第160話 福岡ダンジョンに入場

 あの勇者のせいで僕達は喫茶コーナーで目立ちすぎてしまった。入場受付をしてもらう為に、まずは更衣室でダンジョン装備へと着替える。


「折角世那さんは喜んでいて上機嫌だったのに、あいつはとんでもないことを言ってくれたよな」

「まあ、あそこまでのテンプレはそうそうお目にかかれないけどね。黒澤様………世那さん。エエーッ、黒澤世那!ってもう爆笑ものだよ。テンプレ万歳だね。美紅さんじゃないけど、あれは動画で残しておきたいよ。何故ヘルメットを装備していなかったのか悔やまれるよ」

「いや、そのくだりじゃなくてその前の発言が問題だろ」

「ああ、関西弁のおばさんだよね。いやー、あんな勇者発言そうそう出来ないよね。相手は日本二位だぞ、命がいくつあっても足りないよ。爆笑している美紅さんという貴重なものも見れたし、あの勇者は足跡をしっかり残したよ」

「いやそうじゃあなくて、あいつのせいで世那さんの機嫌が悪くなったのが問題だろ!」

「そんなに気にするのかな?世那さんや美紅さんってどう見ても綺麗なお姉さんだよね。あんな勇者の発言なんて気にしないと思うけどな~」


 正輝、ごめんなさい。着替えを終えて女性陣を待っていると、不機嫌な世那さんがやって来たよ。美紅さんは相当ツボにはまったのか、まだ笑いが止まらないようだ。ずっと笑い続けるって苦しいんだよね。僕もこの前の脳筋さんで大変な目にあったばかりだ。


「美紅、ええ加減にした方がええで。何がそんなにおかしいんや?」

「ハハハハ、関西弁のおばさんって、フフフ、龍泉さんが何故あそこまで笑い続けるのか不思議だったが、やっと分かった気がするよ。ハハハハ……」

「ほんま、力尽くで分からせんとあかんようやな」


 なんか不穏な空気が漂ってきたぞ。うちのクランの女性陣は引いている、ここは僕が止めるしかないないな。


「もしお二人がここで戦ったら、怪獣大戦争のように周りへの被害が甚大ですよ。もう仲直りしましょう」

「「誰が怪獣やねん!」」


 なんだ息がピッタリじゃないですか。貴重な美紅さんの関西弁もいただきました。


「麟瞳は更衣室で、世那さんや美紅さんはどう見ても綺麗なお姉さんなんだから、あいつの発言は気にしないだろうと言ってました。俺もそう思います」

「綺麗なお姉さんか?別にさっきの言葉は気にしてないで。ただ美紅がしつこいのに腹が立っとっただけやで。そうか、綺麗なお姉さんか………」

「世那、チョロ過ぎるぞ。でも、私も綺麗なお姉さんと言われて悪い気はしないな」


 ふ~う、やっと落ち着いたよ。正輝、ナイスタイミングだったよ。


 十四人の集団で入場受付をしてもらう。この時間から入場するような探索者は一人もいない。二つのブースを使って速やかに入場手続きをしていく。


「龍泉様、まだ入場してなくて良かったです。こちらが魔力ポーションになります」


 なんと中里さんの登場である。わざわざ岡山から来てくれたんですね。車での移動がこんなにかかると思ってませんでした。ずっと待たせていたようで申し訳ないです。


「ありがとうございます。大分待たせてしまったようですね、すみませんでした」

「いえいえ、ほとんど初級魔力ポーションですが、初級が二百三十五本と中級が十三本用意出来ました」


 予想以上の数を集めてくれていた。本当に感謝である。ちゃんとカードから代金は引いてもらったからね。この間に世那さんへの武器登録変更もすんだようだ。皆にヘルメットを収納から出すように指示した。ここからは本格的な探索者モードへと切り替える。


「ダンジョンの全階層の情報を人数分買います。ヘルメットに情報を入力してください」

「麟瞳、あんたのところはみんなバトルスーツを着とるし、ヘルメットも装備しとるんか?ほんま凄いで。ウチと美紅と恵梨花は情報なくてええわ。恵梨花はヘルメット持ってへんしな」


 絶対的な強者の世那さんと美紅さんに情報は必要ないのかもしれないけど、恵梨花は《カラフルワールド》の斥候を任せるんだ、失敗したな~、スマホに入力してもらっても情報は見づらいし、一人だけ紙の情報を渡すのもなんか悪いよね。ん、ちょっと待てよ。


「恵梨花、このヘルメットを装備してみてくれないか?かなり使い込んでいるけどまだ使えるのは確認しているものなんだ」


 僕が渡したのは、新しくバトルスーツを買うまでに使っていたヘルメット、あのゴブリンとオーガの戦いで残った装備品だ。《Black-Red ワルキューレ》さんのクランハウスで意識を取り戻した後に、美紅さんから手渡されたんだよね。ヘルメット以外は全てボロボロだった。ヘルメットが無事だったのは、元々頑丈なのもあるだろうが、無意識に一番の弱点の頭をカバーしていたんだと思う。でも、あの戦いのせいでおバカになってしまったのかな?まあそれ以前も何度かおバカとは言われてたけどね。


「これって、麟瞳さんの使ってたものですか?」

「ああ、この前の《Black-Red ワルキューレ》さんの入団テストの時まで一年ちょっとの間装備していたものなんだ。僕もそんなに頭が大きいことはないから、恵梨花でも使えると思うんだけど」

「メッチャ嬉しいわ。別にフィットしなくても使います、使わせてください」

「いや、それは止めてね。ちゃんと確認してね」


 装着してもらうとちゃんと使えそうだ。ちょっとヘルメットだけ浮いているけどね。


「あのー、これ衝撃耐性の付与された上着なんですけど、着ませんか?」


 綾芽がバトルスーツを買うまでに使っていた、吉備路ダンジョン群で得た女性用の上着を恵梨花に勧める。確かに上着を着た方がヘルメットの違和感が薄れるような気がする。バイクに乗る若いライダーのような出立ちになりそうだ。


「ん、どうして上着を着ないといけないんだ」

「いやー、そう言われると………」

「恵梨花、好意はきちんと受けとるんだ。それを着ないとヘンテコリンな装備の探索者だぞ」

「サブマス、そんなに変ですか?」

「首から上と下で別人だ。全く合っていないぞ」

「すまなかったな。ありがとう、使わせてもらうよ」

「私、龍泉綾芽です。よろしくお願いします」

「龍泉………麟瞳さんの妹さんなのか?」

「はい、そうです」

「そうなのか。こちらこそよろしく頼むよ」


 なんだかよく分からないが、二人は仲良くなったよ。所有者登録も変更して恵梨花はパステルピンクの上着を装着した。情報も取り入れたし、全員の武器の封印も解除してもらった。因みに予備の武器の封印もちゃんと解除してもらっている。以前の教訓は活かさないとね。ダンジョンに入る前に最後の確認だ。練習場へと皆で向かった。


「これからダンジョンに入場するけど、今日は何階層で携帯ハウスを使うのが良いだろうか?ちょっと運転で疲れたから、あまり探索をせずに休みたいと思ってるんだけど、どうしようか?」

「京都からだと移動に十時間以上かかっているんだ、相当疲れているのは分かるよ。私と世那はアドバイザーをしてほしいと言われたけど、明日からは六階層で泊まるのが良いと思う。今日はもうこの時間だから、あまり探索者もいないだろうし、一階層の目立たない所で携帯ハウスを出して休もう。明日朝から探索して、五階層のボス部屋を攻略してから六階層の転移の柱に皆で登録しよう」

「いや、《カラフルワールド》はBランクダンジョンは初めてですよ。明日五階層のボス部屋を超えるのは無理だと思います」

「今日ダンジョンに入る時に私と世那も入れて三つのパーティに分かれる。そして、明日三つのパーティがボス部屋を攻略して、六階層で転移の柱に登録する。そうしておけば六階層の転移の柱から一旦ダンジョンの外へ出て、パーティはいつでも変えられる。その後は龍泉さんがいないパーティの《カラフルワールド》だったかな、そのパーティは一階層から五階層で訓練して、ボス部屋を攻略できなくても、一旦一階層に戻ってから六階層に転移すれば良いと思う。龍泉さん達も何階層に行っても六階層の転移の柱に戻れば良いから、どちらのパーティにとっても都合が良いだろう。毎日時間を決めて六階層のセーフティーゾーンで合流して携帯ハウスを使える所まで移動すれば良いと思う」

「なるほど、流石スーパーアドバイザーですね、参考になります」


 流石【用意周到】の美紅さん、一瞬で良く考えられるよね。美紅さんのアドバイス通りに、明日の五階層のボス部屋攻略を考えて仮のパーティを作らないといけない。まあ世那さんと美紅さんは一人だけで簡単に攻略するだろうが、頼ってばかりはいられない。タンク、アタッカー、遠距離攻撃者のバランスを考えて三つのパーティを作った。一つ目のパーティは世那さん、皐月、遥、綾芽、真琴の五人パーティ。二つ目のパーティは美紅さん、桃、山吹、詩音、真姫、美姫の六人パーティー。最後は恵梨花、正輝、僕の三人パーティ。うちのクランメンバーと世那さんと美紅さんとの接点を作りたかったんだよね。


 今日の携帯ハウスを使う候補地を恵梨花にヘルメットの使用法をレクチャーしながら、一階層の地図情報をシールドに出して決定した。入場した後は恵梨花に誘導してもらおう。


 さあ、いよいよ福岡ダンジョンへの入場だ。決定したパーティ毎にダンジョンカードを重ねてパーティ登録をしてから転移をしていく。最後に転移するのは僕達三人だ。パーティ登録をして転移の柱に手をあてる。これからの探索に期待を膨らませ一階層に転移した。








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