第188話 二つ名
「森崎さんには家があるのは見えませんか?」
念のため登録していない人には携帯ハウスが見えないのかを、もう一度確認しておこう。
「急に美紅が見えんようになるからビックリしたで。ここには家があるんやな、アタイには見えへんわ」
よしよし、すぐ目の前から見てもこの結果なら安心だね。玄関前のパネルを開いて森崎さんの登録をおこなった。
「うっわー、またまたビックリや、ほんまに家があるわ」
登録してしまえばしっかりと見える。三人連れだって家の中へと入って行った。
「ええーっ、なんで鉄壁の森様がいるんっすか?」
《Black-Red ワルキューレ》マニアの詩音のお出迎えである。
「鉄壁の森様って、森崎さんのことなのか?」
「そうっす。リーダーは何も知らないっすね。常識っす、日本の常識っす」
えっ、そこまでの常識なの?詩音よ、リビングにいるメンバーの半数は顔を背けているぞ。
「鉄壁の森の森崎智美様、赤い閃光の霞音乃様、空間の支配者の風野奈緒様、トリプルマジシャンの香月凛様、それに美紅様と世那様の六名の方達で《Black-Red ワルキューレ》様のトップチームっすよ。リーダー、常識っすよ。ええーっ、鉄壁の森様の右腕があるっすー。特級ポーションっすよね、良かったっす」
本当に忙しい奴だなー。先程までしたり顔でウンチクを垂れていたのに、ガチ泣きし始めたぞ。これはどうしたらいいんだ?
「すみません、来て早々にこんなになってしまって」
「ちょっとビックリしたけど、アタイらのことよう知っとるなー。美紅と世那は有名やけど、アタイらはそうでもないから嬉しいわ」
ちょっと顔を引き攣らせながら謙遜する森崎さんは良い人だなー。
「あれ、美紅さんや世那さんには二つ名みたいなのはないんですか?」
「やれやれ、麟瞳さんは本当に何も知らないようね」
おっと、真姫が会話に入ってきたぞ。滅茶苦茶嫌な予感がするのは気のせいなのだろうか?
「美紅さんは用意周到で、世那さんは唯一無二よ。因みに《東京騎士団》の加納さんは一騎当千、榊さんは才気煥発、ユニークギフト名がそのまま二つ名になるのが慣例ね。もしも麟瞳さんが探索者として有名になれば、点滴穿石の龍泉麟瞳と呼ばれるようになるわ。アー、ウラヤマシイナー」
真姫よ、何故最後は棒読みなんだ。全然羨ましくないのがバレバレだぞ。
「じゃあ、《千紫万紅》が有名になったら、正輝は風林火山の奈倉正輝って呼ばれるのか。滅茶苦茶格好良いなー」
「そうそう、変幻自在の原田詩音、堅牢堅固の神楽皐月、以心伝心の橘美姫、風林火山の奈倉正輝、そしてパーティリーダーの点滴穿石の龍泉麟瞳よ。本当に滅茶苦茶格好良いわね、一人を除いて」
一人を除いての一人って、誰なんだろうね?全く見当がつかないよ。
「美紅、アタイの耳がおかしいんやろか?ユニークギフト持ちが一杯おるように聞こえたんやけど」
「智美、《花鳥風月》にはユニークギフト所持者が五人いるんだ。ありえないと思うだろうが事実だからな」
「最近はもうユニークギフト所持者って珍しくないんじゃないですか。僕の知り合う探索者って半分ぐらいはユニークギフト所持者な気がするんですよね。ここにいる人も半分以上がユニークギフト所持者だし、間違いないですよね」
「「大間違いやわ!」」
えっ、結構な勢いで否定されたんですけど、しかも美紅さんの関西弁付きですけど。
「麟瞳さん、ユニークギフト所持者は日本に五十人程しかいないそうだ。たった日本に五十人程しかいないユニークギフト所持者が、この携帯ハウスの狭い空間に八人いることが異常なんだ」
「えっ、五十人しかいないんですか?本当かなー。《Black-Red ワルキューレ》さんにも少なくとも五人のユニークギフト所持者がいますよね。僕を騙そうとしても、簡単には騙されませんからね」
「いや、うちに五人いるって、二人は麟瞳さんの元パーティメンバーだからな。麟瞳さんの周りだけユニークギフト所持者が沢山いるんだ」
「正輝の方がパーティを組んでた期間が長いですから、正輝の周りにユニークギフト所持者が集まるんですかね?」
「俺の名前が聞こえたから来たけど、絶対に麟瞳の周りに集まっていると思うぞ。麟瞳が異常なのは間違いない」
正輝の裏切り者め。さっきまで居なかったのに、なんてタイミングで話に入ってくるんだ。
「まあユニークギフトの話はおいておくとして、御昼御飯にしましょうか。森崎さんの歓迎パーティーですね。ちょっと豪華にいきましょう」
「えっ、森崎様も一緒に探索してくれるんっすか?」
ガチ泣きしていた詩音が立ち直ったようですね。
「えっと、タンクの指導をしてくれることになったんだ。うちのタンクは経験が浅いから、非常に有り難い提案をしてくれたんだ。皐月、桃、山吹はしっかりと教わるようにな」
三人とも嬉しそうに挨拶をしているよ。《Black-Red ワルキューレ》のトップチームということは、Aランクダンジョンの七十五階層まで進んでいる日本最高峰のチームだ。そのメンバーから直接教わることが出来るって、本当に幸せ者だなー。
「皐月、私にも大盾を貸してほしいっす。私も森崎様に教わるっす」
詩音よ、君はもうアタッカーだから、馬鹿なことは言わないようにしようね。
「詩音はタンクに転向するんか?ウチが槍を教えようと思っとったんやけど、まあ遥と綾芽に教えようかな」
「いえ、私はやっぱりアタッカー志望っす。世那様に一生付いて行くっす」
詩音よ、いつからそんなにポンコツになったんだ。
歓迎パーティーの席は、折角なのでくじ引きはやめておく。森崎さんのテーブルには皐月、桃、山吹に入ってもらう。世那さんのテーブルには詩音、遥、綾芽、ついでに真姫の槍使いを集めた。そして残りの人が六人集まって一緒に食事する。
メニューはやっぱりステーキだよね。ボアステーキにビッグラビットのシチュー、そして野菜サラダに御飯だ。デザートは後のお楽しみ。皆揃っていただきます。
「美紅さん、タンクや槍の指導を受けてから、攻略階層を進めた方が良いんですか?」
「先に基本的なことは教わってから、実践で試した方が良いとは思うな」
「じゃあ、明日から何日かはパーティを組み替えた方が良さそうですね」
「世那と智美を一緒にすれば良いだろう。タンクと近接アタッカーの組み合わせで訓練が出来るからな」
「なるほど、だったらこのテーブルの六人がパーティを組めば良いんですよね。明日から何をしようか?」
僕達のテーブルには、美紅さん、恵梨花、正輝、美姫、真琴、僕の六人。さて、明日から何をしましょうか?
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