第167話 勝負の行方

 恵梨花に急かされながら、携帯ハウスの縮小も無事に終えて収納し、探索の準備は整った。


「正輝と恵梨花には悪いんだけど、僕は五階層までの情報を確認してないんだ。真面目に情報を確認した他のメンバーには申し訳ないんだけど、今回だけは二人から教えてくれないか?」


 疲れていたからなんて言い訳は通用しないよね、本当に申し訳ないよ。あれ、何故正輝は顔を背けるんだ。恵梨花、ヒューヒューと音のでない口笛する奴なんてもう絶滅危惧種に認定されているぞ。


「二人とも確認していないのかよ!まあ僕は人にとやかく言う資格は無いんだけどね。もう一度携帯ハウスを出して中で情報の確認をしようか?」

「ダメです!そんな事してたら、クラマスのドヤ顔が現実になります。もうクラマスとサブマスが出発して二時間以上経ってるんですよ。私達も出発しましょう」

「Bランクダンジョンの低階層だし、大丈夫だと思うぞ」


 本当に皆には申し訳ないけど、探索を開始した。勿論僕はグローブを装備している。


「恵梨花、フルーツを投げて来るトレントモドキがいたら、そこへ誘導してね。今日のご褒美を用意しないといけないからね」

「ウ~ン、了解です。それ以外は急ぎましょうね」

「正輝は、僕がフルーツをキャッチしている間の魔物の討伐は任せるからね。高級フルーツは優しくキャッチしないと潰れてしまう物が多いから、結構神経使うんだよね」

「了解、任せてくれ」


 順調に探索は進んだ。お願いした通り、恵梨花がフルーツを投げて来るトレントモドキのいる所に誘導してくれるから、結構な数のフルーツのストックも出来た。オークは肉をドロップしてくれるから、かなり嬉しいね。コボルトは………出会わなくても良いかな。少しお腹も空いてきたので、携帯食料を食べたりしながら四階層まで攻略が進んだ。


「何か変なトレントモドキがいます。滅茶苦茶なスピードで物を投げて来ます」


 誘導されて行くと、普通のトレントモドキは緑色なのに、金色に光っているようなトレントモドキがいるよ。


「うーわ、あぶなー」


 近づくと金色の実を投げて来たが、ギリギリで躱すことが出来たよ。普通のトレントモドキだと時速160キロメートル位のスピードで投げてくるけど、これはそれ以上というか目にも止まらないスピードがでているぞ。当たったらどうなってしまうのだろうか?


「麟瞳、どうする?スルーして行くか?」

「いや、このトレントモドキってレアモンスターだよね。折角だから投げて来るものは食べてみたいよ。僕が今練習している雷魔法の高速移動でチャレンジしてみるよ」


 さーて、僕の超高速移動とどちらが速いかな?雷を纏い全力の速度で対峙する。一つ、二つとキャッチすると、キャッチする度に更に投げて来るスピードが上がる。三つ、四つ、もうグローブがもたないぞ。五つ目をキャッチした時にグローブのウェブが張り裂けてしまった。六つ目、痛った!反射でグローブで取ろうとして、そのまま素通りして肩に当たってしまった。衝撃耐性のあるバトルスーツを着ていてこのダメージ、洒落にならないぞ。ここで打ち止めなのか追撃が来なくて命拾いしたよ。レアモンスターのトレントモドキよ、僕の負けを認めよう。接近して刀を一閃した。


「麟瞳さん、大丈夫ですか?」

「麟瞳、ポーションを飲んでおけよ」


 正輝のアドバイス通り、念の為中級ポーションを一本飲んでおく。


「五つもドロップしてます。これ、メッチャ固いですね。当たった所、本当に大丈夫ですか?」

「ああ、もうポーションを飲んだから大丈夫だよ」

 

 討伐後には金色の実が五つドロップしていた。これ食べられるんだろうか?まあ、今考えててもしょうがないね。探索を再開した。


 グローブが使えなくなったので、トレントモドキをスルーして攻略スピードは上がり、あまり時間もかけずにボス部屋の前にたどり着いた。順番待ちは一組だけだ。


「途中でクラマスやサブマスは見かけなかったですよね。もう六階層に行ってしまったんですかね?」

「それは分からないなー。これだけ広いダンジョンで出会うことはほとんど無いよね。ボス部屋前とセーフティーゾーンなら出会う確率が高いと思うけど、結果は六階層に降りてみればすぐに分かるよ」

「俺か麟瞳の一撃でボス部屋を攻略するか?」

「早く結果が知りたいので、それでお願いします」


 話し合って、正輝に任せた。


 ボス部屋には定番の五十匹程の魔物がいたが、正輝が新しく会得した横なぎに振るう剣の炎の斬撃が駆逐していった。残りの魔物を三人で片付けて討伐完了、銀色の宝箱の中身と大量のドロップアイテムを収納してボス部屋奥の階段から六階層へと降りて行った。


「ヤッター!クラマスもサブマスもいません。私達が勝ちましたよ!」


 これってテレビでよく見るパターンだよね。


「恵梨花、遅いで。もう皆で御昼御飯を食べてもうたわ。ほんま、昼寝をしてまうところやったで」


 ですよねー。これでもかというドヤ顔で世那さんが登場したよ。


「ウチ等が一位やで。美紅のパーティとはボス部屋前で逢うたけど、ウチ等の勝ちや。恵梨花は三位やで」


 恵梨花はいつもノリが良いよね。膝をついて悔しがる表情なんて、名女優にも負けないよ。

 

 






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