第153話 緊急クラン会議・前編
「ねえ麟瞳さん、クランメンバー全員で福岡のBランクダンジョンに行くつもりなの?私はBランクダンジョンには連れて行けないって言ってたよね」
「ああ、前は本気でそう思っていたよ。この前に元の《桜花の誓い》と姫路ダンジョンに行っただろ。その時真姫が一番伸びてるって皆が言ってたぞ。魔力ポーションがぶ飲みしながら魔法を撃ち続けているって。遥も予想以上に成長しててビックリしたし、Cランクダンジョンは何処に行っても完全攻略出来る力はあると思うよ。世那さん達にも言ったけど、罠を見つけたり解除出来るメンバーがいれば《カラフルワールド》もBランクダンジョンに挑戦しても良いのかなと思っていたんだ」
「でも、そうなると《カラフルワールド》は七人になってしまうわよ」
「まあ話し合って、一人は《千紫万紅》に来てもらうことになるかな?そこは会議で決めるしかないだろう」
電車で話をしながら京都の拠点に帰り着いた。そして留守番をしてくれている正輝と一緒に岡山のクランハウスへと移動する。緊急クラン会議を始めるために皆を集めた。最初に真姫に今日のいきさつを説明してもらった。
「《花鳥風月》はダンジョンへの立入禁止が言い渡されるかもしれないんだ。そこで僕は皆でBランクの福岡ダンジョンに篭って《千紫万紅》は完全攻略を、そして《カラフルワールド》は低階層での実力強化をしていきたいと思っている。皆はどう思うか意見を出してほしい」
「福岡ダンジョンに篭るって、ダンジョンからは出ないということでしょうか?」
「今回の探索者省と自衛隊との話し合いのもとになった携帯ハウスを使って、《千紫万紅》が完全攻略するまではずっと居続けようと考えているよ。携帯ハウスってこれなんだけどね」
実物を収納の腕輪から出して皆に見えるように置く。見た目は手の平に乗るサイズのミニチュアハウスだ。
「玄関の所にあるボタンを押すと小さな家ぐらいの大きさになるんだけど、中に入ると広いんだ。八畳程の広さの部屋が六つあって、それ以外にも広いリビング、ダイニング、キッチンが備わっている。明るさも調節できるし、風呂も完備されているから生活には困らないと思うんだ。コンセントもなぜか付いているから家電も使えると思うよ。まさに謎テクノロジー満載の家なんだ」
「あのー、ちょっといいっすか?繋ぐ札を使えばその携帯ハウスとここのクランハウスが行き来出来るんじゃあないっすか?」
「えっ、そこまで繋ぐ札は万能なんだろうか?ダンジョンの中とクランハウスが繋がるなら探索者にとって最強のマジックアイテムだよね。試してみないと分からないが、出来るなら凄いよね」
「携帯ハウスはダンジョンの中で使っても安全なのか?魔物に壊されたら洒落にならないぞ。まあセーフティーゾーンなら問題ないのか?」
「いや、セーフティーゾーンで使うつもりはないんだけど………携帯ハウスは結界が張れるらしいんだ。実際に使ってみないと分からないが、あまり人目に付かないところで使うつもりだよ。夜にダンジョンの探索をするパーティは少ないだろ。その夜にセーフティーゾーン以外で使用すれば、他の探索者に気付かれないと思うんだけどね。携帯ハウスは世那さんや美紅さんはダンジョン探索においては夢のような性能を持っているマジックアイテムと言っていたよ。Aランクダンジョンの探索の為にも性能を確かめておきたいのもあるしね」
「麟瞳、どうして福岡ダンジョンにしたんだ?」
「えっと、福岡ダンジョンは美姫と詩音が三十階層で失敗しているダンジョンなんだ。そこを完全攻略出来れば二人にとって自信が付くと思う。それに関西圏から遠いのも都合が良いと思っているんだ。もしもクランハウスと行き来出来ても外出は禁止にするよ。とにかく探索者省と自衛隊にはAランク探索者が増えるまでは接触したくない。BランクかAランクのダンジョンで遊んでいろと言われたんだ、腹立つよね。誰にも文句を言われない力を付けたい。そのためにもまずはAランク探索者を増やすことが先決だと思っている」
「《カラフルワールド》はBランクダンジョンで大丈夫でしょうか?まだ二つ目のCランクダンジョンの攻略中です。かなり不安に思ってます」
「真琴、この前一緒に姫路ダンジョンに行った時に、《カラフルワールド》はCランクダンジョンなら何処でも完全攻略出来ると感じたんだ。ただ斥候職がいないのが不安だから、《Black-Red ワルキューレ》さんに一人斥候職のAランカーの人を貸して欲しいと頼んだんだ。もしかしたら世那さんか美紅さんがついて来るかもしれないんだけど、そこはハッキリしてないよ」
「黒澤様や赤峯様と一緒に探索出来るんっすか。私、もう死んでしまうかもしれないっす」
「様って、詩音どうしたんだ?」
「昔から大ファンっす。美姫の《東京騎士団》よりも重症っす」
「大事なメンバーが死んでしまっては大変だ。もしもお二人のどちらかが参加してもよろしく頼むよ。ファンなら良いところを見せて誉めてもらうぐらいは活躍してほしいな」
「誉めてもらうっすか?私頑張るっす、死ぬ気で頑張るっす」
「だから、死なれたら困るからね。詩音も含めて《千紫万紅》の皆には期待している。福岡ダンジョンを完全攻略しよう」
「麟瞳さん、さっき話してた《カラフルワールド》が七人になってしまう話をしないといけないでしょ?」
「そうだった、《カラフルワールド》に斥候職の人を入れるとパーティメンバーが七人になってしまう。パーティメンバーは六人までと決まっているだろ、誰か一人は《千紫万紅》に入ってもらわないといけないんだ。《カラフルワールド》で話し合って決めてほしい」
「話し合う必要ない。綾芽で決まり」
「桃、《カラフルワールド》の探索のことも考えて決めないとダメだ。全員で話し合ってくれ」
「ボクも綾芽しか考えられない。《千紫万紅》はBランクダンジョンを完全攻略するんでしょ、今の実力で他のメンバーだと無理です。それに綾芽にはもっと上のステージで活躍してほしいと皆が思ってた。その斥候職の人はマスターが認めるだけの力があるAランカーなんですよね。ボク達もBランクダンジョンの探索にワクワクしてます。綾芽にもワクワクしながらBランクダンジョンの探索をしてほしいです」
綾芽と真姫以外のメンバーの気持ちは決まっているようだ。頷きながら山吹の話を聞いていた。
「綾芽はどう思っているんだ?」
「私は《カラフルワールド》の皆が心配だよ。いきなりBランクダンジョンの探索だと何が起こるか分からないから一緒に探索したいよ」
「綾芽、上から目線で心配してくれてありがとう」
「遥、私そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「冗談だよ。私達は大丈夫。この前の探索で、マスターも私の成長にビックリしたんだって、さっき真姫姉に聞いて私は有頂天になってるからね、まずはBランクダンジョンの低階層で力を付けて綾芽にはすぐに追いつくよ。ちょっとだけ待っててね」
「私も綾芽に《千紫万紅》で頑張ってもらいたいです。私達には真姫姉もいますし大丈夫です」
「真琴………真姫姉に頼るのはちょっと考えた方がいいと思うよ」
「綾芽!それはどういうことかな?!」
「冗談だよ。じゃあ《千紫万紅》には今回は私が参加させてもらいます」
なんだかアッサリ決まってしまったな。確かに実力的には綾芽が適任だと思うが、《カラフルワールド》が少し心配になるよね。
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