるというハプニングも、思い出してしまう青年。
一瞬だけどバストを見てしまって、慌てて強面ごと逸らしたけれど、その時の羞恥する亜栖羽の姿も、頭の天辺から足の先まで、完全に回想する事が可能であった。
一時間ほどかけて、館内の展示を全て鑑賞。
写真は女性のヌードもあったりして、亜栖羽よりも育郎の方が恥ずかしがったり。
正面玄関とは別の出口から、外へと出た。
館内よりも高い気温が、まだ初秋だと、あらためて実感をさせてくれる。
「あ~♪ なんだか私~、頭 良くなっちゃった気分ですよ~♪」
「若い芸術家たちの作品って、勢いっていうか、どんなに静かな画でも 熱い芸術家魂みたいな圧を感じるよね」
「えへへ~♪ 私、そこまでの感受性はムツカシイ感じでした~♪」
少し恥ずかしそうな笑顔も、やっぱり愛らしい。
「私~、芸術っていうか、ピカソさんとかゴッホさんとか、中学校の頃に習った、有名な画家さんしか知らないです~」
芸術に興味がある人いがい、誰でもそういう感じだろう。
かくいう育郎も。
「僕も そんな感じだよ。有名過ぎるけど『モナリザの微笑み』とか、他に知っててもピカソの『泣く女』とか」
美術館の裏は細い散歩道のようになっていて、二人は木陰が涼しい緑なす木々の間を歩いた。
「ピカソさんって~、なんだか複雑なお顔の絵画とか、有名ですよね~」
「ああ、そうだね。ピカソは天才だと言われているし、ああいうタッチには『立体の全てを平面で表す』という挑戦だった。とも言われているよね」
「そうなんですか~! なんだか、凄っごい事を追求していたんですね~☆」
素直に驚いた少女である。
「ちなみに、天才だと言われている所以というか…僕も何かで『ピカソが十四歳の頃に描いた毛布のデッサン画』っていうのを観たんだけどね。正直、僕の目にはモノクロの写真にしか見えないくらい…言葉に出来ない程のデッサン画だったって、覚えているよ」
「写真みたいな画 っていう事ですか~?」
育郎の言葉を疑っているワケではない亜栖羽だけど「写真のようなデッサン画」という画が、想像し辛い様子だ。
育郎も、自分で観なければ、人に言われても想像できないだろう。
不意に、亜栖羽が身体ごと、育郎のいる方とは反対側へと、向いた。
~第十話 終わり~
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