第132話 入団テスト、そして不穏な決断
「やあ悠希、久しぶりだね」
「なんや、麟瞳もテストを受けに来たんか?お前ごときが受かるはずあらへんやろ」
入団テスト会場で元パーティメンバーの真中悠希にバッタリ会ってしまった。今日はツイてない日で確定だ。悠希の口は相変わらず絶好調のようで、一年経っても僕の扱いは変わっていないようだ。
結局、あの会議の日に《東京騎士団》の選考方法として決まったのは、僕を基準にして合否を決めるのではなく、体力測定の種目を減らすこと。種目を減らすことで短時間で合否を決めることが出来るようになる。
種目は四つだけ、そのうち受験者はたった二つの種目だけを受けて、合否が決定される。
全員が受けなくてはいけないのが五キロの持久走。前衛、後衛、職業などによって合否の基準を変えるらしいが、《東京騎士団》に入るためにはどの職業でも一定以上の力を持っていないといけない。その基準に達しなければこの種目だけでおしまいになるそうだ。
持久走のテストをクリアした者は次の種目へ進む。アタッカーなら物理攻撃力測定、魔法使いなら魔法攻撃力測定、タンクなら防御力測定。この三つの測定で基準に達していれば午前中のテストは合格となり、午後のダンジョンでのテストを受けることが出来るようになる。斥候職や支援職業でも最低の攻撃力は持っていないと合格は出来ないらしい。
「龍泉君はテストに参加するんだから、合否の基準は教えられないよ」
合否の基準を聞いた僕に、榊さんが言ってきた。なんで僕がテストを受けるんだ?入団する気は全くないのだが。
「僕は《花鳥風月》をやめる気はないですよ。いくら《東京騎士団》でも入らないです」
「それは残念だけど、君にテストを受けてもらうのは周りに実力を見せつけてほしいんだ。君は各テストの最初の受験者だ。その君を見てもやる気を失わない者だけテストを受けてもらえば良い。中途半端な意思で受験されても困るからね。君のことはどのように扱っても良いと世那さんから言われているんだけど、大丈夫だよね。まだ余裕がありそうだったし、今日より速く走ってもらっても良いから、派手な活躍を期待しているよ」
「僕にタンクの役は無理ですよ」
「勿論それはしなくて良いよ。やりたいのなら、やってもらっても良いんだけど、やってみる?」
「いや、遠慮しておきます」
ということで、僕は合同入団テストを受けることになった。これからいろいろとお世話になりそうだから、役に立てるように頑張ろう。
「リーダー、頑張ってね!」
今日は何故か僕には応援団が九人いる。テスト後の合格パーティーに《花鳥風月》のメンバーは参加していいと世那さんから言われている。《東京騎士団》の熱狂的なファンがうちのクランメンバーにいるから、事前に僕から頼んでおいた。
「それではこれより入団テストを始める。悔いのないように全力で頑張ってくれ。テスト内容は先ほど渡した案内に書いてある。番号順にテストをするから、時間は守るように。女性は屋内のテスト会場へ、男性は屋外のテスト会場に別れてはじめる。では移動して始めるぞ」
開会宣言を《Black-Red ワルキューレ》のサブマスターの美紅さんが行い、入団テストが始まる。男性は全員持久走から、陸上トラックを使っての五キロ走だ。
僕の受験番号は一番、最初の組で走る。一組は三十人。この持久走だけで、テスト時間のほとんどを使うことになる。派手な活躍を期待されている。頑張りましょう。
マジックアイテムはすべて外して《東京騎士団》の係の人のチェックを受けてスタート地点に並ぶ。スタートの合図とともにダッシュする。雷魔法を纏い、この前よりも速い一周八秒ペース。どんどん周回遅れにしていく。十二周と半分走りきって1分39秒98の自己新記録。周りの受験者も唖然としている。
「麟瞳、お前反則使ったやろ」
悠希は僕のことを認めたくないんだ。
「そんな訳ないだろ。ちゃんと事前のチェックは受けた。悠希は《東京騎士団》のすることが信じられないのか?反則だと思うなら、《東京騎士団》の人に言えば良いだろ。まあ精々悠希も頑張れよ。まさか僕より遅いことはないよね」
いちいち五月蝿い。さあて、【疾風迅雷】ギフトを見せてもらいましょう。
悠希の番だ。スタートの合図とともにダッシュする。一瞬の速さは流石である。一周する前に休憩が入る。休憩後に走り出す。アイツは何をやっているんだ?ダッシュと休憩を繰り返し、ついに五キロを走りきった。タイムは11分38秒64だった。一緒に走った組の中では一番速かったが、スキルを鍛えてないから情けないことになるんだよ。もっと持続できるようにしないと沢山の魔物と戦えないだろ。Aランクダンジョンの失敗が全然成長に繋がっていない。ガッカリしたよ。
持久走だけで残った人は最初の四分の一程の人数になった。次の種目が始まる。まずは物理攻撃力測定からだ。ここでもマジックアイテムの使用は許されない。
まずは受験番号一番の僕から、木刀を持ってスタンバイ。開始の合図とともに的へと高速移動で近づきそのままスピードを持続させて木刀を振り切る。的に当たった瞬間木刀が粉々になった。測定値は35,068と出た。この測定機器は初めてである。良いのか悪いのかよく分からない。そのまま、魔法攻撃力測定に向かった。
魔法攻撃力測定を受ける人は五人だけだった。それだけ魔法使いは少ないんだ。ここでも受験番号一番の僕が最初だ。ファイヤーアローとサンダーボールで迷ったが、インパクトを考えてサンダーボールを発動した。測定器の的に轟音とともに着弾し、測定値は29,845。物理攻撃力の値の方がかなり上になった。
僕の午前中のテストは終わった。テストの結果をクランメンバーと御昼御飯を食べながら待つとしよう。
午前中の入団テストの結果が張り出された。どうしてダメだったのかを分からせるためだろうか、受験番号とともにそれぞれの結果も書かれている。五キロ走と魔法攻撃力に関しては僕が圧倒的な数字になっているが、物理攻撃力に関しては三万点台が五人いる。僕の35,068はギリギリ一番のようだ。男性の午前中のテストの合格者はちょうど十人だけしか残っていない。最終的には何人の人が残るのだろうか?
午後のテストは実際にダンジョンを使ってのテストになる。受験者全員が着替えをして、大阪のBランクダンジョンへとバスで移動した。
男性と女性の受験者をポジションごとに振り分け、そこに《Black-Red ワルキューレ》と《東京騎士団》のクランメンバーが入り臨時パーティが出来ていく。僕の臨時パーティは受験者は僕一人で残りのメンバーは黒澤世那、赤峯美紅、加納創一、榊伊織の四人………何を考えて編成してるんだよ!
「おもろいやろ。あんたのスキルの破壊力見たいしな。ドロップアイテムは全部麟瞳の物にするさかい、よろしゅうな」
完全に遊んでますよね。ん、ちょっと待てよ。良く考えれば、僕を除けば日本を代表する探索者が四人のドリームパーティじゃないか。それを特等席で見られるなんて、【豪運】スキルのおかげかもしれないぞ。
「それでは午後のテストを開始する。臨時パーティで探索をしてもらう。一階層から五階層までの探索をダンジョンに入ってから三時間以内で終わらせること。それではAパーティから順番にダンジョンに入って行くぞ。入る間隔は十分毎だ」
僕はAパーティ、一番最初にダンジョンに入る。ダンジョンの外側の扉を探索者カードを通してくぐり、転移の柱の前に来た。
「パーティ登録はするんですか?」
「当たり前やろ。ウチらはパーティ、命を預ける者同士やで。早うダンジョンカード渡してな」
四人でじっくり僕のカードを覗くのやめて欲しいんですけど。世那さんと美紅さんは僕のスキルは全部知っているでしょう。
「見たことないスキルばかりなんだが………」
「せやろ、【火魔法】と【投擲】以外は全部初めてやわ。最初聞いたとき、耳を疑ったで」
「絶対に他の人にしゃべらないでくださいね。お願いしますよ」
「後で、ウチらのダンジョンカードを見せるさかいな。おあいこや」
それはとても興味ある取引だ。探索者のトップのスキルを見ることが出来る。気合いが入ってきたよ。
大阪のBランクダンジョンは一階層から二十階層までは草原型でバッタ、ヘビのような草の中に隠れているような魔物から鳥のような飛行する魔物、そしてボアや水牛のような動物型の魔物が出てくる。
「とりあえず、後のパーティに追いつかれたら面倒や。麟瞳、次の階層まで早う行こうや。あんまり倒さんでええからスピード重視やで」
風魔法の靴に魔力を流し、魔物を躱しながら階段を目指す。どうしても戦わなければいけないものだけ戦い、次の階層への階段を見つけた。皆さん平気な顔でついて来る。
「ここからが本番や。好きに動いてええで。ウチらは見とるからな」
僕一人で戦うんですか?まあ四人にとっては取るに足らない相手なのだろう。僕は結構真面目に相手しないといけないように思う。【全探知】スキルで周りを確認しながら、魔法と刀で魔物を倒していく。
ドロップアイテムの回収は面倒臭いので腕輪の収納を使う。いろいろと秘密はバレているから今更隠してもしょうがない。ポーション、お肉、チーズ、角、皮そして魔石がドロップしている。
ドンドン階層を進めて五階層のボス部屋の前に着いた。
「大きい魔法で攻撃をしようと思います。耳栓をしてください」
皆さんに耳栓を渡して準備万端。僕を先頭にボス部屋に入った。扉が閉まり、僕は刀に魔力を流し雷魔法の斬撃を飛ばした。広範囲に広がりながら稲妻がはしる。姫路ダンジョンのボス部屋で練習したから、加減も上手くなった。討ち漏らしを刀で斬り討伐完了。ドロップアイテムを拾うのが大変なんですけど、手伝ってくれないんですか?最後に銀色の宝箱を開けた。宝箱の中からはポーションが五本とスキルオーブが出てきた。それらを回収し、僕の入団テストは終わった。
ボス部屋の奥の階段に近づいていく。違和感を感じた。伝えた方が良いのだろうか?
「あのー、ここの壁が通り抜けられるようになっています。どうしますか?」
「良く気づいたな。言われて初めて気がついたよ。【全探知】スキルなのか?結構探知には自信があったんだがね。君といると自信がなくなってくるよ」
美紅さんは気づいてなかったようだ。確かにほんの少し違和感を感じただけだった。
「隠し部屋なのか?当然行くでしょ。Bランクダンジョンの低階層でワクワクすることがあるなんて思っていなかったよ。いやー、本当に来て良かった」
加納さんの戦闘狂らしい本音がもれる。
「部屋なのか、通路が繋がっているかは分からないですね。青いオーガの時には通路が繋がっていましたが………」
四人の戦力を考えれば当然だが、壁を通り抜けて探索をすることに決まった。
さて、どうなることやら。
○●○●○●○●○●○●
「オウヨ、ヤツガオモシロイメンバートヤッテキタ。ココデ、サイゴノシレンヲカソウトオモウ。アノバショヲツカワセテクレ」
青いオーガは強く願い出た。
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