☆第八話 少女としては☆


「随分と 可愛らしいお客さんですね~♪ 変わった本ばかりだけど、遠慮なく見て行ってくださいね~♪」

 小柄な亜栖羽に、落ち着いた感じながらも明るく接客をしてくれる。

「ふふ…巨人さんと一緒だと。お店 狭いですねぇ♪」

 と青年に話しかける笑顔も、大人っぽいというか、美人の女性という言葉がよく似合う。

 美人店員さんからの言葉が、亜栖羽は、自分と育郎が別々の客だと思われている。

 と感じた。

「こ、この豆本、このまま読むんですか~?」

 と、隣の青年に訊ねて見せる。

「ああ、これは 一緒に置いてある虫眼鏡を使って、読むんだよ。はい」

 育郎が手渡した虫眼鏡は、少女の片手には少し大きなサイズだ。

「これで読むんですか~。あの、拝見して、良いですか~?」

 美人店員さんに訊ね忘れていて、思い出して聞いてみる。

「どうぞ~♪ そのサイズまでなら、ページも指で捲れますよ~♪」

 特に言葉にはしないけれど、育郎と亜栖羽が赤の他人同士という訳ではないと、理解をしたらしい。

「えぇと…豆本の、歴史…?」

 虫眼鏡で見た表紙には、そのようなタイトルが書かれていて、標準サイズでも違和感のないデザインだ。

「豆本で豆本の歴史を読むとか、デフォかもだけど 洒落っ気のある本だよね」

 と、青年も楽しくなってくる。

「わぁ~♪ 裏表紙にも、ちゃんと印刷会社とか、書いてあるんですね~♪」

「日本の豆本の小型化記録を塗り替え続けてるのって~、わりと皆さんが聞いた事のある 大手の印刷会社さんですからね~♪」

 豆本の蘊蓄を語る美人店員さんは、心から楽しそうな美しい笑顔。

 表紙を捲った亜栖羽が育郎を見ると、青年は豆本のページを熱心に見ている。

「凄いなあ…二センチくらいの本なのに、ページ割まで印刷されている」

「本当~♪ 凄いんですね~♪」

 安心したように、亜栖羽もページを凝視した。

「えへへ~♪ でも私~、書いてある内容は、よく解らないです~☆」

 豆本の歴史とか、たしかに女子的には、あまり興味は惹かれないだろう。

「女性のお客様には、こういう商品もありますよ~♪」

 美人店員さんが持ってきてくれた小さな籠には、本やペン先などをモチーフとしたアクセサリーが、小さな袋にラッピングされて乗せられていた。

「わぁ~♪ 可愛い~♡」

 ピン留めやキーチェーンなどの種類があって、サイズは小さいものの、デフォルメされていないデザインだ。

「この本とか~、そちらの豆本と、同じサイズなんですよ~♪」

 ページが開かれた本の形で、渋い革色の表紙や白いページなど、意外と大人っぽい感じのキーチェーン。

「こういうの 家の鍵とかに着けていると~、本当の作家さんみたいですよね~♪」

「あはは、そうかもね。亜栖羽ちゃん、そのアクセサリー、気に入った?」

「可愛いです~♪」

 育郎は、美人店員さんへ告げる。

「これ ください。プレゼントで」

「は~い♪」

 突然のプレゼントに驚く少女。

「え、オジサン 良いんですか~? なんだか、申し訳ないです~」

「いやぁ、折角だから、記念にね」

 育郎的には、一冊の童話を書き上げた少女への、記念の一品だ。

「でもでも、さっきもケーキ、戴いてしまいましたし~」

 やはり遠慮してしまう少女に、美人店員さんが後押しをする。

「お似合いだと思いますよ~♪」

 美人店員さんは、亜栖羽と育郎の関係をどう考えているのだろうか。

 親子か。兄妹か。あるいは言葉通りに親戚か。

 通報されていないので、いつものように歩道で地域パトロールの人たちなどから質問を受けるような、やましい関係と勘違いをされていない事だけは、解る。

「そ、そうですか~。それじゃあ、お言葉に甘えて~♪」

「うん」

 育郎も嬉しい。


 本屋さんから出てくると、亜栖羽はちょっと、複雑な表情。

「? なにか、気になるの?」

「あ、いいえ~。ただ私~、早く大人になりたいな~って~♪」

「?」

 そう言った亜栖羽の表情は、いつも通りに明るくて、小さな憧れにキラキラしていた。


                    ~第八話 終わり~

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