第150話 探索者省との話し合い・前編

 《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスに四日連続の訪問である。四日の中で一番足が重かった。何で探索者省のお役人さんと話をしないといけないのか自分で納得できていない。唯一の救いは【話術】スキルを持っている真姫の存在である。真姫の隣で偉そうに頷いていれば良いような場面を希望しながらビルの中へと入って行った。


「龍泉様、今回の事は本当に申し訳ありませんでした」


 受付の夕風さんに話し合いの会場になる会議室へと案内されて入ると、いきなり岡山ダンジョン支部長の中里さんが謝ってきた。


「あれ、探索者協会からは中里さんが参加してくれるんですか?何か心強いですね。確かに今回の件で協会さんには腹が立ってますけど、中里さんは何の関係もないでしょう。顔を上げてください。今日はよろしくお願いしますね」

「今日は私と探索者協会本部事務長の河口が、話し合いに立ち会わせて頂きます。よろしくお願いします」


 もう一人の方は、皆生温泉ダンジョンのアクシデントの時にお会いしたお偉いさんだ。まあ、中里さんなら安心できる。僕達が会議室に入ったことが伝わったのだろう、世那さんと美紅さんもやって来た。


「世那さん、美紅さん、今日もお世話になります。よろしくお願いします」

「昨日も言うたやろ。ウチのせいでこうなったんや、麟瞳が気にすることあらへんわ。そちらがサブマスターの方なんか?」

「はい、私が何故かクラン《花鳥風月》のサブマスターをやっている橘真姫です。今日はよろしくお願いします」

「何度かお会いしてますよね。そんなに堅苦しい挨拶は無しにしましょう。私が《Black-Red ワルキューレ》のサブマスターの赤峯美紅です。そっちの自由人がうちのクランマスターの黒澤世那です。こちらこそよろしく」

「真姫は人との会話が得意なんですよ。今日は全部任せようかと思っています。僕は隣で頷く役を演じようかなと思って来ました。真姫、よろしくね」

「マスターは何を期待しているんですか?私の【話術】スキルはうちのお店の酔っ払い相手に鍛えたものです。探索者省の方が酔っ払っていれば軽くあしらうこともできるでしょうが、そんな状態では絶対に来ないでしょう。今日はマスターの隣で私が頷く役を演じますから、よろしくお願いしますね」


 何ということでしょう、事前の計画が音を立てて崩れてしまいました。胃が痛くなってきたよ。


「麟瞳、いつもとは違うおもろい顔になっとるで。昨日言うてたように、携帯ハウスを売らんことを言えばええやろ。あんまり気にせんでええと思うで」


 僕はいつもどんな面白い顔をしているんだ?お役人さんが来るまで、気を紛らせようと雑談をしていたが、本当に胃が痛くなってきたよ。まだ始まってもいないけど、早く終わらないかなとそんなことを考えていた。そこで内線電話が鳴り響いた。


「マスター、探索者省の方と自衛隊の方がいらっしゃいました。お通ししてよろしいですか?」

「何で自衛隊が来るんや?今日は探索者省と話をする筈やで。夕風、探索者省だけこっちへ連れて来てな」


 夕風さんは指示通りに探索者省のお役人さんだけを連れて会議室へとやって来た。


「今日は自衛隊のお願いを聞いてもらう為にこちらに伺いました。一緒に話をさせていただけないでしょうか?」

「不正に入手した情報を元に無理を言うて来る自衛隊は無理やわ。今日は探索者省と話をするゆうことやったろ」

「そこを何とかお願いします」

「麟瞳、どうするんや?」

「しつこく来られても困るんで、一緒に話をしておきましょうか」


 制服を着たガタイの良い人とヒョロッとした人が二名会議室へと入って来た。このガタイの良い人が一位の人なのだろうか?美紅さんが主導する形で話し合いが始まった。


「それでは話し合いを始めようか。今回は龍泉さんが大阪住之江ダンジョンを探索中に得た携帯ハウスを自衛隊に売ってほしいということで、探索者省がクラン《花鳥風月》に連絡をしたことでこの場が設けられた。これで間違いないですよね」

「はい、その通りです。Sランクダンジョンを探索するためにどうしても必要だと聞いてお願いしました」

「取得したドロップアイテムの情報は秘匿される筈ですが、どうやって自衛隊はこの情報を得たのでしょうか?これは自衛隊の方と探索者協会の方に伺いたい」

「探索者協会からは誠に遺憾ではありますが、大阪住之江ダンジョンの支部長から自衛隊の方に情報が流れてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

「その通りです。支部長から情報を得ました。でもそのマジックアイテムはSランクダンジョンの攻略に絶対に必要です。譲ってもらえないでしょうか?」

「マジックアイテムの情報漏洩は探索者協会の規定に違反していますよね。この場合はどう処分されるんですか?」

「情報漏洩の支部長は懲戒解雇になりました。あとはその監督責任がある人に対して処分を行います。《花鳥風月》様や《Black-Red ワルキューレ》様にはどうお詫びしてよいか検討中です。今回の件、本当に申し訳ありませんでした」

「公万さんは懲戒解雇されたのか?こんなことでそんな重い処分をされるのか?おかしくないか?」


 自衛隊のガタイの良い人はマジックアイテムの情報漏洩がいかに危険なのかを認識していないようだ。この人は脳筋確定だな。


「こんなことと言うが、どれだけ危険なことに繋がるのか想像できないのか。支部長が提示した買取り価格は十億円だ。それだけ高額でも欲しいと思う人がいるんだ。不正な方法で入手しようとする人が出てくることも分からないのか」

「不正な方法で入手というのは自衛隊の事を指しているのか?」

「貴方はバカなのか?自衛隊は情報入手には不正な方法を使ったが、話し合いで物は入手しようとしている。私が言っているのは無理矢理奪おうとすることを言ってるんだ。泥棒に入るかもしれないし、力尽くでくるかもしれない。悪くすれば、死んでしまうようなことに繋がると想像できないのか?」


 どうも自衛隊の脳筋さんは想像力に乏しいようだ。美紅さんの話を聞いても首を傾げている。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る