第130話 姫路ダンジョンに出張

「麟瞳、悪いな。皆がやる気を出して休みがないんだよ。なんだが毎日ダンジョンに入るのが楽しみだった高校時代を思い出すよ。Bランクダンジョンの探索の件、もう少し待ってくれ。必ず一緒に探索するからな」


 正輝が電話越しに嬉しそうな声を響かせる。三人がやる気を出している理由が理由なので、罪悪感が襲ってくるが、本当のことを今言うわけにはいかない。後で誠心誠意謝ろうと思う。


 正輝が参加することもないのでBランクダンジョンの探索はお預け状態になっている。七月はクランの依頼達成は《Black-Red ワルキューレ》の依頼の一回だけのまま中旬になってしまった。Cランクダンジョンでクランの依頼を達成するためには、もうあの手段しかない。僕は一週間姫路ダンジョンに出張することにした。姫路に行くのは僕だけ、久々のソロ活動になる。


「じゃあ京都の拠点のことはよろしく頼むよ。夜の当番は二人以上でするようにね。それから………」

「リーダー、もう分かりました。心配しすぎです。リーダーこそソロでの探索なんですから気をつけて下さい」


 岡山のクランハウスでの朝御飯の時間に、僕が京都を一週間ほど離れることで気をつけることを確認していた。僕はこれから車で姫路に向かい、土曜日に岡山に帰ってくる予定だ。皆が繋ぐ札のドアをくぐり京都の拠点に出かけた後に、僕も旅立つことにする。


「母さん、食材は美姫に渡してあるからね。美琴さんもクランのことをよろしくお願いします」


 SUV車で姫路に向けてクランハウスを後にした。


 道中は流れる曲に合わせ歌う。止まっている車の中でノリノリに歌っている人っているよね。見かけると口パクしているように見えてなんだかおかしく見えるやつ。でも、歌っていると気持ちいいからついついやってしまうんだよね。


 高速道路を使うと姫路まではすぐだ。十一時前に姫路ダンジョンの駐車場に着いた。お昼にはまだ早いが、お弁当を食べて探索を頑張るとしよう。


「お久しぶりです。今日は他のメンバーの方はどうされたんですか?」


 僕達クラン《花鳥風月》は姫路ダンジョンの探索者センターではちょっとした有名人である。顔馴染みになった受付嬢は結構多い。


「今日は僕一人で探索します。入場受付をお願いします」


 ソロということで、心配されたが大丈夫、六階層から十階層しか探索しないからね。ボス部屋も大きい魔法を一撃入れるだけでほとんど終わってしまうよ。


 ダンジョンの中に転移してすぐに探索を始める。狙うのはキラーアントとマザーアントのみ、高速で走り抜けながら、大物だけの相手をする。当然周りにいるアリは倒していくが、大物がいない集団はパスして先を急ぐ。ボス部屋の前に着いた。三組の順番待ちだ。パーティメンバーがいると待ち時間もそれほど長く感じないんだけど、一人だと長い。水分補給をして待った。


「Aランカーの人だよな。俺達のこと覚えてないか?」


 初めてここのダンジョンに来たときに話し掛けてきた《白鷺騎士団》の方達である。


「お久しぶりです。食べ物屋の情報提供ありがとうございました。おかげで美味しい料理を食べられました」

「美味しいと思ってくれたら良かったよ。今日はソロなのか?流石Aランカーは違うね。俺達は結構大変なんだけどな」


 順番待ちの間、話をして時間潰しになったよ。ありがたいね。《白鷺騎士団》はもう最後のボス部屋を残すだけになっているらしい。そこを超えれば念願のBランカーだと力を込めて言っている。


「最後のボス部屋はどうだった。もう完全攻略はしてるんだろ」

「最後のボス部屋は洞窟シルバーウルフと洞窟ビッグベアですよね。僕達は先に洞窟シルバーウルフを倒してから、他の魔物を倒して、最後に洞窟ビッグベアの相手をしましたよ。多分洞窟シルバーウルフの速さが一番厄介だと思います。あれに自由に動き回られると気になりますから」

「やっぱりそこか?俺達だと待ち構えて盾で防いで攻撃を入れるしか出来そうにないな。集団との戦いで他の魔物をもっとスムーズに倒せるようにならないと攻略は無理そうだな。ありがとう、参考になったよ」

「いえいえ、役に立ったのなら良かったです」


 ボス部屋での戦闘は予定通り、刀の雷魔法で一撃入れてから始めた。ほとんど時間を使わず討伐完了。宝箱から大きな宝石が出てきて一安心だ。ドロップアイテムの中にも宝石は出てくるが、なかなか依頼を満たす大きさの物はないんだよね。今日は二度周回した。待ち時間がなければと思うがこればかりはしょうがない。明日は朝一番から探索を始める。何回周回出来るだろうか?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 金曜日まで周回を続けた結果、宝石の納品依頼を十八回受けることが出来、多分その内の一回はオークションになるのではと支部長の藤尾さんが言っていた。大きい青いダイヤモンドが一個宝箱から出てきたんだ。今回も金属の延べ棒が出てきたが、希少金属ではなくただの金の延べ棒だった。納品依頼に使えない宝石と共に買取りしてもらった。またカードの残高が大変なことになった。オークションでもまた増えてしまうだろう。真剣に何に使うか考えないといけないな。


「麟瞳さん、やり過ぎよ」


 土曜日にクランハウスに戻った僕が、真姫に報告すると呆れられた。


 久しぶりのソロ活動を終えて、やっぱりパーティでの探索の方が良いと思った。来週の探索が楽しみになったよ。

 

 

 


 

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