第151話 探索者省との話し合い・後編

「折角来てもらったんですが、携帯ハウスは絶対に手放しません。携帯ハウスは僕達がダンジョンで使います」 


 早く話を終わらせるために、携帯ハウスを売る意思がないことを伝えた。


「Sランクダンジョンの探索に絶対に必要なんだ。Sランクダンジョンから魔物が溢れたらどうするんだ?君のせいになるんだぞ」


 コイツは敵確定だ。何で僕のせいになるんだよ。


「ちょっと待ってな。何でSランクダンジョンから魔物が溢れるのが麟瞳のせいになるんや?アンタ等に力が無いのを麟瞳のせいにせんといてな」

「何だと!力が無いとはどういうことだ!」

「そのまんまや。アンタは弱い、声を荒げるだけで小物感丸出しやで。ほんま見とるだけで恥ずかしいわ」


 世那さん、あんまり煽らないでくださいね。もしかしたら、この人が一位の人かもしれませんよ。


城崎しろさきは黙ってろ。部下が失礼しました。私は今回の話の責任者になります、南山なんざんです。城崎は言い過ぎましたが、携帯ハウスが必要なのは本当です。レンタルでもいいので使わせてもらえませんか?」

「麟瞳、こう言うてるけどどうするんや?」

「レンタルも絶対にしません」

「どうして貸してくれないんですか?出来るだけのレンタル代は支払うつもりです。すぐに必要でも無いと聞いているんですが、お願いできないでしょうか」

「《Black-Red ワルキューレ》さんとの合同でのAランクダンジョンの探索ですぐに必要になりそうですし、それがなくても貸し出しをすることは無いです。一度手放した物を取り戻すのがいかに大変かを身をもって実感しましたから、一時でも手放すことはありません」


 大阪Sランクダンジョンの本は、青いオーガが僕の為に用意したものだった。元の《桜花の誓い》が倉敷ダンジョンを完全攻略した時に僕にプレゼントしてくれて入手したが、買取りでは僕の意志は関係なく、国に売却することが決まっていた。その時はSランクダンジョンを探索する自衛隊の為になるのならと納得した。しかし、青いオーガに会ってから本の閲覧をずっと希望しているが、なかなか許可されない。こんな事なら手放すのではなかったと今更後悔している。


「探索者省の藤林です。探索者省としても《花鳥風月》様には、自衛隊のSランクダンジョン攻略の為に是非ともお願いしたいと思っています」

「そう言われましても、絶対に売却も貸し出すこともありません」

「本当に困っています。国の為にもお考え直しをお願いします」

「国の為と言われても、絶対に考えは変わりません」

「探索者がダンジョンを探索しとる間に得たもんは、売るのも使うのも自由な筈や。麟瞳が自分で使う言うとんのや、もう諦めた方がええで。欲しいんなら、自衛隊も住之江ダンジョンを探索したらええやん。同じもんが出てくるかもしれへんで」


 世那さんの意見に大賛成、大きく頷いてしまう。


「Sランクダンジョンから魔物が溢れてくるんですよ。協力したいと思わないのですか?」

「全然思わないです。大体僕を責めるのはおかしくないですか?自分達でSランクダンジョンは探索するつもりです。魔物が溢れないように僕達が頑張りますよ」

「君がSランクダンジョンを探索するって、笑わせてくれるもんだな。Sランクダンジョンの探索は君が思っているよりもずっと大変なんだ、軽く言わないで欲しいな。君はAランクやBランクのダンジョンで遊んでいれば良いじゃないか?俺達にSランクダンジョンは任せてくれれば良いんだ。君は携帯ハウスを売れば良いんだよ。見たこともないような大金が手に入るんだ、それで満足してれば良いんだよ」


 本当に脳筋さんは腹が立つことを言って来る。対人用の【挑発】スキルのようなものでも持っているのだろうかと疑ってしまう。何でこの人を連れて来たんだ?自衛隊の考えがよく分からないな。それに十億円を見たこともないような大金って、普通はそうなんだろうが、僕にとってはそうでもないんだよね。


「本当に失礼な人だな。Aランクダンジョンの探索が遊びだって、君は民間の探索者全員を馬鹿にしているんだな。Aランクダンジョンを完全攻略してからそういう事は言った方が良いぞ。君には完全攻略は絶対に無理だ。弱いくせに大きな口を叩くのは良くないな」


 美紅さんもお怒りモードに入ってしまった。世那さんも美紅さんも脳筋さんを弱いと断言する。脳筋さんの顔の変化が凄まじいことになってきた。ツボに入ってしまった。もう我慢できないよ。


「ハハハハ、皆さんもう笑わせないでくださいよ。ハハハハ……」


 もう止まらない。可笑しすぎるよ。


「俺が弱いということがそんなに可笑しいのか?いい加減にしておけよ」


 貴方が弱いのかどうかは僕には分からないが、脳筋さんの顔が可笑しいんだよ。


「ハハハハハハ……」


 もう腹筋がもちそうにないぞ。その顔を早く止めてくれ、僕は笑い死にしてしまうかもしれない。


「マスター、笑い過ぎです。落ち着いてください」


 真姫が心配しながら声をかけてきた。この話し合いで初めての発言だ。それがこの言葉って………もう今の僕には全てが面白く感じてしまう。僕は箸が転んでも笑ってしまう女子大生になったようなものだな。僕が女子大生って………《Black-Red ワルキューレ》に入団できるかもしれないぞ、なんてね。もう精神がおかしくなってしまったのかな?止まらない。どうしたら良いんだろうか?


「ああー、死んでしまうかと思いましたよ。もう勘弁してくださいね」


 五分は笑っただろうか、やっと止まったよ。皆さん唖然としている。


「麟瞳、大丈夫か?」

「ええ、何とか立ち直りました。皆さん、もう僕を笑わせないでくださいね。特に城崎さんは変顔をしないでください。頼みましたよ」

「変顔なんかしてないぞ!」

「だからその顔を止めてくださいって言ってるんです。もう話は終わりましたよね。解散しませんか?」


 もうどうでもよくなったし、早く帰りたいよ。


「まだ話は終わってません。携帯ハウスをお貸しください」

「だから、絶対に貸さないとずっと言ってますよね。これ以上話をすることはないです」

「国が大変なことになるんです。お願いします」

「その話はもうしましたよね。何を言われても貸しません」


 自衛隊も探索者省も、もう諦めてよ。


「このままだと、クラン《花鳥風月》はダンジョンの探索を出来なくしますよ」


 ほう、今度は脅してきますか。


「藤林さん、それは探索者省の意見として捉えて良いんですね。何故僕達はダンジョンを探索出来なくなるんですか?国の法律でそんなことが出来るんですか?知りませんでした」

「そんなんが出来るんなら、ウチら《Black-Red ワルキューレ》もダンジョンの探索は日本でせえへんわ。探索中に得た物を無理矢理取ろうとして、拒否したら探索させへんておかしいで。これ聞いたら《東京騎士団》も同じ事言うと思うで、今電話して聞いたろか?」

「それはまずいですよ。《Black-Red ワルキューレ》と《東京騎士団》は日本のトップクランですよ。この二つのクランがAランクダンジョンから撤退したらそれこそ魔物が溢れることになりますよ」

「河口さん、Aランクダンジョンは自衛隊が遊びながら攻略してくれるらしいから大丈夫だろう。今回の発言は民間の探索者として聞き流すことは出来ない。《Black-Red ワルキューレ》は住之江ダンジョンからは撤退する。他のダンジョンに入ることも禁止するなら、海外にでも行くことにするよ」


 世那さんと美紅さんも本気で怒っている。滅茶苦茶大事になってしまった。でも、僕は意見を変える気はない。


 喧嘩別れのような終わり方になってしまった。最後は世那さんが追い返して話し合いは終了した。


 







 

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