第173話 詩音の気持ち
携帯ハウスを縮小、回収して全員で六階層のセーフティーゾーンへとやって来た。
「六時にここに集合しよう。美紅さん、《カラフルワールド》のことをよろしくお願いします。恵梨花も皆のこと頼んだよ」
六階層の転移の柱で一階層へと転移して行くメンバーを見送った。
「では、フォーメーションを確認しておこう。僕は斥候として先行して情報を探るよ。そして、分かった情報はすぐに念話で皆に伝える、これが《千紫万紅》の強みだからね。で、トレントモドキがいればそのまま僕が相手をするよ。それ以外の魔物は五人に任せる。いつもほど正輝は自由に動き回らず、パーティ戦で倒すようにしよう。五人の中では皐月が先頭で魔物を受け止めるのはいつもと一緒で、直後に詩音。詩音の右に正輝、左には綾芽に入ってもらう。そして、最後方に美姫でいこう。美姫は指示出しを任せた。世那さんには、戦闘後に気づいたことがあればアドバイスをしてもらいたいです。よろしくお願いします」
《千紫万紅》にとって一番オーソドックスな陣形で望むことにする。いつもの僕のポジションには綾芽に入ってもらった。僕は先行して行く。
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「えっと、福岡ダンジョンは美姫と詩音が三十階層で失敗しているダンジョンなんだ。そこを完全攻略出来れば二人にとって自信が付くと思う………」
リーダーと正輝さんが大阪のAランクダンジョンの探索に出かけた後に、探索者省や自衛隊とトラブルになったことは聞いていたっすけど、まさか福岡ダンジョンに遠征することになるとは驚いたっす。しかもリーダーは美姫と私の為に福岡ダンジョンを選んでくれたっす。
突然のクラン会議があった日の夜に、美姫と二人で話したっす。
「詩音、リーダーは私達にチャンスを与えてくれました。私は今も福岡ダンジョンの三十階層での三度の戦闘を思い出します。ボス猿の魔物に何も出来ないまま、パーティがバラバラにされ屈辱的に帰還石を使わされ続けた三度の挑戦です」
「そっすね、作戦を考え挑んでも、その都度ボス猿に上をいかれたっす。私も覚えているっすよ」
「今回はリーダーと正輝さんというBランクダンジョンを完全攻略している強者が二人いますから、簡単に三十階層のボス部屋は攻略出来るかもしれませんが、私は成長していることを感じたいです。魔物に翻弄されることなく、少しでも攻略に貢献したいです」
「リーダーにはマジックアイテムの武具やスキルオーブなどを使わせてもらって感謝しているっす。少しでもパーティに貢献したいと思っているのは美姫と同じっすよ。リーダーに成長したところを見てほしいっす」
決意して福岡ダンジョンにやって来たっす。
福岡ダンジョンで前のパーティメンバーと会うのは、何となく予感していたっす。見返したくて地元の山口でパーティメンバーを探していたっす。私も力があるんだと証明したいと思っていたっす。でも、目の前で馬鹿にされたときには何も言い返せなかったっす。皐月が私を庇うような発言をしてくれて嬉しかったっすけど………複雑な心境だったっす。
「詩音が入っていたら強くないって、詩音は僕達のパーティの大事なメンバーだ、馬鹿にしないでほしいな」
喫茶コーナーでまた元のパーティリーダーに馬鹿にされたっす。その時にリーダーが言ってくれたっす。リーダーにパーティの大事なメンバーと言われて、涙が出そうになるほど嬉しかったっす。
元のパーティリーダーは更に世那様に対して失礼な発言をしたっす。許せなかったっす。その後に慌てて退散していく様子を見ると………何故あの人が私達のリーダーだったんっすかね。あの人に今後馬鹿にされても、もう気にしないっす。残念な人だということが良く分かったっす。
「今日から本格的にこのダンジョンを攻略していく。僕達の目標は完全攻略だが、皆の力で目標を達成しよう。特に三十階層までは、正輝と僕はサブアタッカーだと思ってね。更に、二十階層までの僕はトレントモドキ専用探索者と思ってくれていいよ」
「それは私と詩音の為でしょうか?」
「そうだね。三十階層のボス部屋の情報を見たよ。苦手意識を払拭しよう」
リーダーは三十階層のボス部屋情報を見て、美姫と私が思っていることに気づいたようっす。しかも自分のことをトレントモドキ専用探索者とおどけて言って、私達の活躍の場を作ってくれようとしてくれているっす。そのための言葉なんだと思うっす。メインアタッカーになったつもりで積極的に戦っていくっす。
『コボルトが三匹に、トレントモドキが一体、コボルトは任せる』
リーダーから念話が届いたっす。皐月と一緒に向かって行くっす。
『うひょー、またメロンだ!』
リーダーの念話がまた届いたっす。リーダーの気持ちは十分分かっているっす。無理におどけて言わなくても良いっすよ。
アイテムボックスから、新戦力のミスリルの投擲球を出したっす。これを最初の一撃として攻撃を開始するっす。
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