☆第三話 ケーキ☆


「そ、そうですか~。えへへ~♪」

 育郎の感想に、嬉しそうに照れる亜栖羽。

 愛しくてしかも尊敬している男性からの言葉に、少女は勇気が出た様子。

「それで~、おじさんから見て、どうですか~? なんてゆーか~、ど、童話として…っ!」

 真剣に、いつも以上にキラキラと輝く瞳。

(むむっ! 亜栖羽ちゃんは、創作物としての感想を求めている…。ならば…っ!)

 キツい言い方は避ける方が良いけれど、求められている事には、ちゃんと応えるベキだろう。

 もちろん、編集者でもなければ「洋書SFの翻訳」という、創作作家でもない、在宅プログラマーな育郎なので。感想も個人の意見だ。

 それを踏まえたうえでの、亜栖羽の求めなのだから、青年は真剣に応えた。

「物語の基本と言われる『起承転結』ではないから、童話というジャンルとは少し違うかもしれないかな。でも今は、亜栖羽ちゃんが楽しんで書ければ それが一番だし。さっきも言ったけど、僕はこのお話…その、大好きです…」

 なぜか語尾が恥ずかしくて、筋肉巨漢が怖面を赤らめてモジモジ。

「そうですか~♡ えへへ~♡」

 素直な感想を貰った小柄JKも、嬉しそうに擽ったそうに、頬を染めていた。

 書いた亜栖羽本人も、拝読した育郎も、これは童話ではなくラブレターになってしまっていると、気付いていない。

「書いてみて わかりましたけど~、物語を作るって、すっっごくっ、難しいんですね~☆」

 と、少女は体験を語る。

「そうなんだろうね。それが、作家の先生たちにしてよく言われる『産みの苦しみ』なのかもしれないね」

「うぅ~☆ これをお仕事にしているオジサンたちって、すごいです~っ!」

「あ、いや…僕は翻訳だけだし…ああ、でも」

 洋書の翻訳に必要なスキルは、なるべく直近の英語を知っている事や、英文を理解できる読解力たけではない。

 違う文化を、知っている文化へ、どう伝えるか。

 という、むしろ俯瞰的に見渡せる想像力ともいえる。

「っていうのが、僕の実感と友達の編集者の、一致している意見かな」

「そうなんですか~♪ それをこなしているって、やっぱりオジサン、すっごい方なんですね~♡」

 と、憧れと尊敬で、亜栖羽の瞳が更にキラキラ。

「い、いや…でへへ…それほどでも…ふへへ…」

 鬼瓦の形に仕上げた夏のチョコみたいに、だらしなく蕩ける筋肉巨漢だ。

 テーブルのノートを手に取って、亜栖羽は少し考えて。

「オジサン、私がまた童話を書いたら、読んで頂けますか~?」

 話し方はいつもの感じだけど。視線はいつもより真剣に感じられる。

「もちろん! 僕の感想で良ければ、いつでも!」

 むしろ読ませて頂きたい。

 素直な青年の言葉に、少女は元気が出たらしい。

「はい! それじゃあ、もっと頑張って 楽しい童話を書きますね~♪」

「うん。でも焦らなくて良いからね。とにかく、楽しむ事が大切だから」

「は~い♪」

 その表情は、希望の輝きで眩しかった。

「それじゃあ、亜栖羽ちゃんの童話 記念すべき第一作の完成を祝って」

 あらためて、ドリンクで乾杯。

「えへへ~♪ ありがとうございま~す♡」

 その後も、審判の時間が終わって安心したからか、亜栖羽はケーキも注文。

「私~、このベリーベリーベリーケーキ、食べてみたいです~♪」

「僕も、このチーズケーキ、食べてみようかな」

 基本的に、二人とも和食や和菓子が食の趣味だけど、だからこそ、洋菓子を食べるタイミングも合ったりする。

 店員さんを呼んだら、鬼が降参して安心したのか、ウエイトレスさんが来た。

 それぞれのケーキを注文して、到着。

「わぁ~♪ 三種類のベリー、綺麗ですね~♡」

「チーズケーキは、シンプルなタイプだね。亜栖羽ちゃん、食べてみる?」

 と、何気なく尋ねたら。

「いいんですか~? あ~ん♡」

 と、無防備な「あ~ん」を、魅せてくれる。

(!)

 育郎の理性が弾き飛ばされそうな程の、信頼しきってくれている愛顔。

 思わず柔らかい頬を両掌の指先で触れたくなって、人前であるし、必死に自制をした育郎だ。

 二人で分け合ったケーキは、幸せの味しか解らなかった。


                    ~第三話 終わり~

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