☆第一話 夏休みが明けて☆


 森のクマさんとウサギさん


 むかしむかし。

 あるところに、ふかい森がありました。

 おおきな森には、いろいろなどうぶつが、なかよくくらしています。

 あるひ、いちわのウサギが、キイチゴをとりに、森のおくへと、でかけました。

「森のおくには、こわいクマがいるんだよ」

「そうだよ。だから、森のおくへは、いっちゃダメなんだよ」

 おともだちのどうぶつたちは、みんな、そういいます。

 でもウサギは、どうしてもキイチゴがたべたくて、しかたがありません。

「すぐにかえれば、だいじょうぶよ」

 そういって、たったいちわで、森のおくへとやってきました。

「わあ、なんてきれいな、みずうみかしら」

 はじめてみた、森のおくには、おおきくておひさまがキラキラとかがやく、みずうみがありました。

 みずうみのまわりには、キイチゴがたくさん、みのっています。

「まあ、おいしそうなキイチゴがいっぱい。おともだちにも、つんでかえりましょう」

 ウサギは、かごのなかへと、キイチゴをつみはじめます。

 そのときです。

 ちかくの木が、ガサガサとなったとおもったら、なんとおおきなクマさんです。

「まあ、おおきなクマさんだわ」

 みんなから、こわいクマがいるとおしえられていたウサギは、こわくて、たちあがれません。

 こわがるウサギに、クマさんは、ちかづいてきます。

「たべられちゃう」

 ウサギがそうおもったら、クマさんはなんと、キイチゴをつみはじめました。

 おおきなクマさんは、かたてでたくさんのキイチゴをとりあげると、ウサギのカゴへと、おとしてくれます。

 どうやらクマさんは、ウサギのために、キイチゴをとってくれたようでした。

 ウサギは、クマさんが、おおきくてこわいけれど、やさしいクマさんだと、おもいました。

「クマさん、キイチゴをとってくれて、ありがとう」

 ウサギがおれいをいうと、クマさんはうれしそうです。

「いいんだよ。ここのキイチゴは、とてもおいしいから、いつでもつみにくるといいよ」

 クマさんのえがおに、ウサギは、こころがポカポカしてきました。

「クマさん、いっしょに、キイチゴをたべましょう」

 ウサギはクマさんと、みずうみのほとりで、キイチゴをたべました。

 それからウサギは、まいにち、クマさんとあそびます。

 いっしょに、みずうみでおよいだり、サクランボやあまいハチミツを、なめたりしました。

「このきのみは、あきになると、おいしくなるんだよ」

 クマさんは、森にくわしくて、いろいろなことをおしえてくれます。

 クマさんのねどこは、いわの、よこあなです。

 ねどこには、フカフカのくさが、たくさんしいてありました。

「わ~い。ふかふかベッドだ~」

「ふゆは、とてもあたたかいよ」

 ウサギは、クマさんとすごすのが、たのしくてしかたがありません。

「クマさん。これからも、あそびにきていいですか?」

「うん。ぼくも、ウサギさんと、いっしょにいたいな」

 森のみんながこわがる、おおきなクマさんは、とてもやさしい、すてきなクマさんでした。

 それから、ウサギとクマさんは、いっしょになかよく、すえながくしあわせにくらしましたとさ。


                    おしまい。


 育郎が拝読をしている間、亜栖羽は愛らしい美顔を緊張の面持ちで、俯かせている。

「………拝見いたしました」

「!」

 青年の静かな言葉に、亜栖羽がビクっとなった。

「あ、あの…ど、ど…どぅでしょぅか…」

 いつも太陽のように明るい少女が、忍耐で身を固くしている。

 ノートを閉じ、テーブルの上へと丁寧に、亜栖羽から見て正位置となる向きで、静かに置く。

「………」

 育郎は、人生で初と言えるくらい、感想に迷っていた。


                    ~第一話 終わり~

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