第131話 入団テストの方法
「麟瞳、あんた連絡しぃや。約束やったやろ?」
昨日、《Black-Red ワルキューレ》のクランマスターの世那さんから突然電話がかかってきた。
「僕から連絡しないといけなかったんですか?すみませんでした。よく分かってなかったです。何かありますか?」
「明日、来月の入団テストに向けてのミーティングをするんや。あんたにも手を貸してほしいんや。会議は朝の十時からやからな。待っとるで」
昨日の電話を受け、七月の最後の土曜日に《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスを訪ねた。
クランハウスのビルの中に入り、受付に向かう。
「ようこそ、龍泉様。マスターがお待ちしています。案内させていただきますね」
受付の女性に案内されて、クランマスター室にやって来た。部屋の中には先客がいて話し込んでいる様子だ。僕が入っても良いのだろうか?
「麟瞳、よう来たな。こっちへ来てな」
世那さんに呼ばれるままに近づいていくと、誰と話していたのか分かった。こういうのは事前に教えておいて欲しいよ。一気に心拍数が上がる。
「麟瞳、ここに座りぃや」
「はじめまして、龍泉麟瞳です。お会いできて光栄です」
目の前に《東京騎士団》のクランマスターである【一騎当千】の
「はじめまして、《東京騎士団》のクランマスター、加納創一です」
「はじめまして、サブマスターの榊伊織です。こちらこそお会いできて光栄です。今一番勢いのあるクランのトップに会えたんですから」
「そんな丁寧な言葉で話されるとこちらが困りますので、どうか普通に話してください」
探索者の頂点の四人が集まっている。もうパニックだよ。
「今日は何故僕は呼ばれたんでしょうか?」
「それは昨日電話で話したやろ。クランの入団テストのことや」
「そうですね。そんな話でしたね。入団テストに手を貸せという事でしたよね」
「そうや、あんたの希望で《東京騎士団》も入団テストをすることになったんや。責任とらんとあかんやろ」
「責任って何をすれば良いんですか?」
「まあ、そんなに急がんでええやん。会議はこの後や。まずは加納と榊と話をしよっか」
そんな大物と何の話をするのよ。四人のオーラに当てられてもう大変なんですけど。
「龍泉君、青いオーガの話を詳しく聞きたいんだけど良いかな」
榊さんが聞いてきて何の話か分かったよ。その話ですね。もう何度目だろうか?あの時を思い出しながら言葉を続けた。
「その話だと、青いオーガは龍泉君に会いに来たんだよね」
「そうですね、僕に強くなれって言ってました。理由を聞いても答えてくれませんでしたけどね。ガッカリしたとか言われて、最後には弱いから死ねって言われましたよ。滅茶苦茶理不尽ですね。今更腹が立ってきました。まあ、全然勝てる気はしないですけどね」
「そんなに強いの?是非戦ってみたいんだけど。Sランクダンジョンだろ、まだまだ遠いよ。伊織、何とか出来ないか?」
なんて無茶振りをするんだ。日本のトップもかなりの戦闘狂のようだ。あの青いオーガと戦いたいって凄いね。僕は一生会いたくないんだけど、でも会わないといけないんだろうな。
「他にもダンジョンを何処かと繋げる技術、宝箱の中身を自由に変えられる技術、マジックアイテムを無効化する技術、不思議なことだらけだ。その本には何が書かれているのだろうか?興味があるな」
「榊さん、青いオーガは自分のことが書いてあるように言ってましたから、少なくとも魔物の情報は書かれていると思います。でも、実際に見てみないと分からないことばかりですね」
時間になるから会議室へ移動しようということで、青いオーガの話は一旦おしまいだ。移動した先の会議室も大きかった。正面に世那さんと美紅さんが座り、その右隣に《東京騎士団》のお二方、そして左隣に僕が座る。会議に参加したのは二十名。全員が揃い会議が始まった。
今回は僕の希望を叶えるために、二つのクランが合同で入団テストを行う。合格した場合、女性は《Black-Red ワルキューレ》に男性は《東京騎士団》に入ることになる。《東京騎士団》は急遽の入団テストであり、しかも活動している場所とは別地区での開催、参加する人数の確保が心配されたが、流石は《東京騎士団》である。溢れるほどの参加希望者が集まった。
「今回はいつもの入団テストの倍以上の人が集まります。どうやって一日で合格者を決めるのかが問題です。いつもの方法だと時間がかかり過ぎると考えられます」
僕のせいで入団テストの根本から考え直すのね。本当にすみません。
「それは目処が立っている。こちらにいる龍泉さんが協力してくれるから頼ることにした。男性の参加者の基準を龍泉さんにする。体力測定の最初に男性は持久走をする。Aランク探索者なら同程度の記録を、Bランク探索者なら少し下の記録を出した者だけ続きのテストに参加させる。これだけで時間は大幅に短縮出来る筈だ。女性はいつもと変わらない方法で大丈夫だろう。龍泉さんよろしく」
「僕は全力で走るんですか?マジックアイテムやスキルは使うんですか?」
「今まで私達の入団テストの体力測定はマジックアイテムの使用は禁止にして、スキルの使用は自由にしていたが、確かに君がスキルを使ったら合格者が出ないかもしれないな。加納さんと榊さんどうしましょうか?」
「そんなに龍泉君は速いのかい?」
「多分僕がスキルを使ったら速いと思いますよ」
「いっぺん見てみたいな」
今回は男性の参加者が半分以上いて、最初にある程度減らさないと、施設の計測器等を使った測定で時間がかかり過ぎるらしい。本番の会場となる競技場を今日の会議の確認のため借りているということで、二十名を乗せたバスで移動する。他のことを先に決めれば良いと思ったが、最初にどれだけ残るかによって予定が変わるらしいので、皆で僕の走りを確認するということだ。
競技場に着き、運動できる服装に着替える。格好良いジャージはプレゼントしてくれるそうだ。ラッキーだね。
「このトラックで五キロ走ってもらう。靴はマジックアイテムではないよね」
「はい、違います」
「スキルを使って全力で走ってくれ」
言われた通り全力で走らなければいけないのか?全力だと魔力消費が激しくて何秒で魔力枯渇になるのか分からない。五キロを走りきるなんてあぶなすぎる。
「あのー、指輪のマジックアイテムは外さないといけませんか?」
「俊敏の指輪なのか?」
「いえ違います。魔力回復の指輪と魔力消費軽減の指輪そして魔法威力増大の指輪です。こちらの剛腕の腕輪も外した方が良いですかね」
「マジックアイテムを大量に身につけているんだな。とりあえず外してもらおうか」
「分かりました」
収納の腕輪以外は全部外した。では走ろうか。指輪がないから魔力枯渇には要注意だ。
スタートの合図と共に走り出した。雷を纏って走る。全力なんてとても出せない。手加減しながら一周を十秒ほどで走った。五キロは十二周と半分、二分と少しで走りきった。
「こんなん無理に決まっとるやろ〜!」
誰かの声が競技場の中に響いた。
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