第161話 携帯ハウスの結界を張る

 転移した先のセーフティーゾーンで全員で集まった。


「今日は早く移動して休憩しよう。この一階層で出てくる魔物について美姫と詩音から教えてもらいたい」

「はい、ここは二十階層までは草原型です。一階層では、コボルトとオークとトレントモドキが出てきます」

「ちょっと待った!」

「リーダー、どうしたんですか?」

「ここはトレントモドキが出てくるのか?何を投げてくるんだ?」

「トレントモドキは決定的なダメージを与えてくる魔物ではないですが、かなりのスピードで野菜や果物を投げてきます」

「だから、何を投げてくるんだ?!」

「ええっと、色々な物です。特に決まっていないと思います」

「すみません。お兄ちゃんはミニトレントモドキとトレントモドキが大好きなんです。重度の病気です」


 綾芽はなんてことを言うんだ?よし、トレントモドキといえばグローブだなしっかりと装備しよう。何を投げて来るか楽しみだね。よし、来い!


「続きを言って良いでしょうか?オークは倉敷ダンジョンで皆が体験していると思います。階層が進めば上位種が出てきますが、今日は今までに倒してきたオークと同じだと思っていれば良いです。コボルトは二足歩行の犬ですね。ゴブリンよりも少し素早いと思いますが、それほど強い魔物ではないです。上位種はもう少し階層が進まないと出てきません。詩音からは何かありますか?」

「そっすね、トレントモドキが結構邪魔だと思うっす。オークやコボルトと戦闘中でも野菜や果物を投げて来るっす。広い視野を求められると思うっす」

「麟瞳はなんで野球のグローブをつけとんや?」

「そこにトレントモドキがいるからです」

「すみません。お兄ちゃんは病気なんです」


 恵梨花の誘導で今日の宿泊予定地に向けての探索が始まった。恵梨花が魔物を見つけると、女性陣が素早く対応する。どうしてこんなに積極的なんだ?トレントモドキはジャガ芋、玉ねぎという定番の野菜を投げて来るが全てキャッチだ。メンバーが多いせいか広範囲に投げて来るから右に左に忙しいぞ。あーっ、全部投げ終わるまでに倒したらダメだよ、勿体ない。そんなに時間がかからず目的地へ到着した。明日以降の探索に期待しよう。狙うは高級フルーツだ。


 出来るだけ平らな場所を見つけて、携帯ハウスのスイッチを押して地面に置く。当然周りの警戒は役割を決めてしっかりしている。ミニチュアハウスは十秒ほどで小さな家に変化した。口では説明したけど、変形をまだ見ていなかったメンバーはかなり驚いている。中を見ればもっと驚くだろうね。結界を張るまでは安心できないから、前回結界が張れることに気づいた美紅さんにどうすれば良いのかを教えてもらう。


「ここが全体のコントローラーになっているようだ。絵で表示されているからわかりやすいな。この家を囲むように壁ができているスイッチを押すと、結界が張れると思う。その前に血液登録ができるから、盗まれても使用されないように登録しておいた方が良いだろう。クランマスターの龍泉さんが登録すべきだ」


 確かに自衛隊に取られては大変だ、すぐに血液登録をしてみた。これで良いのかな?


「マスター、玄関に何か出てきました」


 外で警戒していた真琴から声がかかった。慌ててそちらに向かった。


「あれ、またさっきと同じように血液登録するんですかね」


 玄関から一メートルほど離れた場所にパネルのような物が出てきていた。そして登録する場所がまたあるのだ。


「龍泉さん、もう一度登録をしてみよう。大きなパネルだ、登録すれば何かが起こりそうだ」


 美紅さんに言われたように、もう一度血液登録をするとパネルの下の部分が開いた。先ほどのコントローラーのような絵が付いたスイッチと沢山の血液登録場所がある。


「これは家に入るには血液登録が必要なんですかね?でも、今は誰でも入れましたよね。何の登録でしょうか?」  

「うーん、結界を張った後には登録した人しか入れないのかもしれないな。実際に試してみないと分からないな」

「取説があれば良いのにと思っちゃいますね」

「どこかにあるのかもしれないが、前も今回も見つけられないからな。全員を外に出して試した方が早いと思うな」


 やはり美紅さんに言われた通り全員を外に出して試してみる。まずは全員が交代しながら一人ずつ家に入っていくと全員が入ることが出来た。次に血液登録している僕だけパネルの側にいて、残りの全員に家から離れてもらう。そしてパネルの結界のスイッチを押してみた。別段何も変わってないように思える。ゆっくりと皆に近づいて来てもらう。パネルのある位置までは普通に近づけるがそこから先には進めない。玄関のある方向だけでなく、あらゆる方向に家から一定の距離に壁があるように近づけなくなっている。僕だけはそんな壁のような物は存在せずに自由に家に近づき、中にも入れる。なるほど、美紅さんの予想が当たっていたようだ。


「美紅さん、正解だったようですね」

「ああ、そうみたいだな。《花鳥風月》から登録していってみようか。実際に入れないと困るからな」


 正輝から試してもらうと、予想通り血液登録すれば家の中へと入れた。これで携帯ハウスを使用している時に、誰かに見つかってもひとまず安心だ。誰も勝手に入ってくることは出来ない。残りのクランメンバーと世那さん、美紅さん、恵梨花に血液登録してもらった。そして閉じるボタンを押すとパネルの開いていた部分が閉じて、真琴が最初に見つけた状態に戻った。結界は張られているのか分かりにくいが、ボタンは押されたままだったので、大丈夫だろう。全員で家の中へと入って行った。


 


 

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