第189話 提携・前編

「斥候が美紅さんと恵梨花さん、弓術士が美姫と真琴、近接アタッカーが麟瞳と俺できっちり三人ずつの組分けができますよ。この組分けを使って、何かできませんか?」 

「正輝さんはまた勝負をしたいようだな。この前のリベンジのつもりなのか?受けて立とうではないか」

「ええーっ、また勝負をするんですか?トレントモドキがいる限り僕に勝ち目はありませんよ」

「やれやれ、しょうがないな~。麟瞳さんの為に勝負の方法を考えないといけないな。取りあえず、組分けをしておこうか」

 

 滅茶苦茶声が弾んでませんか?結局は美紅さんが勝負好きなだけですよね。福岡ダンジョンに来てからもう三回目の勝負になりそうだが、美紅さんに逆らえる人なんていないから決定なんだろうね。


「取りあえず料理を食べてから、その後に組分けをしましょう。折角のステーキですから、温かいうちに食べてくださいね」


 何度食べても飽きないとても美味しい料理なので、しっかりと食べることに集中しよう。


「やっぱり、うちの料理より美味しいな。これは何の肉を使っているんだ?」

「これは、ワイルドボアですね。綾芽の大好物です」

「今回は時間がなくて食堂の事までは話をできなかったが、本格的に魔物肉の導入は考えた方が良さそうだな」


 美紅さんもお目が高いですね、ダンジョン産の食材は美味しいんです。


「そういえば、マジックアイテムの鑑定はどうでしたか?万能スコップと魔法銃の鑑定結果は特に気になりますね」

「万能スコップは、これで土を掘ると植物の成長に最適な土になるものらしい」 

「おおー、肥料いらずなんですね。植物の成長に最適な土なら、ダンジョン産の野菜や果物が外でも栽培出来るのかな?出来たらもう野菜や果物を買わなくて良くなりますよ。岡山に帰ったら農業に挑戦してみようかな」

「なるほどだな。麟瞳さんはよく気づくものだな。出来れば《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスの屋上でも果物は育てたいな。ここの果物は本当に美味しいから、その時は麟瞳さんに手伝ってほしいな」


 美紅さんはダンジョン産の果物の虜になっているからね、その時には手伝わせていただきます。でも、育つかどうかはわかりませんよ。


「ここの階層は草原ですし、ダンジョンの中で野菜や果物を育てることは出来ないんですか?」

「真琴、君は天才なのか?」


 何故か隣のテーブルにいる真姫がやってきたよ。耳が良い奴だなー、何が言いたいのかはもう分かったよ。


「麟瞳さんがおバカなだけよ」

 

 これだけが言いたいんだよね。真姫は言った後すぐに戻って行ったよ。


「真姫は耳が良いですね。わざわざ来なくてもいいのに、どうしても言いたかったんですよね」

「フフ、真姫と麟瞳さんは本当に仲が良いなあ」

「これを仲が良いと言うんですかね。さっきのユニークギフトの話も合わせて、僕をからかっているだけだと思いますよ」

「普通は仲が良くないと言えないよ。それで耳が良い繋がりだが、恵梨花にこの指輪を装備してもらおうと思って取っておいたんだが、恵梨花は必要か?」

「ええーっ、私にくれるんですか?欲しいです、ありがとうございます。サブマス、何の効果がある指輪ですか?」

「聞き耳だ。斥候ではかなり有用な効果があると思って、恵梨花の為に持って帰ってきたんだ」


 滅茶苦茶喜んでいるよ。美紅さんから貰うのがまた嬉しいんだろうな。


「これでクラマスやサブマスの会話がよく聞けます。私の悪口は許しませんからね」


 そっち系の使い方をするのね。別にお二方は恵梨花の悪口なんか言わないでしょう。


「それはまずいな。私達の会話を盗み聞きしたら、恵梨花は精神的に立ち直れなくなるぞ」

「えっ、本当に私の悪口を言ってるんですか?」

「さあ、どうだろうな」


 まあ冗談だろうけど、恵梨花がアタフタしているよ。いらん事を言わなければ良かったのにね。


「恵梨花、当然冗談だからな。ワタシタチガエリカヲワルクイウハズガナイダロウ」

「なんでロボット口調なんですかー!」

「お二人の方が仲が良いですよね」

「これのどこが仲良く見えるんですかー!これはイジメです、完全にイジメです。抗議しますよ!」


 恵梨花よ、始まりは君が作ったんだ、しょうがないよね。


「恵梨花のせいで、話がそれてしまったな。魔法銃の鑑定結果に戻ろうか。魔法銃は凄いぞ、四属性の魔法が一種類ずつ使えるらしい。《花鳥風月》は、また強力な魔法武器を手にしたようだな」


 うーん、微妙なマジックアイテムだな。真姫の装備している魔法杖の劣化版のような効果だ。いちいち武器を持ち替えるのも隙を作りそうだし、誰か装備したい人はいるのだろうか?


「おや、あまり嬉しそうにしないのだな」

「そうですね。誰か使いたい人がいるのかなと思ったんですよ」

「確かに俺もそう思うな。使うとしたら美姫か真琴になるよな」

「私は遠慮しておきます。前に短剣に持ち替えるだけでも大変でしたし、魔法は風魔法が使えるだけで十分です」

「私も美姫姉と同じです。まずは風魔法をちゃんと使えるようにすることで精一杯です」


 なぜだか美紅さんが固まっているんですが………


「この人達は、なんて贅沢なことを言うんだ。魔法攻撃はどのパーティも欲しがる攻撃手段だぞ。オークションに出せば高値落札で間違いないだろう。因みに買取り価格は八千万円だったが、私はその価格を安いと思ってしまったよ」

「そうですねー、うちは真姫以外は全員が魔法スキルを持ってますから、他のパーティとは感覚が違うんですかね」

「私がここでパーティを組んだことがない人も、魔法スキルを持っているんだな。《花鳥風月》は本当に常識の通じないクランだな、改めてそう思うよ」


 そこは同感ですね。普通のパーティに魔法攻撃者がほとんどいないのは知っていますよ。


「だったら、恵梨花が使ってみますか?うちのクランの使いそうな二人がこう言ってるんで、多分うちでは誰も使わないと思います。恵梨花には次にマジックアイテムの短剣が出てきたらプレゼントしようと思ってましたし、代わりに魔法銃をプレゼントしますよ」

「また八千万円のプレゼントか?《Black-Red ワルキューレ》としては、もうお返し出来ない程の恩が溜まっているんだが、本当に良いのか?」

「一応この後に皆の意見を聞きますね。それに恩は十分返してもらってますよ。ここに四人の方達がいてくれるのが、何物にも変え難いことです。しかも戦闘の指導など、経験の浅いクランメンバーにとっては滅茶苦茶有り難いですよ」

 

 食事も終わり、片付けは美姫のスキルで一瞬で終わった。食後のまったりタイムは、美味しそうなマンゴー付きだ。ここのマンゴーは坂出ダンジョンのよりも美味しそうに見えるんだよね。


「真姫、今日はデザートをマンゴーにしようと思うんだ。食べれるように切ってくれないか?」

「ダイスカットすれば良いのね、了解よ」

「種は捨てずに取っておいてね。後から携帯ハウスの周りに植えてみようと思っているんだ」

「また変なことを考えるわね。分かったわ、ちゃんと取っておくようにしておくわ」


 マンゴー最高です。美紅さんが無言で、一心不乱に食べているのが美味しさの証明だね。坂出ダンジョンよりもかなり美味しかったよ。


 森崎さんもうちのタンクと打ち解けたようで、楽しそうに話していて安心したよ。


「《Black-Red ワルキューレ》の方達もいるけど、この前のマジックアイテムを誰が使うか決めようと思うんだ。まずは超加速のブーツだな、誰が使う?」


 これはあっさりと遥が使うことに決まった。近接アタッカーだとスピードは大切だよね。綾芽は俊敏の指輪に、素早さアップのブーツ、そして【身体強化】のスキルで上乗せしてかなりのスピードで戦闘出来るから、遥が装備するのが良いだろう。












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