☆第六話 特殊な本とは☆


 お店の中は、外観から想像できるよりも、更に狭い。

 壁に並べられた本棚だけでなく、手に取って確かめる樽の小さなテーブルまで設置されている店内。

 全体の内装は木目調で、天井の照明も優しい感じ。

 小柄な亜栖羽が一人なら、こぢんまりとした印象だけど、筋肉巨漢が一緒だと、もう狭いとしか表現できない。

(う…考えていたよりも、狭い感じが…)

 これでは、亜栖羽が本を眺めづらいだろう。

「可愛いお店ですね~♪」

 ワクワク顔も輝く程に愛らしいけれど、無理はさせたくない青年心理。

「えっと…僕はちょっと、出てようか…?」

「え~、どうしてですか~?」

 亜栖羽は、特に狭さを気にしている様子はない。

「あ、いや…亜栖羽ちゃんが狭くないなら…」

 と、天井へ届きそうな強面が、下からの照明も浴びつつ、気遣いに委縮していたり。

「全然 大丈夫ですよ~♪ 一緒に観ましょう~♪」

「はい…ホ…」

 胸を撫で下ろす育郎であった。

 入口の右側の棚を見ると、図鑑くらいの大きさを誇る外国の絵本が並んでいる。

「? なんだか、不思議な本が並んでますね~」

 表紙などは、動物や子供たち、ドラゴンなどが描かれている本たちだけど、表紙も裏表紙もやけに分厚く、背表紙も手で持てるくらいの厚みと硬さがあった。

「これは、子供向けの本だね。テーブルの上の同じ本は 試し読みが出来るから、亜栖羽ちゃん 観てみる?」

「は~い♪」

 英語で書かれたタイトルは、子供向けの冒険ファンタジー物だとわかる。

「わあ…表紙、なんだかプラスチックですね~」

 段ボール三枚ほどの厚さな表紙を捲ると、裏側はビニールっぽくて、指で触れても凹んだりはしない。

「? 不思議な表紙ですね~♪」

 初めて触るタイプの本に、ワクワクしている様子だ。

 そんな愛らしい少女を、青年は黙って見守る。

「中の紙も、なんだか艶々してますよ~?」

 実はそこが、この本のキモである。

「捲りま~す♪」

 分厚い一枚目を捲ろうとして、指先がドラゴンのイラストへ触れた途端。

 –ガオオオォォォンっ!

「きゃっ–オジサんっ、叫びましたかっ!?」

「いや、僕では…」

 叫んだのは育郎ではなく、本だった。

「え~っ! この本、叫び声を上げるんですか~っ? あっ、もしかして 呪いの本とかですか~?」

「の、呪いの本ではないね…」

 仮に呪いの本だったら、命がけでも亜栖羽には触れさせないだろう。

 亜栖羽が本を回して見たりして、ドラゴンボイスの正体に気が付く。

「あ~、これ 柱のところ、スピーカーが入ってます~っ!」

 背表紙の上下に、スピーカー用の溝が彫ってあるのを見つけた。

「その通り。これは、背表紙に電池と ページにセンサーが入っていて、イラストに触れるとセンサーが指先の静電気を感知して、イラストに合わせた音声が再生されるんだ」

 子供の感受性や好奇心を刺激する、外国製の、いわゆる知育絵本の一種だ。

「わあ~っ♪ すごい絵本なんですね~っ!」

 ページごとのイラストをタッチすると、ページ数や指の位置でセンサーが反応をして、ドラゴンの声やキャラクターの一部セリフ、キャラクターたちの足音や魔法の効果音など、数種類の音声が再生される。

「音の種類は全部じゃないけど、子供から見れば魔法の本だろうし、少し大きくなったら機械的な仕組みにも興味が持てる。みたいな コンセプトらしいよ」

「そうなんですか~♪ あ、魔法の音だ~♪」

 主人公が杖を掲げるイラストに触れると、魔法を唱えるキラキラした音が出て、剣を振ると金属音がした。

「あはは♪ おもしろ~い♪」

 亜栖羽も気に入ったらしい。

「他にも、こんな本もあるよ」

 同じタイプの動物図鑑で。写真の動物へ指で触れると、その動物の泣き声が聞こえる。

「タ、タスマニア・デビルの泣き声って、本当に怖いですね~☆」

 驚く少女の愛顔も、また最上の輝きだと、青年は心の底から頷いていた。


                    ~第六話 終わり~

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