好きじゃなくって愛してる! ~初秋編!~

八乃前 陣

☆プロローグ 亜栖羽の宿題☆


「………」

「………」

 夏休みが開けて、二学期。

 最初の休日である土曜日のお昼前。

 育郎と亜栖羽は、カフェの席にその姿があった。

 運ばれたアイスティーを前に、緊張の表情も愛らしい亜栖羽は、まるで合格発表を待つ受験生の如く、俯いて身を固くしている。

 テーブルを挟んだ向かいの席には、アイスカフェオレを前に、やはり緊張の強面な育郎が座す。

 姿勢も正しく冷や汗を見せる筋肉の巨漢は、いたいけな少女を丸呑みにしに来た鬼と見紛うばかりであった。

 カフェの店員さんたちも、実は警察へ通報した方が良いのではと、気遣った一場面もあったり。

 しかしポニテも涼し気な少女の極上笑顔で「だいじょ~ぶで~す♡」とか、幸せいっぱいの眩しい笑顔で返されてしまうと、その背後で蕩けた鬼瓦のような青年が悪鬼に見えても、どうすることも出来なかった。

 向かい合う二人の間、テーブルの上には、一冊のノートが置かれている。

「そ、それじゃあ、オジサン…お願いします…っ!」

「で、では…ゴホん」

 ジっと目を閉じる亜栖羽以上に緊張をしている育郎が、震える指で、ノートを手に取る。

「…は、拝見します…っ!」

「は、はい…っ!」

 開かれた横書きノートの一ページ目は真っ白で、更に捲ると、タイトルが書かれていた。

『森のクマさんとウサギさん』

 カラーマーカーで手書きの少女文字に、巨漢青年の心が、一瞬で溶解させられた。

(ぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ~~~っ、亜栖羽ちゃんの手書き文字とっ、タイトルぅっ! なんて可愛いんだあああああっ♡)

 育郎が手にしているのは、夏休みの間に亜栖羽が書いてみたいと言った、創作童話だった。


                    ~プロローグ 終わり~

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