第162話 携帯ハウスでの初めての食事
全員が携帯ハウスの中へと入った時点でホッと一息だ。緊張を解いた瞬間どっと疲れが押し寄せてきたよ。でも、まだしなくてはならないことが沢山ある。取りあえず、遅くなったが晩御飯を食べることにしよう。
「今日の晩御飯は簡単にカレーにしないか?反対の人は手を挙げてほしい。遠慮することはないからね」
「今からカレーを作っとったら時間がかかるやろ。疲れとるんなら携帯食料でも食べて早う寝た方がええんちゃうか」
「いや、もうカレーは作ってあるんですよ。時間経過のない収納道具の中に保存してあるから、そこから出すだけで用意できます。沢山料理は持ってきてますから、当面の食事は心配いらないですよ」
他のものを食べたい人もいないようなので、カレーを食べるための準備を始める。まずはテーブルを詩音のアイテムボックスから出してもらう。あらかじめ人数は分かっていたので、四人用のテーブルが二つと六人用のテーブル一つをダイニングルームに出して適度に配置する。テーブルを置いてみるとキッチンから続くただのだだっ広い空間が生活空間へと早変わりだ。まだ余裕があるから本当に広い空間だったのだと改めて認識できた。外から見たときの小さな家だとはとても思えないよね。椅子も出してもらってセット完了。あとはカレー皿とスプーンがあれば大丈夫そうだ。娯楽品と小物担当だった《カラフルワールド》の中で真姫がマジックポーチから出していく。
「ちゃんと洗ってから収納しているので綺麗ですからね」
そうだよね、衛生面は大切だよね。あとは順番にカレーを入れていくだけ、僕の収納の腕輪から大鍋に入ったカレーと炊きたて状態のご飯を出した。おっと、美姫が野菜サラダを出しているよ。やっぱり食事はバランスが大事だよね。
結局それぞれにカレーライスと野菜サラダ、そしてお茶の入ったコップが配られて準備完了。長期間をこのメンバーで過ごすことになるから、席は毎回くじで決めることにする。一人ずつくじを引いて自分の席に着いた。
「では、長期遠征の最初の食事です。楽しんでいただきましょう」
皆の一斉の「いただきます!」で食事は始まった。
「ほんま麟瞳のところは常識外れや。ダンジョンの中では、普通こんな温かくて美味しいもんは食べれへんで」
今日の晩御飯の僕の同席者は世那さん、詩音、桃になった。
「時間経過のない収納道具のお陰です。さっきも言いましたが当分の間は大丈夫ですから、食事も楽しんでください。詩音と桃もこれからお世話になるんだ、食べながら世那さんに自己紹介をしようか」
毎回席を変えるのは、世那さんと美紅さんと話をしてほしいからだ、一流の方達と話ができるチャンスなんてそうそうないだろう。話をして何かを吸収してほしいと思う。
「田中桃です。《カラフルワールド》のタンクです。よろしくお願いします」
「そんなに緊張せんでええで、麟瞳なんか最初からフレンドリーやったで」
「僕も滅茶苦茶緊張してましたよ。いきなり鑑定して申し訳ないとか美紅さんに謝られてオロオロしましたよ」
「そやったかな~、まあ今はウチ等を怪獣扱いやで、信じられへんわ」
「原田詩音っす。《千紫万紅》の主にサブアタッカーをしていまっす。黒澤様と赤峯様の大ファンっす。よろしくお願いしまっす」
「今日、喫茶のところであの失礼な奴に言うてくれた子やな。大ファンは嬉しいけど、様はあかんわ。世那さんで頼むで」
「えっ、でも………」
「詩音、世那さんの頼みだぞ。世那さんには槍の攻撃の仕方を教えてもらえば良いと思うよ」
「世那様でお願いしまっす。さん呼びは無理っす」
「まあええか。美紅の方も頼むで」
「世那様、美紅様でお願いしまっす」
詩音の頬が赤く上気している。本当に大ファンなことが良く分かるよ。
「今日は桃も普通に話すんだな?」
「緊張。私も大ファン。感動」
「あんたもウチのファンなんか。嬉しいけど普通に接してな。まあこん中の一人は美紅推しらしいけどな」
「あれは冗談ですよ。僕もお二方とも尊敬してますよ」
「ほんまかいな?話は変わるけど、このカレーかなり美味しいで、誰が料理したんや?」
「カレーは僕の母さんです。今収納している料理は、全部僕の母さんか真姫のお父さんの作品なんですよ。食材には魔物肉やダンジョン産の海鮮や野菜がふんだんに使われています。今日のカレーにはビッグボアの肉が使われていますよ。魔物肉料理って美味しいんですよね」
「確かに美味しいな。ウチのクランの食事も魔物肉を使った方がええような気がするわ。今まではダンジョンで全部買い取ってもろうてたけどな。ウチも色々勉強になるわ。来て良かったと思うで」
緊張の解れてきた桃や緊張したままの詩音から世那さんに質問して、今までの探索の経験談等を話してもらった。
「《Black アマゾネス》と《Red ソルジャーズ》が合体して《Black-Red ワルキューレ》が出来たときは興奮したっす。どちらのパーティもBランクダンジョンを完全攻略してすぐのタイミングだったっすよね、どうして合体したっすか?」
「ほんまよう知っとるな。あの頃は女性だけでパーティを組んで何が出来るんやとかよう言われてな、ほんまほっといてほしいんやけど、加納らのパーティとよう比べられとったわ。そんなに女性の探索者も多くはなかったし、装備もそんなに充実してなかった。元々美紅のところとはよう話をしとったし、Aランカーになれたら、女性がもっと活躍できるようにしたいな言うとったんや。加納らに先越されてもうたけど、次にAランカーになれて注目も集めとったし、宣伝効果抜群やったから早うクランを立ち上げたんや。ぎょうさんのメンバーが集まったで。まあその分大変やったけどな」
流石女性探索者の先駆者だね、志が高いよ。《花鳥風月》のメンバーも影響を受けて探索者になった娘達も多そうだ。じゃあ僕からも気になることを質問してみよう。
「世那さんがクランマスターで、美紅さんがサブマスターというのはどう決めたんですか?」
「ジャンケンや」
………クランマスターの決め方は適当だったんですね。
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