第166話 携帯ハウスが見えるか見えないか確認しよう

 昨日は疲れていたせいか、風呂に入った後はすぐに寝てしまった。よく寝たお陰で、朝は気持ち良く起きることが出来たよ。皆には五階層までの情報をしっかりと見ておくように言ったが、指示を出した僕が見ていないでは示しがつかないな。いつもの癖で早起きしたのでコーヒーでも飲みながら情報を見ようとキッチンに行くと、既に先客がいたよ。


「おはようございます」

「おはよう。真琴は早起きなんだな」

「いつもは結構ギリギリまで寝てる方なんですけど、寝る場所が変わったためか、まだ緊張しているせいか分かりませんが、今日は早く目が覚めました。でも、睡眠時間が少ないのに頭も身体もすっきりしてます。マスターはいつも早起きなんですか?」

「ああ、いつも五時から朝の鍛練をしているんだ。今日からはダンジョンでの寝起きだから朝の鍛練はしないんだけど、いつもの癖で早く起きてしまったよ」

「朝の五時から鍛練ですか?そういえば遠征先でも朝にシャワーを浴びてましたよね。あれだけ強いのに凄いです」

「別に凄くはないよ。綾芽も去年の夏休み前から何もないときには、早起きして僕と同じことをしているんだ。すぐに止めると思ったけど、まだ続けているようだよ」

「綾芽が朝によく運動しているなと思ってました。そうか〜、本格的な訓練をしていたんだ。私も頑張らないとですね」

「いやいや、《カラフルワールド》の皆はよく頑張っていると思うよ。ここに来る前の会議で話したことは、お世辞抜きで感じたことだからな。去年の夏からの成長は大したもんだよ。この遠征でも世那さんや美紅さんという一流の探索者と触れ合えるんだ、技術的なことだけでなくいろいろと質問すれば良いと思うよ。昨日も詩音や桃が食事の時に体験談を沢山聞いていたけど、勉強になることが聞けると思うよ」

「そうですよね~、雲の上の存在のお二人と一緒に生活しているなんて幸せですよね。私もこの遠征で成長できるように頑張ります」

「まあ、あまり頑張りすぎないようにね」


 クランハウスができてから、《カラフルワールド》のメンバーとの会話も増えたなー。ボチボチと起きて来るメンバーも増えてきた。まだダンジョンの情報は見てないんだけどね、どうしようか?

 

「お兄ちゃん、真琴、おはよう。何だか気持ちいい朝だね、今日も一日頑張れる気がするよ」

「麟瞳さん、真琴、綾芽、おはよう。早起きすると気持ちいいわね。頭も身体もシャキッとするわ」


 結局情報を見ることもなく、コーヒーを飲みながらずっと話をしていたけど、起きて来るメンバー全員が気持ち良く起きて、頭や身体がスッキリするとかシャキッとすると言うんだよね。もしかしたらこれが星のスイッチの効果かもしれないなと思えてきたよ。たまたまかもしれないから、何日か続けてみないとはっきりとは分からないけどね。


 朝食の時間には皐月もちゃんと起きてきて、全員で食べることが出来た。そしてダンジョン装備に着替えていよいよ今日の探索の始まりである。


「これから三十分間はパーティ毎にミーティングをしよう。スキルの確認や、今日の戦術を考えてほしい。三十分後に探索を始めるよ」


 正輝と恵梨花と僕でダイニングの四人テーブルで話し合う。


「なあ、俺はよく分かってないんだけど、登録していない人から見えるか見えないか確認するってどういう事なんだ」

「コントロールパネルの所に行って説明するよ」


 三人で移動して、スイッチを見てもらいながら昨日の考えを説明した。


「登録している人には見えるけど、多分登録をしていない人には見えないんじゃないかなという結論になったんだけど、それを証明するまで探索を開始できないというのが僕達に課せられたハンデなんだ」

「麟瞳はどうすればいいと思ってるんだ」

「取説を見つけるのが早いと思うんだ。そのままどんなスイッチなのかが書かれているかもしれないし、それが書かれてなくても登録を解除する方法が分かれば、一旦正輝か恵梨花の登録を解除して、外から携帯ハウスを見てもらえば簡単に証明できるからね」

「取説があったとして、それは日本語で書かれているんですか?」

「そうか、あったとしても読めるとは限らないのか?」

「でも、青いオーガの載った本は多分読めるんだろ。だったら取説も読める可能性が高いんじゃないか」

「青いオーガの本は僕の為に用意したように言ってたから、特別なのかもしれないんだ。どうしようか?」


 しばらく考えたが、三人とも良い案は出て来なかった。


「ウチと美紅のパーティは出発するで、麟瞳はちゃんと確認してから来るんやで」

「分かってますよ。くれぐれも気をつけてくださいね」


 二つのパーティは出発して行ったが、僕達は良い案が浮かばない。


「取りあえず、取説を探してみよう。何か他の案が浮かんだらすぐに言うようにしよう」


 それから一時間程経ったが、取説は見つからない。もう探す所が無いと思えるほど色々な所を探したんだけどね。


「取説は無いような気がします」

「俺もそんな気がするよ」

「どうしようか?登録解除の方法を考えようか?」

「私、実は負けず嫌いなんですよ。これ以上時間をかけたら負けてしまいますよ。クラマスとサブマスのドヤ顔が目に浮かびます。特にクラマスの優越感に浸る超弩級のドヤ顔が………もう通りすがりの探索者に直接聞きましょう。それが一番早いと思います」

「えっ、そんな直球勝負はありなの?もしも携帯ハウスが見えたら大騒ぎになるかもしれないよ」

「サブマスの頭の中は、何を考えているのか分からないけど、沢山の情報を取り入れて最適解を即座に出します。そんな光景を探索中に何度も見てきました。そのサブマスが見えないだろうと言うのなら、それが正解だと思います」


 恵梨花の迫力に押されて、作戦名そのまんまの〈通りすがりの探索者に聞く作戦〉を敢行する。モニターカメラのスイッチを入れて外の様子を探るが、元々目立たない所を選んで携帯ハウスを設置したので探索者の姿も見えない。モニターチェックは恵梨花に任せて、正輝と僕は登録解除の方法が分からないか、玄関側のパネルを開けて考え込んでいた。


「五人パーティが近づいてきます。一人だと怪しいと思われるかもしれないので、奈倉さんは私と一緒に来て下さい。麟瞳さんはモニターの所で見てて下さい。ちゃんとスイッチが入っているかもう一度確認してくださいね」


 モニターをズームしてみると、二人はヘルメットを外してにこやかに話しかけている。時々恵梨花から正輝が肘鉄を食らっているね。正輝、ご愁傷様。おっ、恵梨花がこちらを指差しながら話しかけているぞ。緊張の一瞬だ。お辞儀をして、手を振りながら五人パーティを見送っているぞ。確認できたのかな?


「麟瞳さん、見えてないです。登録していないと携帯ハウスは見えないです」

「もう一組くらい確認した方が良いのかな?」

「そんなの必要ないです。さあ、出発しますよ。忘れ物をしないようにして下さい」

「あっ、テーブルやベッドなどいろいろな物を家の中に出したけど、ちゃんと携帯ハウスは小さくなるのかな?」

「そんなの考えるより、やってみた方が早いですよ。さあ、出発しますよ」


 無事に小さくなって良かったよ。恵梨花は本当に負けず嫌いのようだね。でも、僕には高級フルーツをゲットするという使命もあるんだけど………さっきの正輝への対応を見ると、キビキビ動かないと肘鉄が飛んできそうだね。無事に六階層に到着出来るかな?


 







 

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