第168話 金色の実

 世那さんによる恵梨花イジリもやっと一段落した。


「世那さん、美紅さん、この後はどうしましょうか?まだ携帯ハウスで休むには早過ぎますよね」

「麟瞳達は、まだご飯を食べてないんやろ。取りあえず、食べたらええと思うで。もう四時になろうとしとるけどな」

「そうだな、その他の人達はパーティ毎にこの階層を探索しよう。六時にセーフティーゾーンで落ち合うようにしておこうか?」

「ウチはそれでええで。なかなかセンスのええ子が集まっとるし、六階層でも大丈夫やろ」


 二つのパーティは探索に出かけて行った。ここまで来るのに何かあったのか皆が良い表情をしているよ。


「軽く食べるか、ガッツリ食べるか、どっちが良い?」

「今日は七時から夕食だろ、俺は軽く食べておくよ。マジックポーチにパンが入っているからそれを食べるよ」

「僕もそれが良いかな。正輝、僕のも出してよ」

「了解。何でもいいのか?」

「そうだなー、甘めのやつでお願いするよ。恵梨花はそろそろ立ち直れよ。一緒にパンを食べよう」

「ほんま悔しいわ。あのクラマスの顔見ました。もうほっぺたを目一杯引っ張ってしまおうかと思いましたよ」

「もう分かったから、どのパンを食べる?」

「メッチャ辛いのでお願いします」

「小桜さん、辛いパンはカレーパンしかないぞ」

「それでお願いします」


 本当に恵梨花は負けず嫌いだね。パンを食べながらも愚痴をこぼしていたよ。パンを二個食べ、缶コーヒーを飲んでお腹も落ち着いたね。


「これからどうする?ここに六時集合なんだけど」

「私はストレス発散の為、魔物を倒してきます」

「俺もそうしようかな。別にストレスは溜まって無いけど、麟瞳とパーティを組んでいるからドロップアイテムも良いだろうしな」

「僕はここで今更ながら情報を見ておくよ。勢い余って、次の階層には行かないようにね」

「了解!」

「私も了解しました」


 さて、時間もあるし、一階層から二十階層までの情報を見ましょうか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「麟瞳、どうしたんや?何でガックリしとんや」


 情報に書いてあったよ。スーパートレントモドキは一定の距離まで近づくと攻撃をしてくるが、頑丈な盾で防げば討伐は難しくない魔物で、発見することだけが難しいって。今までに全てのダンジョンを対象に数例の討伐記録しか残されていない魔物だってさ。盾で防御する以外の方法で討伐された事は無く、まともに戦うのは馬鹿だけだって………僕はやっぱり馬鹿だったのか?何であんなにも頑張ったんだ?肩への一撃はかなり痛かったぞ。勝負の後にあんなに格好つけたことを思ったのって滅茶苦茶恥ずかしくないか?いろいろな事を思ったよ。情報を見てない罰が当たったんだな、反省。


「龍泉さん、携帯ハウスを設置するのに良さそうな場所があったよ。移動しないか?」


 探索中にしっかりと先を考えての行動、【用意周到】流石です。美紅さんにメンバー全員で付いて行き、今日の宿泊予定地に到着。メインのルートを大きく外れて良い感じの場所である。携帯ハウスを収納から出して、ボタンを押し水平な場所に置く。十秒で昨日と同じく小さな家の完成だ。油断せずに結界と隠蔽のスイッチを押して一安心だ。


「麟瞳さん、携帯ハウスは登録をしていない人にはちゃんと見えないようになってた?」

「ああ、見えていなかったよ。これで安心してここで休むこともできるから、休日を決めようか?」

「夕食を食べた後に話し合って決めれば良いだろう。今日の勝負の景品のフルーツを食べながらで良いと思うな」


 今日の晩御飯はホーンラビットの丸焼きにサラダとコーンスープにご飯だ。そして美紅さん、真姫、遥と同席になった。皆の「いただきます!」で食事の開始だ。


「真姫と遥は今日の探索で、何か良いことがあったのか?」

「ボス部屋で美紅さんの戦闘を見させてもらったのよ、もう感動よ!あっという間に魔物はいなくなったから、どうやって倒したのか良く分かってないんだけどね。でも、今日の経験は一生忘れないわ」

「私も同じです。世那さんが一人であっという間に全ての魔物を倒しました。もう槍の捌きが華麗過ぎて見とれてました」


 なるほどね、それで皆が良い顔をしていたんだね。日本最高峰の戦闘を見るってこの上ない経験だ、納得だよ。美紅さんにも今日のホーンラビットの料理を絶賛してもらい、話も沢山聞いて楽しく食事をすることが出来た。


「麟瞳、ちゃんとフルーツは手に入れたんか?」


 晩御飯の後片付けが終わった後のリビングで世那さんが聞いてきた。


「皆のために、三人で力を合わせて頑張りました。今日の成果のフルーツをテーブルに出しますね」


 収納からどんどんフルーツを出していく。ここのトレントモドキは季節に関係なく果物を投げて来るよ。リンゴ、ナシ、オレンジ、ミカン、柿、パイナップル等の良くスーパーで目にするものから、バナナ、桃、ライチ等のキャッチしにくいもの、そして網網のメロン、真っ赤なマンゴー、でかい粒のイチゴ等の高級そうなものをテーブルに並べた。そして最後にスーパートレントモドキから手に入れた金色の実を十一個並べた。


「これってスーパートレントモドキの実っすよね。今までに福岡ダンジョンで二度しか目撃されててないレアモンスターの実っすよね」

「流石リーダーです」

「何で《花鳥風月》のメンバーはそんなに冷静なんだ。これは幻のレアドロップアイテムだぞ。しかも十一体のレアモンスターと同日に出会うなんて信じられないぞ」

「サブマス、レアモンスターは一体だけですよ」

「えっ、どうやって十一個の実を手に入れたんだ。一体討伐して一つの実がドロップする筈だが」

「はい、ダンジョンの情報にもそう載ってました。討伐するのも盾で防御すれば簡単だと書かれていました」


 だよね、僕も後から情報を見て絶句したからね。


「麟瞳さんは猛スピードで投げられる金色の実をグローブでキャッチしていました。滅茶苦茶格好良かったです。最後にはグローブが破損して一撃もらって滅茶苦茶心配しましたよ」

「麟瞳はやっぱり常識外れやな。タンクのおらんパーティでは討伐不可能と言われとるレアモンスターやで。メンバーの為に身体を張って頑張ったんか?大したクランマスターや。ちょうど十一個や、これは《花鳥風月》のメンバーで食べたらええんちゃうか?」

「世那さん、それはダメです。今日の世那さんと美紅さんのパーティメンバーで食べてください。これはあくまでも勝負の景品として手に入れたものです。高いものから三段階に分けてと言ってましたが、十一個あるというのも偶然ではないと思います。六階層に先に到着した十一人が食べるのが良いと思います」

「龍泉さん、この実の価値を分かっているのか?」

「はい、皆には申し訳ないんですけど、今日の探索時は五階層までの情報を見てなかったんですよね。で、六階層のセーフティーゾーンで遅ればせながら情報を見て知りました。討伐方法まで載っていてガックリときましたよ。一個で一千万円の買取り価格です。それに一個丸ごと食べるとスキルがランダムで得られるんですよね」

「えーっ、それマジですか?」

「恵梨花はダンジョンの情報を見ていないようだな。今龍泉さんが情報を見て知ったと言っていたぞ。何の為にヘルメットを譲って貰ったんだ。罰として恵梨花のフルーツはバナナ一本だな。今日中にダンジョンの情報も見ておくんだぞ」

「俺もバナナ一本でお願いします」


 僕も同じくバナナ一本にしてもらったよ。三人で今回の怠慢を反省しよう。










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